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連載 | デジタル地方創生記 くじラボ!

商売敵がタッグ!アナログ若旦那4人衆の旅館デジタル変革挑戦 山口県<後編>

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「デジタルx資本」で中小企業再建を手掛ける「くじらキャピタル」代表の竹内が日本全国の事業者を訪ね、地方創生や企業活動の最前線で奮闘されている方々の姿、再成長に向けた勇気ある挑戦、デジタル活用の実態などに迫ります。

前編に引き続き、山口県をこよなく愛する4名の若き旅館経営者にお話を伺いします。後編では、様々な業種で活用がすすむDXの導入について、それぞれの旅館が取り組むDXへの考えや取り組みについて迫ります。

(新型コロナ肺炎拡大阻止の観点から、山口県は訪問しておらず、オンラインでのインタビューです。)

目次

ホテル・旅館業界におけるDXのあるべき姿とは

竹内 引き続き、若旦那4人の取り組みについてお話をお伺いいたします。弊社くじらキャピタルは、デジタルと金融がオーバーラップする世界にいるのですが、我々が注目しているテーマの1つに「宿泊業者とOTA(Online Travel Agents = オンラインだけで取引を行う旅行会社)の関係」というものがあります。

大規模なホテルであったり駅前立地で競合が複数ある宿泊施設だと、OTAをうまく使うことで集客ができ、部屋数を埋めることができるので非常に助かるという話がある反面、部屋数が数十室規模の施設であったり、その立地にはそのホテルしかないといった方々からすると、OTAは掲載費用がかかる割には効果や客層がイマイチだね、という声も聞きます。

一方で、OTAへの依存を減らす為には自社サイト構築含め相応のデジタルリテラシーが必要ですし、自分たちで集客できる自信がないのでOTAへの不満はあっても離れられない方も多いと思います。皆様はOTAをどのようにご覧になっていますか?

深川一呂紀様(以下「岩国国際・深川」) ここ3年くらい、弊社としてはOTA対応にはかなり力を入れてきました。というのも、顧客層が団体から個人へシフトしていく中で、50室以上あるホテルについては、ある程度そういった業者に頼っていかないとなかなか集客が難しいという側面があるからです。

またオフ期(閑散期)の対策についても、インバウンド需要が増えると共にリアルエージェントからOTAへの移行の必要性を顕著に感じておりましたので、弊社としてはかなり力を入れてきました。

お客様が宿を選ぶ際は、自社サイトと共に各種OTAサイトを見比べられる方が大変多いので、やはりOTAにエントリーをしてOTA内での存在感、魅せ方というのをしっかり強化していかないと、引き込みが難しいのかなと思っております。

リアルエージェントさんの影響力が薄れ、OTAさんの影響力が増しているというのはもう誰がどう見てもそうですし、実際Go Toキャンペーンに対する予算消化率もOTAさんはかなり早くて、想定以上です。

岩国国際観光ホテル外観
岩国国際観光ホテル外観

岡藤明史様(以下「楊貴館・岡藤」) そうですね、弊社は結構変わっている宿で、リアルエージェントさんとのお付き合いがすごく少ないんです。売上の比率でいっても、お電話と自社ホームページ経由での直接予約が合計50%で、OTAが40%、リアルエージェントさんは残り10%いくかいかないか位です。

従って割とOTAさんからの売り上げ大きいのですけれども、先ほど申し上げた通り、どこどこの温泉地の中にありますよという宿ではないので、直接弊社のホームページで予約頂くか、あとは楽天やじゃらんを普段使われるお客様がその流れで予約をしてくださるというパターンが多いですね。

口コミを見て、どういうお宿なのかリアルな声を知ってから来られるというパターンも多いですし、また当館の場合、山口県の中の「萩・長門」というエリア区分に入っているので、当館だけが頑張るのではなく、萩・長門エリア全体が盛り上がるといいですね。本当は萩本陣さんを探そうと思っていた方が、「萩・長門」エリアでお宿を探した際に「あれ、海のそばでこんな宿があるんだ、夕日を見られる宿があるんだ、楊貴館というところもあるんだ」というパターンもあるので、その辺りがOTAの強みなのかなと思っています。

油谷湾温泉ホテル楊貴館外観
油谷湾温泉ホテル楊貴館外観

松村洋明様(以下「萩本陣・松村」) もちろん、OTAさんにやられてしまっているな、という気持ちもあるんですよ。手数料もジワリジワリ上げてきますし、条件が厳しくなったところもあるので。ただそれ以上にリアルエージェントさんの方がこれまで暴君だったので、OTAさんの方がまだ優しいという感じはあります。

それでもやっぱりOTAさんに払う手数料が嫌だという思いはあるので、今回のGo Toトラベルキャンペーンでも、1.5%の手数料で自社クーポンが発券できるサイトが立ち上がったりしています。営業利益率10% 、15%を目指そうとしている会社が手数料10%取られるという状況は考えものなので、この辺りは勉強していかないといけないな、という思いです。

萩温泉 源泉の宿 萩本陣
萩温泉 源泉の宿 萩本陣

竹内 最近は、「DX」という言葉が流行り言葉のように使われています。業種に関わらず、顧客接点から内部オペレーションまで一気通貫でデジタル化を進めていかないと売上も上がらないし、生産性も上がらないということで、政府も後押しして色々な取組を進めていますが、ことホテル・旅館業におけるデジタル変革についてはどう考えていらっしゃいますか?

