八倉巻恭子さんは「『終活』とは年齢や状況に関係なく、命に限りがあると自覚することでよりよい生を送るためのもの」と表現します。そんな「未来のための終活」を提唱する八倉巻さんが選ぶ、生と死を考えるための5冊の紹介です。
よく生きて、よく死ぬための終活には、周囲との関係を良好に保つことが不可欠です。ですが、自分の老いた親の終活に直面する場合は、必ずしも良好な関係ではいられないこともあります。『カツオが磯野家を片づける日』は、漫画『サザエさん』のキャラクター・カツオが成長して、老いた母・フネとの意見の食い違いに悩んだり、持ち家の相続をどうするのかなどを学んでいく内容です。この本は終活で必要とされる基本的なことが細かく網羅されており、現に、その状況に直面している人から、将来のために考えておきたい人にまで広くおすすめできます。この本の中でフネは物を捨てられず、カツオが座る場所もない家の片付けに奮闘します。実際に捨てられなかった物につまづいて怪我をしてしまい、そのまま寝たきりになってしまう老人は本当に多いです。そういったリアルな現実を「自分ごと」に近い感覚で理解し、いわば「予習」することができます。
自分自身の終活を考えるときに参考となるのが『僕の死に方』。自分の死をいかに前向きなものとして捉えられるか問われる内容の本です。これは、突然余命宣告をされ、41歳で急逝した流通経済ジャーナリスト・金子哲雄さんが、余命500日の間に何をして、どんな思いで悔いなく生きようとしたのかを綴っています。彼は余命宣告をされてもそれを隠し、内面の葛藤や家族を残す悲しみと闘いながら仕事を続けましたが、最後には死を受容し、死を「人生をリタイアした後の第二の現場」と表現して旅立つ決意をします。終活で大事なのは、その人がどんな死生観を持っているかです。死ですべてが終わると考える方にとっては、死は絶望でしかありません。金子さんは死を直前して、自身の会葬礼状を用意し、こう書きました。「死は第二の現場の出発点。見えないドアで、お世話になった皆さんに会いにいきます」。その前向きで勇気あふれる姿には感動を覚えます。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。