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サスティナビリティ

東京大学未来ビジョン研究センター教授/グローバル・コモンズ・センターダイレクター|石井菜穂子さんが選ぶ、SDGsと地球環境に触れる本5冊

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「地球で起きている問題はすべてつながっています。気候変動というテーマを受け、まずはそれを理解してほしいと思い、本を選びました」と話す石井菜穂子さん。その言葉のとおり、さまざまな概念に触れながら地球環境について考察が広がる5冊が出揃った。

石井菜穂子さんが選ぶ、SDGsと地球環境に触れる本5冊

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(左上から時計回りに)1.『宇沢弘文の経済学 ─社会的共通資本の論理』/2.『小さな地球の大きな世界 ─プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』/3.『地球・生命の大進化』/4.『人類と気候の10万年史 ─過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』/5.『「地球システム」を科学する』 
「気候変動」について語るとき、化石燃料の話や二酸化炭素の排出量の話だけを持ち出しても問題の本質に迫ることはできません。根幹にあるのは、地球のキャパシティと人間の経済システムの衝突だからです。これまで地球は人間が何をしても柔軟に受け止め、自己回復できる力がありました。しかし、とくに産業革命以降の現代文明の急速な発展により経済活動を中心とする人間のシステムのほうが、地球の自己回復力よりも大きくなってしまった。その結果として、気候変動や生物多様性の喪失などのさまざまな問題が引き起こされているのです。

 こうした仕組みと地球の現状をわかりやすく教えてくれるのが、『小さな地球の大きな世界─プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』です。「プラネタリー・バウンダリー」とは、地球上で人間が安全に生存できる限界を表す概念で、環境学者のヨハン・ロックストローム博士をはじめとする科学者グループが提唱しました。この本で書かれている内容が私の活動の軸となっている、地球を人類の共有財産として捉える「グローバル・コモンズ」という考え方の土壌にもなっています。本書は、プラネタリー・バウンダリーはもとより、多数の要素が相互に影響し合い、全体として機能している「地球システム」の危機の意味やそれに対する私たちの選択肢についてもわかりやすく書かれており、気候変動や生物多様性喪失など地球環境問題をこれから学ぼうとしている人にまず読んでいただきたい一冊です。

 この本と併せて読むことでグローバル・コモンズの考えをさらに深められる、という点でおすすめしたいのが、経済学者の宇沢弘文さんの著書『宇沢弘文の経済学─社会的共通資本の論理』です。宇沢さんは1970年代の初頭から経済学の視点で地球温暖化などの環境問題に取り組んでこられ、炭素税の研究もされていました。本書では、「社会的共通資本」について詳しく書かれています。この概念の基礎は、自然環境や社会的装置(社会インフラや教育など)は社会が協調して管理すべき共通の財産だという考えであり、グローバル・コモンズの考え方にもつながります。宇沢さんは残念ながら2014年に他界されましたが、社会的共通資本は地球環境問題を考えるうえで今日に生きています。

 地球規模の問題は、気候変動をはじめとする環境問題も身近な社会問題も根っこでつながっています。人々がそれを理解し行動することで、人類の未来への新たな道が開けると思います。

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石井菜穂子(いしい・なおこ)●1981年、大蔵省入省。2012年、地球環境ファシリティCEO、2020年、東京大学理事、同教授に就任。人類の共有財産である「グローバル・コモンズ」の責任ある管理について、国際的に共有される知的枠組みの構築を目指している。
photographs by Yuichi Maruya text by Ikumi Tsubone
記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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