梅林威男様(以下「かめ福・梅林」) そうですね、DXに関しては、それぞれのホテルさん・旅館さんの戦略やターゲットによるのかなと思います。例えば高級旅館の中に機械だらけ、AIだらけのものがあるとやはり人間味がなくなるので、それぞれのホテルさんの考え方次第だと思っています。

当社のホテルで言えば、もっとスマート化をして1円でも人件費を下げていきたいので、スマート・チェックインや、AIのお掃除ロボットなどの導入は前向きに考えていきたいと思っています。

さすがに「変なホテル」さんレベルまで尖ったものは作れないと思いますが、
弊社の顧客ターゲットと戦略にあわせてうまくDXを意識していきたいと考えています。

ホテルかめ福 外観
ホテルかめ福 外観

萩本陣・松村 今、梅林さんが言われた通りですし、先程のOTAさんの話もそうですが、宿としてどこを目指すかだと思うんですよね。

旅館の良さって、人を介した部分だと思うんです。「おもてなし」という言葉が流行りましたけど、付かず離れずの接客というのが旅館の良さでもあるので、そこを完全になくしてしまうのはどうなのかなと。

もちろん、これからどうやっても人口は減り続けますし、萩市内でも65歳以上の方が全体の50%を超える程高齢化も進んでいるので、そういう地域において今後どうしていくのかというのは早めに考えておかないと、そもそも働く人がいなくなってしまうかも知れないのですが。

竹内 私はDXについて講演させて頂くことも多いのですが、デジタル変革について勘違いされている方が残念ながら多いと感じています。

私が提唱しているデジタル変革は、「人間の労働力は非常に貴重なので、付加価値の高い業務に専念すべき」「人間がやらなくてもいい部分はデジタルで徹底的に置き換えるべき」というものです。

特にハイエンドな宿であればあるほど、人間力や情感が競争力の源泉になるので、そこに関しては当然人間力の高い方々の接客というのがどうしても不可欠です。そうではない部分、例えば経理だったり労務管理だったり総務だったり、デジタルで代替できる役割はデジタルに置き換えていきましょうということを申し上げています。

例えば予約受付業務に関しても、お客様の年齢によっては電話で取った方が良い場合はあると思うのですが、そうでない場合は全てスマホ経由で受け付ける仕組みを作ることで大幅な省力化につながります。

予約時の質問なども、検証してみると9割方は同じ質問です。皆様のLINE法人アカウントでも既に取り組まれているかも知れませんが、シナリオ分岐型のチャットボットを入れて定型の質問をさばけるようにすると、空いた時間でより付加価値の高い接客業務に注力できるようになるのではないでしょうか。

岩国国際・深川 自分が思っていたことを竹内さんが言ってくれたので、「すげーな」と思って聞いていました。先ほどの松村さんのお話にもありましたが、我々旅館業界は元々、人件費を含めた固定費が重たいので、これをどうしていこうかといつも悩んでいるのですが、少子高齢化の進展で労働力の確保が年々難しくなっています。

資本力のある会社さんであれば、宿泊施設というハード面を売るだけでも成立すると思うのですが、我々のような中小の宿泊業者で言うと、労働集約の中で人間を介して付加価値を生んでいかないと利益が作れません。そういった意味では、先ほど竹内さんが言われたように、「人間が要らないところは機械でやっとけ」「それ以外は人間が頑張る」という形でメリハリをつけないと生き残っていけないな、というのは常々感じているところです。

生き残りと、その先へ

楊貴館・岡藤 先ほどの「変なホテル」ではないですが、デジタルをがっつり使って人手を省くようなホテルが増える一方、おじいちゃんとおばあちゃんがやっている「電話でしか予約を受けません」というような家族経営の民宿もあると思うんですよね。

皆が横並びで同じことをやってもつまらないですし、地域や宿ごとに「ここはデジタルを導入するけど、この部分は大事にしていきたいので敢えてface-to-faceでやっていきたい」というように集中と選択をしていくのが大事かなと思います。

ホテル・旅館業は「売上が10億円ありました、利益率は60%です」ということはあり得ない業種なので、一軒でも生き残っていくためには、若手がいて柔軟に取り組める宿はDXに取り組んでいく。逆に、老舗でご高齢の経営者がやられているような宿は別の価値を活かしていくことを考えていかないといけないですね。

また、地域資源をどうやって活かそうかと考える時、我々オーナーに余裕がないとそこに割ける時間がなくなってしまうので、オーナーとして経営や気持ちに余裕を持つ、その上で柔軟に対応する必要があると考えています。

