2022年4月、鹿児島県薩摩半島南部の南九州市川辺町平山に複合施設『タノカミステーション』がオープンした。運営するのは付近で『グッドネイバーズ・ジャンボリー』や『リバーバンク森の学校』を手がけてきた『一般社団法人リバーバンク』。「ローカルフードをテーマに人々をつなぐ」をコンセプトにした、新しい場の可能性に迫ります。
街の特色を生かした場の コンセプトを探して。
同時に、この場所のコンセプトについても何度も検討が重ねられた。「ここにサテライトオフィスをつくる目的はなんなのか。最終的に目指すべきは人口流出を止め、賑わいを生み出し、誇りの持てる町にするということ。そのためには必ずしも企業誘致の道を通らなくてもいい。観光資源もそう多くないこの町が目指すべきものをと考えたときに、町の一番の強みである農業にフォーカスしたらいいんじゃないかって。実は川辺町のある南九州市は第一次産業がとても盛んで、 中でもお茶は、自治体レベルとしては日本一の生産量を誇ります。そんな町に、食をテーマに人がつながれる場所があったら、いろいろな可能性が広がるんじゃないか。たとえばレストランがあれば、日常的に人が訪れ、そこで川辺の農産物を使った料理を食べてもらうことできる。生産者も、自分のつくった農産物を実際に消費者が楽しむ姿を見ることで、新しい気づきにつながるかもしれない。シェアキッチンがあることで、生産者が六次産業化の取り組みに一歩踏み出すこともできるし、また食をテーマにした場を軸に、フードテック系の企業とつながることもあるかもしれない」。『タノカミステーション』の方向性が決まったのは2020年3月。長年使われていなかった地域の中学校の校舎をリノベーションする形で、2022年4月に施設が地域に開かれることとなった。
施設を開くだけでなく、 能動的なアプローチも。
他方、施設を開き、待っているだけでない。能動的なアプローチも仕掛ける。『グッドネイバーズ・ジャンボリー』や『リバーバンク森の学校』で、ボランティアをはじめとした「人のコーディネイト」などを担ってきた、『一般社団法人リバーバンク』事務局・末吉剛士さんは、『タノカミステーション』で目指したいのは「挑戦の連鎖」だと話してくれた。
「関係人口の創出に関する事業運営を念頭に、大きくは2つの方向性を考えています。一つが都市部の人材と、川辺地域の企業や農家、地域課題とをマッチングし、お互いにメリットを生み出していこうというもの。もう一つが、地域の若者に対しての育成的な文脈での取り組み。大学進学や就職のタイミングで地域外に出ることが当たり前の町なので、その前に、南九州市のよさや、地域で活躍している人などについて知ってもらい、地域を離れたあとも地域に関わり続けてくれるよう、今、地元の高校と連携して企画を考えている最中です。彼らの挑戦を引き出し、かつ想定外のつながりを生み出せる環境をつくっていけたら」。
レストランや、今年中に完成予定のブルワリー部分を手がける『合同会社Sidedon』代表社員・林賢太さんも、これまで坂口さんとさまざまなプロジェクトを共にしてきた仲間だ。「川辺は『グッドネイバーズ・ジャンボリー』で関わりがあって、思い入れもあったけど、イベントで盛り上がっているときしか見てこなかった。ここを開設するにあたって、地域の日常に目を向けたら、ものすごいポテンシャルが見えた。それを食やビールに生かしたいですし、それを地元の人たちと一緒につくっていきたいですね」。
坂口さんが考える プレイスメイキング術。
「コンセプトのもっと先にあるフィロソフィーを、言葉じゃなく、場全体で表現すること。マナーみたいなものを、その場の設えと、そこにいる人の態度や立ち居ふるまいとか、そういうもので緩やかにつくっていくというか。そうすると、”余白“があるのに崩れすぎず、”カオス“があっても、その中から対流が生まれて、自然と心地よい場の空気感が生まれます。あとは、コミュニティって中の人同士が仲よかったりすることが多いけど、それって外から見ると入りづらかったりすることにもつながる。そこを固定したものではなく、開いておく。そうすると、コミュニティの輪郭はゆるやかで境界ははっきりしていないけれど、熱いやつ、クールなやつの出入りが自由な場所になって、さらに”対流“が生まれていきます。ふわふわしているんだけど、一つの生き物のような運動体として回っていくというか。いい土があると、勝手に種が芽を出すみたいな。そういう場や、空間がいい。すごく抽象度が高くて、難しいことだと思うけど、何かを感じたらその答えは、こうだよねっていう自分なりの言葉で見つけてほしいですね」
『タノカミ・キッチン』
『サンカクビールワークス』
『タノカミ・フードラボ』
『タノカミ・サテライトオフィス』
記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。