自社工場を舞台にした取り組みとそこで得られた大きな手ごたえ―電気のプロフェッショナル・大崎電気工業のグリーン・トランスフォーメーション

自社工場を舞台にした取り組みとそこで得られた大きな手ごたえ―電気のプロフェッショナル・大崎電気工業のグリーン・トランスフォーメーション

2022.12.02

近年、耳にすることが多くなった「GX(グリーントランスフォーメーション)」。温室効果ガスの削減と、企業競争力の維持を両立させ、化石燃料ではなくクリーンエネルギーを主軸とする産業構造、社会システムへと変革を図る取り組みのことです。日本は2050年までにカーボンニュートラル・脱炭素社会の実現を目指していますが、まだこれらの言葉だけが独り歩きしている印象が強いのが現状です。ここでは、スマートメーター(電力量計)のメーカーである大崎電気工業の取り組みを通じて企業の取り組むGXの具体例を紹介するべく、大崎電気工業株式会社・生産本部で環境保全委員会の専門部会リーダーを川崎圭一さん、黒澤清久さん、生産本部長の高田俊明さんにお話しをうかがいました。

大崎電気工業は電力量計・スマートメーターを通じて「見える化」を実施してきた老舗メーカー

ソトコト 本日はよろしくお願いいたします。まず最初に、大崎電気工業さんと、主力事業であるスマートメーターについて簡単にご説明いただけますでしょうか。

黒澤清久さん(以下、黒澤) 大崎電気工業は1916年に創業し、1949年に電力量計を開発、それ以来、電力計測・制御技術の分野で活動を続けてきました。2008年に日本初となるスマートメーターを導入し(開発プロジェクトに参画)、現在に至ります。

ソトコト スマートメーターというのは会社や一般家庭において、消費電力を計る機械のことだと思うのですが、今までの電力量計との違いはどういったところにあるのでしょうか?

黒澤 スマートメーターの特徴として通信機能があることが挙げられます。これによって消費電力量をデータとして蓄積することが可能になり、電力の使用状況を把握することで以降の電気料金の抑制や節電につなげられるようになりました。

ソトコト ただ量を計測するだけでなく、それをデータとして活かせるつくりになっているんですね。

黒澤 はい、消費電力量を計るだけでなく、よりわかりやすく「見える化」して、役立ててもらえるのがスマートメーターです。大崎電気工業の仕事は電力量計やスマートメーターに代表されるように、常に「見えないものを見える化」にありました。

▲大崎電気工業が手がけてきた電力量計・スマートメーター。昔は使用電力を表示して電気料金の計算に使われていましたが、現在は通信機能なども持ち、使用データを蓄積するスマートメーターが一般家庭でも主流となっています。

大崎電気工業のGX取り組みへの経緯

ソトコト では次に、今回社内でGX化への取り組みを行なうことになった経緯についてお話しをいただけますか。

高田俊明さん(以下、高田) 今回、埼玉事業所の第七工場にお越しいただいてお話しをしていますが、今回のプロジェクト発足の契機は、この第七工場の消費電力量がやけに多いことに気づいたことでした。この第七工場だけで、埼玉事業所の電力の25%を消費していたんですね。

川崎圭一さん(以下、川崎) 工場というのは作業における無駄や、人員の無駄、あるいは部品の無駄をなくそうという意識は高いのですが、エネルギーの無駄については正直無頓着なところがありました。大崎電気工業では20年以上前から環境保全委員会を設置して、“エネルギーの見える化”に取り組んでいたのですが、「見るだけ」で終わってしまっていたんですね。しかし近年、脱炭素社会化などが叫ばれるようになり、電気料金の高騰などもあいまって、あらためて見直す動きが出てきました。

高田 現実的な事情のお話もしておくと、この埼玉事業所は国のエネルギー管理指定工場になっています。これはエネルギー消費量の多い工場に対して、省エネ措置の実施や燃料転換・稼働時間の変更などを定めたものであり、これに準拠した活動が求められていたということもあります。

