AIを活用したイノベーション創出を目指すNTTPCコミュニケーションズが、学生向けのイベントに力を入れている。次代を担うAI人材の育成を支援し、イノベーション創出を加速させるのが狙いだ。具体的にどんなイベントを企画するのか。イベントの企画・運営に携わったNTTPCコミュニケーションズ 東海支店の亀谷淑恵氏に話を聞いた。
AI業界の最新事情を学生向けに発信
AI研究開発に欠かせないGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)の導入実績を積み重ねてきたNTTPCコミュニケーションズ。AIシステムを開発する企業や、AI導入を検討する企業などを対象にした支援プログラム「Innovation LAB」を立ち上げ、共創によるイノベーション創出をビジョンに掲げます。そんな同社が今、新たな支援の形として注力するのが学生向けのイベントです。2020年10月には「慶應義塾大学AI・高度プログラミングコンソーシアム」の法人会員に加盟。コンソーシアムに参加する学生を対象としたイベントを次々に企画、開催しています。
その狙いについて、Innovation LABを運営するNTTPCコミュニケーションズの亀谷淑恵氏は、「日本がこの先世界と戦っていくためには、専門的なスキルを持ったAI人材の拡充が急務となっている。めまぐるしく進化するAI分野においては、アカデミアのみならず企業や研究機関による育成支援も欠かせない。しかし、将来AI企業への就職を志す学生が、第一線で活躍するデータサイエンティストと触れ合える機会は、インターンシップなど限られた場にとどまっている。そこでまず、大学や学生との接点を増やすイベントの開催に打って出た」と言います。Innovation LABに参加する企業と優秀な学生とが直接対話することができる場としての用途も想定します。
2021年2月5日には、「いま注目のAI企業4社が語る、AI業界最新動向と求められる人材像」と題した講演会を開催。Innovation LABに参加する企業4社が、自社の事業内容やAI市場の動向などを学生向けに発信しました。
登壇した1社のニューラルポケット株式会社は、「AIを社会実装するためのキーワード」と題した講演を実施。「ドメインの汎化」などのキーワードを例示し、AI市場の最新動向やトレンドを紹介しました。具体的なAIの活用シーン、品質や予測精度を高めるポイントであるデータの集め方など、ビジネスにおいてAIを活用する上で見落としがちな点を指摘しました。
そのほか、株式会社モルフォ、株式会社Laboro.AI、株式会社ALBERTより、AIを使った画像処理の最新事例、AI開発を支える研究開発(R&D)の動向をテーマにした講演も実施しました。さらに4社が一同に登壇するパネルディスカッションも開催。「AI業界のキーマンが語る いま求められるAI人材とは?」という内容で、AIエンジニアに求められる能力やマインドセットなどを討論しました。登壇後には学生から質疑応答が途切れることなく続き、学生のAIに対する関心の高さがうかがえました。
イベントの企画・運営に携わった亀谷氏は、「学生にとって、講義では分からないAI業界の最新動向を把握する良い機会になったはず。“ぼんやり”だったAI業界を具体的にイメージしてもらえたのではないか」と、AI市場の現状を周知できた点を評価します。一方、登壇した企業4社についても、「4社とも同じAI企業だが、各社の特色や思いを明確に打ち出せた。登壇した企業からも、AI業界を志す優秀な学生と交流できる機会を持てたとご評価いただいた。」(亀谷氏)と言います。
学生参加型のコンテストで柔軟なアイデアを募集
NTTPCコミュニケーションズが打ち出す企画は、情報発信型のセミナーにとどまりません。2021年2月には、学生が参加する2つのコンテストも開催しました。2月12日には「ドメイン差異に対し高い汎化性能を持つAIモデルの開発」と題したプログラミングコンテストを開催。深層学習に関する環境構築や学習方法を理解する学生を対象に、AIを使って手書き文字の認識率を高める方法を審査しました。認識率がどれだけ向上するのかといった精度に加え、アイデアや面白さ、研究の緻密さなどを含めて総合的に評価しました。
同時期にもう1つのコンテストも開催しました。2月16日には、「『モーリー』を探せ!」と題したプログラミング&アイデアコンテストも開催。画像検出に関する環境構築やPythonプログラミングを理解する学生を対象に、人混みの画像の中から特定の人物を探し出す方法(プログラム)を審査しました。3つのレベルを用意し、指定した目立つ服を着た人を探し出すプログラム作成、事前に与えた写真の人物(複数)を探し出すプログラム作成、事前に写真が与えられず、プログラム実行時に与えられた写真の人物(複数)を探し出すプログラム作成が課題でした。
コンテストには約15人の学生が参加しました。「大学の教授に本コンテストへの参加を促されたわけでもなく、参加することで大学の単位を取得できるわけでもない。AIへの興味をもとに意欲を示してくれたのがうれしい」(亀谷氏)と述べます。
実際に学生が提案した手段やプログラムについては、「学生ならではのユニークなアイデアや視点を持ち、トライ&エラーの姿勢で解決を試みている点が興味深かった。一般的な考えにとらわれない柔軟な発想は、現場で活躍するデータサイエンティストにも十分参考になるのではないか」(亀谷氏)と言います。AIやディープラーニングが注目されるようになったのはここ数年であることから、「AI業界に限っては、システム開発の実務経験の長さやスキルは必ずしも役立たないと考える。情報は日々更新され、新たな論文も次々発表されているのがAI業界の実情。柔軟で斬新なアイデアを着想できる学生の考え方を取り入れた方が、AI業界自体の進化も加速するかもしれない」(亀谷氏)と学生に期待を寄せます。
イノベーション創出に向けた取り組みを加速
NTTPCコミュニケーションズは、今後も学生向けの企画を具現化させていく考えです。「今回実施したセミナーやコンテストは、慶應義塾大学AI・高度プログラミングコンソーシアムに参加する学生向けに企画したもの。今後はより多くの大学などにAIの魅力や可能性を発信することで、『共創』の輪を広げていきたい」(亀谷氏)と、これからの施策を視野に入れています。
もちろん、AI人材を育成することは手段にすぎません。同社が目指すのは、あくまでAIを使ってイノベーションを創出すること。そのための取り組みにも余念がありません。「Innovation LABというプロジェクトを発足してまだ1年余りだが、AI市場を拡大させるだけのポテンシャルを秘めていると思うし、その役割を果たせるプロジェクトだと自負している。Innovation LABで開発したサービスが地域の隅々まで使われるようになり、地方創生や持続可能な社会の実現に寄与できればと考える。そのための労力を惜しまない。産学官連携や地域連携…。さまざまな手段でイノベーション創出に貢献したい」(亀谷氏)と、イノベーション創出の可能性に期待を膨らませます。