「身近」に気づく、街歩き 。
サルが接客するということで外国人に人気の居酒屋があるというニュースを観た。
どうやら、サルが身近にいる日本は、彼らにとって不思議な場所らしい。調べてみると、確かにヨーロッパや北米にはサルは棲息していない。
初めてサルを見たのはいつだろう。家族で旅行に行った時、観光地でみかんをかっさらわれた記憶。学校近くの公園のサル山でバナナを投げた記憶。
どれが最初か覚えていないが、子どもの頃から身近にいたことだけは確か。
その公園の名前は『東山公園』と呼ばれ、路面電車の終点近くにある、岡山市在住だと誰もが知っている身近な近隣公園。
今回紹介するリトルプレス『おかやま街歩きノオト 第20号』にも掲載されている。
『おかやま街歩きノオト』は、東京の下町、人形町の商家で生まれ育ち、結婚とともに岡山に転居してきた福田忍さんが著者。
街を歩くと不思議なことだらけだと感じた福田さんは、疑問を図書館で調べるだけでなく、街歩きで出会った人たちに、話を聞き、街に潜むさまざまなことをまとめてきた。
今まで取り上げてきたテーマは、銭湯、水門、色街、坂、階段、用水路、橋、神社、産業遺産等々。
最新号の第20号の特集は「アートなコンクリートを愛でる〜公園編〜」。
残念ながら、東山公園のサル山のことは文章だけでしか触れられていない(サル山自体は既に撤去され、サルも飼われていない)が、岡山市内にある公園を見て歩いて、そこに現存する戦前の工作物、主に現場打ちコンクリートで造られたものを中心に紹介されている。
以前紹介した『ラヂオ塔大百科』に登場したラジオ塔や、不明だった工作物の正体が判明した経緯も掲載されている。『公園手帖コンクリート動物百景』に登場したようなタコや金魚を模した遊具も楽しい。
表紙にも写真が掲載され、誌面にも多く登場しているのが、主に戦前に造られたコンクリート製の滑り台。同時期に造られたものはデザインも施工方法も共通するものが多いことが分かる。
直線を基調に一部アーチなどを使われたアールデコを連想させるデザイン。現場で型枠を組み立て、セメントを流し込まれて造ったコンクリート製。表面の仕上がりも人造石研ぎ出し(表面が石を模して作られたコンクリート)で、今では失われたような職人の技が見て取れる。
公園がいつ造られ、どういう経緯を辿り今の形になったのか。遊具や不思議な工作物は何なのか。福田さんの「街歩き」により、身近な場所に何げなくあるものに、多くの人が関わり、込められた思いがあることに気づかせられる。
今月のおすすめリトルプレス
『おかやま街歩きノオト 第20号』
岡山を歩いて見つけた不思議の謎を追求したリトルプレ発行者:福田 忍2016年11月発行、150×210ミリ(40ページ)、450円
『おかやま街歩きノオト』発行者より一言
史跡探訪という郷土史的な堅苦しい視点にも、トマソン探しのような軽いサブカル視点にも飽き足らずに始めた活動です。身近な街並みに潜む古いモノから、意外に奥深い土地の歴史、時代の空気、人々との関わりなどが分かってくるとすごく楽しい。何もない街、平凡な町なんてない! とつくづく感じます。