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サスティナビリティ

連載 | 森の生活からみる未来

仕事はライフスタイルデザインの一つにすぎない❻

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「 ”生きる” とは何か?」
 
 これは、生まれてから死ぬまで、ぼくらが常に対峙し続けないといけない、根源的な命題である。

 この最重要テーマを、全6回にわたり、「仕事・健康・家族・お金・モノ・幸せ」といった複数の観点から、ぼくの独断と偏見で再考察してきた。そんな中、訪れたキューバでは、この議論の核心に触れるような、インスピレーションを得ることができた。それを整理しながら締めくくってみたい。

 旅から帰国した直後、 90歳のカストロ議長が天寿を全うされた。 1959年に、当時の米国の傀儡政権を追い出してキューバ革命に成功。国家元首になってから 50年以上、私利私欲に走らず質素な暮らしを続け、 最期まで国民から愛された。国の最高権力者としては、史上稀に見る高潔な政治家と言われる。

 米国に徹底的に嫌われたため、ソビエト連邦に経済援助を求めたことから、「テロ国家」というレッテルを貼られる。その後、米国が全世界的なネガティブキャンペーンを張り、経済制裁を行ったことで、この国は西側諸国から半世紀近く切り離されることに。昨年、オバマ大統領の尽力で両国は歴史的な国交回復を果たしたが、経済制裁は事実上まだ継続している。

 ぼくが訪れたのは、まさに ”開国前夜” というタイミング。そこには、貧しいながらも、50年前にタイムスリップしたような古きよき風景が広がっていた。

 1950年代のクラシックカーが街を走り、工事は基本、人間による手作業。車も道具もすべて繰り返し修理されて、大切に使われてきたことがわかる。

「仕事はライフスタイルデザインの一つにすぎない⑥」

 路上では裁縫の針が売られ、女性がそれを 1 本だけ買い、ていねいに包んで帰る。玄関で平らな鉄の棒を曲げ、別の部品に転換しようとする男性の姿も。

 長期間の” 経済&物流鎖国 ”を強いられてきたこの国には、わずかなモノしか流入してこなかった。 50年以上前に、すでにこの島国にあったモノを、リサイクル&リユースし続けるしかなかったのだ。そして、この地で生み出されるモノを、大切に扱うしか生きる手立てがなかったのである。

 国民の平均月収は3000円弱。お金もモノもなくて不便。人々の身なりも、持ち物も、道も、建物も決してピカピカではない。 

 でも、みんな家族や仲間を大切にしながら、のんびり楽しそうに、笑顔で生活している。

 治安は驚くほどいいし、国に支払う家賃は激安。基本的な食料は配給され、学費も大学までタダ。乳児死亡率は米国やカナダより低く、平均寿命も先進国並みを誇り、世界一と言われる医療も完全無料。

 幸福度が高いのは、最低限の生活保障がされているからか、はたまた年中温暖であることや、踊りが好きで陽気な国民性だからか。

「仕事はライフスタイルデザインの一つにすぎない⑥」

 もし、このまま米国と交流が進むと、モノやお金が大量に入ってくるだろう。有機率100パーセントを誇る畑も、農薬や化学肥料に侵されるだろう。他の途上国同様に、市民の” 物欲&独占欲スイッチ ”に火が付けられ、「物質&マネー至上主義」に走ってしまうだろう。人々は、心から楽しいと思えることよりも、お金を稼ぐために時間を費やすようになり、忙しくなって大切な人との時間や睡眠時間が消えてしまい、その結果、健康と心を失い、”人としての本当の幸せ ”を見失ってしまうことだろう。

 ただ、政治的、情報的、金銭的な自由度が低いキューバ人たちが「本当の幸せ」を手にできているかというと、それはわからない。対極の世界に生きる、ぼくら日本人が、「本当の幸せ」を手にできているかというと、それも疑問だ。

 ぼくらは彼らの100倍以上の平均年収を得て、世界トップクラスのモノと情報を得ているにもかかわらず、街を歩く人たちの表情は暗く、睡眠時間の短さは世界一、鬱病と自殺率も世界トップクラス。

 この「2つの両極端な島国」の在り方を検証することで、人類は本来どう生きるべきか、が見えるのではないだろうか。

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