「スマイル アフリカ プロジェクト」では、フロントランナーの高橋尚子さんといっしょに毎年、ケニアなどでシューズ寄贈を行っています。その活動も丸10年が経ちました。今年6月、ケニアのスラム地区・キベラを再訪。かつてシューズを渡した子どもたちのその後に、プロジェクトの成果を感じました。
子どもたちのその後の成長に、プロジェクトの成果を感じました。
「ここから始まったんだなあ」
川を一本隔てた向こう側に、隙間なく広がるトタン屋根の集落を眺めながらプロジェクトのフロントランナー・高橋尚子がポツリとつぶやいた。
2009年に「スマイル アフリカ プロジェクト」が立ち上がり、高橋とプロジェクトスタッフが日本からシューズを携え、最初に足を踏み入れたのが、ナイロビにあるケニア最大のスラム地区・キベラだった。
高橋は「スラムの子どもたちは、このシューズを喜んでくれるかなあ」と、半分は不安、半分はワクワクしながらの第一歩だった。
あれから10年が経った19年6月18日。シューズを寄贈された子どもには、成人した子どもも少なくない。「走る喜びを知り、オリンピックを目指している」という子どももいる。
その後、地区の様子はどう変わったのだろうか? プロジェクトスタッフもまた、不安と期待を抱えながらの再訪だった。
陸上を本格的に始めた子どももいます。
訪ねてみると、トタン壁や土壁の簡素な造りの家が押しくら饅頭のように密集し、足元はぬかるみ、ゴミが堆積し、家畜の糞尿が散在する環境に変わりはなく、今もそこに約140万人が暮らしているという。
そんな中にある小学校を訪ねた。当時の先生が笑顏で迎えてくれた。
「みなさんにはシューズの必要性、ありがたさを教えていただきました。シューズを頂き、その後、陸上競技の練習を始め、生活態度まで変わった子どももいました。感謝しています」
実際にその後、ナイロビなどで毎年開催している「ソトコト マラソン」に出場し続け、成果を挙げているという。
そんな彼らの後輩たちが、デコボコだらけの校庭で我々を歓迎してくれた。ダンスや歌も披露してくれ、子どもたちの明るさに思わず胸が熱くなる。
「私たちがここに来たのは2度目だよ。日本の友達からみんなにシューズを持ってきたよ。走ることを楽しんでね」
高橋の呼び掛けに、歓声と拍手が湧き起こる。シューズ寄贈では学年ごとに整列し、順番にそれぞれの足に合ったものをスタッフが履かせてあげたが、列の後ろで待つ子どもはシューズの入ったダンボール箱が気になり、遠目から覗くように見ている。
シューズを履いた子は幅30メートルにも満たない校庭を、校舎に体当たりでもするかのように全力疾走で駆け出す。どの顔にも笑顏が弾け、大騒ぎだ。なかにはスタッフの間を走り回りながら、「ここにジャッキー・チェンはいるか?」と声をかけてくる子もいた。彼には今も「アジア人=ジャッキー」らしい。
キベラ地区全体で見れば、衛生面での問題など、課題は山積みだ。ただ、人々は明るく、昔、シューズを受け取った先輩が、年下の「弟」や「妹」たちのためにと、シューズの入ったダンボール箱の運搬を手伝ってくれた。地区が一体となった、にぎやかで笑顏満開の一日となった。