「家族とつながる」に特化したDXを進める背景
ソトコトNEWS イオングループにおいてキッズ向け遊戯施設を運営しているイオンファンタジーではどのようなブランドを展開されていますか?
浅田靖浩(以下、浅田) ターゲットを0~12歳までに設定しているゲーム機主体の国内遊戯施設「モーリーファンタジー」を全国430店舗で展開しています。また、保護者さまが買い物をしている間、プレイリーダーと呼ばれる保育士、幼稚園教諭の資格等を持ったスタッフがお子さまと遊んで待つことができる「スキッズガーデン」を全国56店舗で展開しています。
それ以外のブランドとして、子ども同士や親子同士の絆を深めることができる大型の時間制遊戯施設「キッズーナ」や、NHK Eテレの人気幼児番組とコラボレーションした「にこはぴきっず」、ヤングアダルト層も楽しめるようなゲームを用意している「PALO」といったサービスも展開しています。
ソトコトNEWS 私自身、子どもと一緒に行ったことがある施設もありました。これらの遊戯施設におけるビジョンとミッションについても教えてください。
浅田 イオンファンタジーでは、『子どもと家族のえがおのために、世界中に楽しい「あそび×まなび」を届けるオンリーワンのエデュテイメント企業』をビジョンに掲げています。当社はエンタテイメント企業ではありますが、少子高齢化が進んでいる中で遊びだけでは成長が見込めないということで、子どもたちに遊びを通じてさまざまな可能性を広げ、保護者さまにも子どもの成長を実感してもらえるようなサービスをお届けしたいということで、このようなビジョンを掲げるようになりました。
ミッションについては、このビジョンに基づいた4つの改革項目を挙げています。
1つ目は「あそびの場の進化の拡大」です。エンタテイメントからエデュテイメントに進化していくために、各ブランドにエデュテイメント要素を加えた形で進化をさせていこうとしています。またこれまで、イオングループの中にブランドを出店していたのですが、グループにとらわれず、さまざまな形で出店をするようになってきています。
2つ目が「ポートフォリオマネジメント経営」です。これまで私たちはエンタテイメント事業に「ヒト・モノ・カネ」を集中させてきましたが、オンライン事業の展開や、中国や東南アジアの6か国に海外展開するなど、どこに注力していくべきかということを中期経営計画に織り込ませていただいています。
3つ目が「フルデジタリゼーション」です。現在、イオングループでは総力を挙げてDXに取り組んでいますが、イオンファンタジーではなかなかデジタル化が進んでいませんでしたので、最先端の技術を含めて細かなところから変えてきている途上にあります。最終的には、お客さまに対するサービスの質の向上や新しい体験の提供を目的にしていますので、ただ単純にデジタル化ということではないのですが、デジタリゼーションを推進している最中となっています。
4つ目は「成長を支える人材・組織・風土改革」です。これらの4つの改革項目をミッションとして設定し、2021年4月から積極的に推進しているところです。
ソトコトNEWS 家族がつながるためにDX化を進めているということでしょうか?
浅田 イオンファンタジーではお子さまが来店したらスタンプを貯めていくことができるのですが、これまでは紙の会員カードしかありませんでした。しかも、保護者さまには何もサービスがありません。それをお子さまに対してはユニークQR付きの会員カードを提供する形へと変更し、保護者さまに対してはスマートフォンアプリで会員登録すると、お子さまと保護者さまとで紐づけができるようにしました。
将来的には、保護者さまが貯めたポイントをお子さまのカードに分け合って遊ぶといったことも考えています。デジタル化することにより親子がつながることができる会員制度に変えつつあるということです。
浅田 ソーシャルゲーム等の浸透でリアル店舗の売上が食われてきています。そこでイオンファンタジーでもデジタル領域へと広げていこうと、「モーリーファンタジー」のクレーンゲームをオンラインで楽しめる「MOLLY.ONLINE」を2018年からスタートしています。1年目の売上はかなり好調でしたが、2年目ではかなり苦戦し始めて。3年目の今は回復基調に戻ってきているのですが、オンラインビジネスは常にずっと新しい試みをやり続けなければいけません。それを止めた途端に右肩下がりで落ちていくということがわかりました。
鴨林広軌(以下、鴨林) Arentでは今、建設系のSaaSプロダクトを中心に手がけているのですが、以前はVR/ARを手がけており、その際にVR/ARゲームをいろいろと開発していました。
イオンファンタジーさんからお話しをいただいたのは、ゲームはゲームなんですが、リアルゲームのオンライン化。言ってしまえばゲームセンターのDXですが、リアルとデジタルを組み合わせることはVR/ARで必然的に行っていましたので、「対応できますよ」とお話しをさせていただいたのが最初の経緯です。
ソトコトNEWS Arentと一緒にDXに取り組んでみてどのように感じましたか?