竹内 ありがとうございます。最後に、宿ではなく皆様個々人としてのこれからの夢や展望をお聞かせ下さい。

竹内さん

かめ福・梅林 コロナ禍でひどい経済状況ですけれど、まずはこの若旦那というグループが生き残ることですよね。

将来的には「馬鹿旦那」と言われるくらいもっと呑気にやっていくのが一番の目標ですが(笑)、本当の会社の理想としては、スマート化の推進ですね。今、私たちのグループにはゴルフ場や温泉施設などがあるのですが、先ほど仰っていた会計や経理のスマート化に向けて今まさにIT企業とグループを挙げて進めているところです。

将来的には人件費を下げ、業務を属人化させないことを目指したいです。それが持続可能な経営を進める上で大切だと思っているので、目先はそこが目標。その次はとにかく生き残る、そして地域に対してもっとアピールをして地域を盛り上げていく、といったところですね。

かめ福関連施設の「おんせんの森」では様々な動画が話題を呼んでいる
かめ福関連施設の「おんせんの森」では様々な動画が話題を呼んでいる

萩本陣・松村 今梅林さんがまとめられましたけれども、コロナの現状においてはまずは生き残るということですね。生き残った先どうするのか、これはなかなか難しい問題です。ワクチンが出来たらコロナ前の状況に戻るのかと言うと、そうではないと思うんです。だから、業界全体も私たちの企業も変わっていかないといけない。

今は丁度変えやすい時期にあると思うので、竹内さんが言われた通り、IT化できるところはIT化していく。どうしてもサービス部分はなかなかIT化しづらいところはあるのですけれども、その中でも効率化できる部分は結構あるので、そこをまず勉強していく。先行してそういうシステムを導入しているところには教えてもらい、当館でどうやった導入できるのか考える、といったところでしょうか。

この地域ではどうやっても人口は減っていくので、そこから「じゃあ」と考えても遅いので、必要なところには人間を配置し、そうでないところはどんどんITで置き換えていくことを今からやっていけば生き残っていけるのかな、と思っています。

TwitterなどのSNSでも様々な情報発信に取り組む
TwitterなどのSNSでも様々な情報発信に取り組む

岩国国際・深川 私自身の話をすると、コロナで大変気付かされました。それまでそんなに危機感を覚えることもなかったですし、ある程度真面目にやっていれば大丈夫かなという考えもあった中で、一寸先は闇というのを本当にひしひしと感じました。

自分自身もっと色々なことにチャレンジして前に進んでいかないと、良い歳の取りかたできんぞ、と。自分の息子にバトンタッチするまで企業を継続できるのか、我が事として衝撃的に思い悩むくらい様々な気持ちが去来したので、まだコロナ禍を抜けきった訳ではありませんが、コロナで大変学ばせてもらったな、というのがまず一つです。

今はwithコロナ時代と言いながらも、Go Toトラベルの好影響などもあって交流人口は戻ってきており、業界や人々の生活様式が変わりきるくらいの影響があったかというと、そうでもないと私は思っています。もう一回感染拡大局面がくる時には、本当にデジタル化に大きく舵を切っていくような経営判断をしなくてはいけないと思っています。

歳を取ったときに「こんな時代があったんだで」と色々な人に笑って話ができるよう、引き続き自己研鑽していきたいです。あとはコロナにかからないことですね(笑)。

地域の名産と絡めたお料理キャンペーンを展開している
地域の名産と絡めたお料理キャンペーンを展開している

楊貴館・岡藤 観光産業、特に我々のような地方の観光産業は、どうしても時代背景や社会情勢の影響を受けやすいんですよね。普段から人通りが沢山あったり地元のお客様だけで何とかなる宿でもない限り、外部からお客様に来て頂くという構造の中では、そこが止まるとかなり厳しいという事を今回のコロナで身に染みて感じました。

今回はコロナという敵ですが、3年5年10年という時間軸で考えた時には、また新しい困難がある訳ですよね。地震だったり、別の感染症だったり、他の自然災害だったり。それが全国的な規模だと今回のように様々な助成金や補助金をつけて頂けますが、それぞれの地方だけで起きた災害だと、ここまで大きいサポートがない可能性もある。その時に今回のチャレンジをしっかり活かしていきたいです。

今回、コロナで一番苦しかった時に足を止めずに取り組んだことが1つのターニングポイントになったと思っており、この困難の中でできたご縁を大事にし、「新しい価値を創造しよう」「この地にある旅館を守ろう」という自分との約束を果たしていきたいです。

先ほど深川さんが言われた「笑って話せる」というのは、約束を果たしたからこそ笑えるのだと思いますので、どんな困難が来ても、横のつながりを大事にしながらしっかりと乗り越えていくことを繰り返していきたいですね。

クラウドファンディングなどの返礼品に地域のお米作りなどにも励む
クラウドファンディングなどの返礼品に地域のお米作りなどにも励む

竹内 本日はありがとうございました。近いうちにぜひ、皆さんの宿にお邪魔させて下さい!

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