「海なし県」の群馬県に生まれ、海に強い憧れを持って育った茂木みかほさん。神奈川県・三浦半島を舞台に、子どもたちに自然の素晴らしさを伝えています。茂木さん自身の仕事のスタイルや生き物との向き合い方、生き方にも影響をもたらした本がこちらです。
伝えるときに大切にしているのは、レイチェル・カーソンの名著『センス・オブ・ワンダー』にも書かれている、「知ることよりも感じることを大事に」という、自然と向き合う姿勢です。たとえば、磯観察で子どもたちは知らない生き物に出合うと、「これ、なんていう生き物?」と私に尋ねます。図鑑で調べると名前はわかりますが、そこで探究は止まってしまいます。だから私は、「3分間、この生き物を眺めてごらん」と名前よりも観察することを勧めます。どんな色や形をして、どんな動きを見せるか。目の前にいる生き物そのものを感じてほしいから。レイチェルも本のなかで貝や鳥、虫や植物など生き物の不思議さを甥っ子のロジャーに語りかけています。海に沈む月を眺めたり、夜の庭で虫の声を聴いたり、身の回りの自然と一緒に触れ合いながら感性を育むのです。
私も子どもの頃、新潟県の海辺や父の故郷でたくさんの自然を感じましたが、自然を「知ること」「伝えること」を仕事に決めたのは大学卒業後。自然を感じた経験があったから今があると思いつつ、もっと若いうちにレイチェルの言葉に出合えていたら、自分が進みたい道を早く意識できたのではと、ロジャーをうらやましく思いながら読んでいます。
三浦半島に暮らして10年以上が経ちます。仕事でもプライベートでも、三浦半島の自然と触れ合う機会が多いですが、その扉を開いてくれたのが、『三浦半島フィールドノート』です。サブタイトルにあるように、三浦半島での野歩きや海遊びの楽しみ方が見開きページに1つずつ、かわいいイラスト付きで紹介されています。「紫の汁で身を守るアメフラシ」や、「野山でできる苺狩り」や、「海藻標本を作りませんか」というページもあり、私はユカリという赤い海藻でつくってみました。ものすごくきれいです。海藻は水の中で広げるとその造形の美しさに感動します。植物の押し葉のようにケント紙に貼り付けて標本にすると、一つひとつ形が違って、その多様性に驚かされます。以来ハマッて、100種類ほどの海藻を標本にしました。そんなふうに、三浦半島の自然をこれ一冊で満喫できます。ぜひ、この本を片手に気軽に訪れてみてください。
白洲正子著、新潮社刊
西潟正人著、緑書房刊
目黒寄生虫館監、飛鳥新社刊
海洋生物学者の著者が甥っ子のロジャーとの体験から、生き物の不思議さに目を見張る大切さを伝えようと柔らかい言葉で綴ったもの。まるで、レイチェルから届いた手紙のようで、大事なものを思い出させてくれる本です。
三浦半島フィールドノート ─野歩き・海遊びのススメ/園田幸朗著、清水弘文堂書房刊
大好きな三浦半島の自然をまるっと一冊にまとめてくれています。ここに書かれている自然体験を、ぜひ皆さんも体験してみてください。著者によるイラストも素敵で、読めば生き物への関心や理解も生まれるはずです。