浅田 私たちの側からどんどんオーダーを出していくのですが、それに対してはきっちりと対応していただき、確実に仕組みがレベルアップしているところは本当にありがたかったですね。作ったら作りっぱなしとか、「それはできません」とかは一切なく、しっかり対応していただいたことで、好調に戻りつつあるオンラインビジネスの根幹を支えていただいていると思っています。
DXでアミューズメント業界が目指す世界とは
浅田 保護者さまには、「昼間に体力を発散させて、疲れてクタクタになって家ですぐ寝てほしい」というニーズがあります。こういった基本的なニーズっていうのは大きく変わらないと思います。
ただ、イオンファンタジーがDXを通じてお客さまに提供していきたいのは、飛んだり跳ねたりしている行動そのものが、その子どもにとってどんな効果や意味があるのかを考え、よりフィットするようなサービスを提供していくことです。要は、その子どもに合った提案をそれぞれ個々にできるようになること。
これまでは、「遊んで疲れて帰りました」というだけだったものが、遊んだ体験の結果、その子どもにとって役に立つような、例えば運動教室や学びといった機会を提案できることを目指しています。
アナログだとそういったことはまったくできませんが、センサーやカメラなど、さまざまなデバイスを活用することでアミューズメント業界のDX変革を目指しています。
鴨林 エンタテイメントは“する”を楽しむより、“見る”を楽しむ人が今後はさらに増えていくと思ってます。例えば、野球やサッカーのようなスポーツは、明らかにやっている人口より見る人口のほうが多いですよね。見る人口が増える兆候のひとつとしてゲーム実況もありますし。
そういった意味では、現場で楽しんでいるのではなく、なんとなく楽しんでる風景の中に自分もいるというのもありなのかなと思っています。その要素は「MOLLY.ONLINE」にも入っています。ゲームプレイ中の様子は自分だけでなく他の人も視聴できるようになっていますし、同時接続すれば瞬時に世界中の人たちが見られますので、アミューズメント業界の未来もそこに感じています。
ソトコトNEWS 最後の質問です。親子や家族がつながるために、DXの切り口でどのようなエンタテイメントの世界を作っていけばいいのでしょうか?
浅田 コロナ禍が人に会えない状況を作りましたが、リモート会議をはじめ実際に会わなくてもできることが分かっちゃいました。でもそれを1年半続けてみると「やっぱり実際に会うのってすごく大事だよね」と会うことの価値も見直されています。私も父親と母親が九州にいて、会うのは数年に一回ぐらいしかないなか、家族が一緒になってどうやって“えがお”になれるのかということを考えています。
そこでイオンファンタジーでも、さまざまなサービスを通じて、お客さまを“えがお”にしたいと常に考えています。とくに子どもたちを“えがお”にすることで、20年後、30年後の社会は今よりもっと平和が溢れているのではないでしょうか。イオンファンタジーでは、そのことをパーパスとしようと考えており、それをどんどん砕いていくことで、SDGsまでつなげていこうと策定中です。DXがそこを根本的に変えるかまではわかりませんが、今よりももっと“えがお”が増えるんじゃないかなとは思っています。
コロナ禍を経験したからこそ、会えなかった人と接して笑うことが大事なことだと皆が考えていると思います。エンタテイメントの世界でその場をいかに提供していくのか。リアルに限らずデジタル領域も含め、それらを組み合わせることによって、より多くの子どもたちの“えがお”を作っていきたいですね。
ソトコトNEWS ありがとうございました。