黒澤 そもそもの話として電力量計やスマートメーターなどで「消費電力の見える化」を進めてきた会社ですから、それを自社でやっていないのは片手落ちになってしまいます。そういった複数の動機があり、GX化への取り組みを本格化させることとなりました。また、大崎電気では近年「O-SOL」というEMS(エネルギー・マネジメント・システム)の開発を進めており、これはスマートメーターよりもさらに包括的な電力消費の制御・管理を可能にするものなのですが、これの実証実験という側面もありました。

▲生産本部の高田本部長。大崎電気工業の生産技術部を経て環境管理責任者へ就任。2019年よりSDGsに関する社内研修などを発起、教育・PR専門部会でも社内報を発行し会社内でのSDGsにまつわるリテラシーの向上に取り組んできました。

自社工場の消費電力を徹底的にデータ化し、ロスを発見

ソトコト 自社製品の実証実験でもあった今回のGXへの取り組みですが、具体的な取り組み内容やその成果について、お話しいただけますか。

黒澤 今回、着目したのは工場の空調バランスでした。削減のポイントとしては時季に合った外調機と室内空調の省エネ化です。

ソトコト 外調機というのは、いわゆる空調とは違った働きをする機械なのでしょうか。

川崎 空調は空気調和機と言い、室内環境の温度や湿度、空気の清浄度などを管理して調整する設備のことです。外気調和機は、外の空気を取り入れる機器と風量や湿度を調整して室内に届ける機器、さらに、室内の空気を屋外へ排出するための設備が合わさったものですね。

黒澤 空調のコントロールというのはイメージがつかみやすいかと思います。室内の温度を適切に管理して調整する、いわゆるエアコンですから。今回着目したのは外調機のほうで、これに内蔵されているヒーターがあり、湿度のコントロールを行なっているのですが、このヒーターによる湿度調整の部分にロスがあることがわかったんですね。具体的に言うと、設定してある温度に対して、それより低い数値まで冷やしてから温度を上げることで調整を行なっていたんですね

高田 EMS「O-SOL」によってヒーターの稼働状況を可視化したことで、ロスを発見することができました。最終的に設定された温度になっているので正しく働いてはいるのですが、その過程に無駄があったわけです。温度はわかりやすいですが、湿度は見えにくい部分であり、こういう発見ができたのは大崎電気が計測器のメーカーであったこともプラスに働いたと思います。

ソトコト 確かに、設定した温度よりも一度低い温度にしてからまた温めなおしているということは、気づきにくいポイントですね。

川崎 一般的には電気の省エネを考えるときに外調機をいじるということはあまりないとは思います。第七工場でも、かつてはリモコンで冷暖を切り替える程度の操作しかしておらず、この機械が空調においてどういう働きをしているのかは、誰も詳細を把握しておらず、一種ブラックボックス化していました。これは大崎電気工業の「見える化」とは相反するものですから、しっかり調べてみることにしたんです。

黒澤 しかし、手当たりしだいに「ここを変えればいいかな?」と試していると、工場の稼働にも影響が出てしまうことが懸念されました。調整の過程で工場が暑くなりすぎたり、寒くなりすぎたりすることで普段の業務に支障が出てしまいます。その点も「O-SOL」によって、効率的にデータ蓄積ができました。

ソトコト 「電力量の調査をするので、この夏はずっと工場内が暑いままです!」と言われたら、従業員の方も困ってしまいますからね。

高田 自社システムを使用することで、不明点が出てきたりトラブルが発生したりした際に、迅速に「O-SOL」の開発に相談できた点も大きかったように思えます。すぐそばに信頼できる問い合わせ先があるので、新システムの導入に対する心理的なハードルは下がっていただろうなと。また、副次的な効果として「O-SOL」の開発部であったり、本社のGX推進部といった部門との連携が強化された点も挙げられます。環境保全委員会もそうですが、本来の業務とは別に携わっていることなので、どうしてもコミュニケーションが取りにくい面があったのですが、「O-SOL」を介して、ということであれば向こうもデータが欲しいわけで、自然と交流が深まっていきました。

川崎 本社にいるGXの担当者や電力管理担当者からのノウハウ共有も心強かったですね。今回、埼玉事業所第七工場からのボトムアップでのプロジェクトだったため、こういった協力を得られたことは幸運でした。

「見える化」された結果がモチベーションにもつながった

ソトコト では、実際にこれらの取り組みを経て、どのような効果があったのかをお話しいただけますか。

高田 2021年12月から22年9月の10か月で、毎月平均20%強の電力消費量を削減しました。最大でひと月あたり、40%の削減を達成しました。

ソトコト かなりの削減効果があったのですね。

黒澤 正直に申し上げて、ここまで大きな効果があるとは思っていませんでした。先ほどボトムアップのプロジェクトであったと言いましたが、こういった活動は意義があると言われつつも、あまり日の目を見ることは多くありませんでした。それは意義だけが先走りして、具体的な効果が見えにくいからだと思います。今回の実証実験ではそれをデータで示すことができたことが大きいと感じています。

川崎 「削減できるんだ」という手ごたえをデータという目に見えるかたちで表せたのは、取り組む側としてもモチベーションにつながるものでした。

高田
 ただ単純に「たくさんの無駄を減らせたこと」だけでなく、「これだけの無駄を減らせると、目に見えるかたちで伝えられたこと」が、古くから電力量計などを通じて“見える化”に取り組んできた大崎電気工業ならではの成果になったという手ごたえがありました。

▲実際の工場内での外調機の動きや各設定を確認する様子。日々データを取りEMSでフロア温湿度状態を確認し記録。データ管理し、今後の削減効果維持につなげる。

実証実験で得られたデータ・成果を社会に還元していくステップへ

ソトコト ここまで大崎電気工業のGXに向けた取り組みと、その効果についてお話をうかがいました。最後に、今回実証実験に使用された「O-SOL」などを用いた今後の展望などをお聞かせいただけますか。

高田 これまで大崎電気工業は、電力量計やスマートメーターと言った機器を製造している企業でした。しかし、今後はEMS「O-SOL」に代表される、エネルギーの管理システムを提供していきたいですね。この第七工場を「O-SOL」を使ったEMSのモデル工場として、ただスマートメーターを使ってもらうのではなく、社内の電力消費傾向のデータ採取から、電力の効率的な使用プランの提案までを含めたサービスを、脱炭素経営にお困りの企業に提供していければと考えています。

川崎 大崎電気工業全体のテーマとしてはいま高田が言ったことが目標となると思います。加えて、環境保全委員会としては“省エネ活動”というものをなくすことを目指しています。これは当然「もう省エネしなくていい」ということではなくて、省エネに携わるアクションが、取り立てて誰かがやるものでなくなるようにしたいということです。かつてはこうした環境保全などのポジションは、やや義務感からの取り組みというか、どうしても押し付けられた感の強いものでした。今後はリテラシーの向上によって、「無駄をなくしましょう!」とわざわざ声を上げなくとも無駄が削減されていくようになればいいですよね。そういった空気を工場内だけでなく、社内に、そして社会に広げていければと思っています。

黒澤 川崎も申し上げましたが、「やらされ感」の払拭がこれからの取り組みが次のステップですよね。そこで役に立つのが今回のような「見える化」であったり、オートメーション化にあると考えています。我慢を強いての省エネでは続きませんから「負担をかけずともできることですよ」と啓蒙していくことで、従業員誰でもが参加できるものにしていきたいです。

ソトコト 本日は、ありがとうございました。

▲生産本部の黒澤氏(写真:左から2人目)と川崎氏(同:中央)を中心とした、大崎電気工業の環境保全委員会。各々が通常の業務を果たしつつも連携し、今回、埼玉事業所第七工場のGXへの取り組みで大きな成果を実現させました。