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25歳で田舎へ移住。土地を開拓しながら得たものとは

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3歳から8歳までをタイのバンコクで、9歳から22歳までを横浜で過ごした山本和志(やまもとかずし)さん。仙台で保育士として働いたのち、25歳で現在暮らす千葉県富津市の集落へやってきた。山の整備や小屋の解体、家の改修を行いながら暮らす28歳の山本さんに、集落での暮らしやここで得たものについて聞いてみた。

目次

空き家の持ち主を探せ!

DIYした家のなかで猫と寛ぐ

DIYした家のなかで猫と寛ぐ

改修が進んで薪ストーブも設置された部屋でコタツに入る山本さん
2019年4月、東京の保育所が所有する畑がある、千葉県富津市の集落に管理人として住み込みで働くことになった山本さん。住居は、保育所理事長の別荘だ。山の中の集落には美しい川が流れていて、天然のウナギも採れるという。理事長に地域の人たちを紹介してもらい、なじんでいくうちに「この集落に拠点を作りたい」と思った山本さんは、早速空き家がないか聞き込みを始めた。

「ねぇよ~」と言われたあと、「あ! そういえば……」と集落の人も忘れていた空き家の存在を思い出した人が。そこは40年ほど前に都会の人に売った土地で、別荘として使われていたが、利用者が亡くなってから20年ほど放置されていた。竹やぶに覆われ、集落の人からも忘れ去られていた場所だ。

購入当初の家の様子

購入当初の家の様子

購入当初の家の様子 写真提供:山本和志
山本さんは法務局へ行って持ち主を調べ、手紙を書いてやり取りを始めたが返事が来るまで待ちきれず、アポも取らずに持ち主に会いに行ったという。住所に記載されていた建物のエレベーターに乗って目的の階で降りると、エレベーターで一緒だった男性も同じ階で降り、山本さんが目指す部屋の前で止まった。その人こそ、忘れ去られていたあの土地の持ち主だったのだ。

2019年6月から家探しを始め、9月に持ち主の元へ会いに行き、11月には売買の手続きが完了。そのスピードに驚かされる。

井戸、台所、サウナをDIY

仲間と井戸掘りスタート

仲間と井戸掘りスタート

仲間と井戸掘りスタート 写真提供:山本和志
行動力のある山本さんは、持ち主の許可を得て9月から土地の手入れをスタートさせた。竹やぶに覆われた敷地内は成長した樹々がトンネル状になっていて、イノシシが泥を浴びる沼田場(ぬたば)になっていたそうだ。それらを伐採し、水路を掘ってドロドロだった場所の改善に取り組んだ。

水道がないため、仲間たちが集まって人力による井戸掘りを開始。4メートルを目標に、シャベルでひたすら穴を掘り続けて3日目、3メートル50センチほどで水が湧き始める。5日目にほぼ4メートルに達し、近所の助っ人さんの重機でコンクリートの井戸枠を設置してもらい、遂に井戸が完成! 飲料水は湧水を汲みに行き、井戸水は洗濯用、食器などの洗い物は雨水タンクを置いて使用している。

増設した台所にある釜戸

増設した台所にある釜戸

増設した台所
外に台所を増設し、もらい物の釜戸やシンクを設置して、釜戸で料理ができるようになった。家の前にはみんなで作ったピザ窯もある。いつ作られたかわからない梅干しや梅酒、来客用の布団など沢山の生活用品が散乱していた母屋のゴミ捨てから始まり、現在は囲炉裏と薪ストーブを設置して、ここでも料理が可能になった。そして、敷地内にサウナまで造っている。
DIY中のサウナ

DIY中のサウナ

敷地内の斜面を利用してDIY中のサウナ

相棒の犬、才蔵(さいぞう)との出会い

相棒犬のホワイトスイスシェパード

相棒犬のホワイトスイスシェパード

才蔵と山本さん 写真提供:山本和志
2020年3月31日、仕事を終えた夜から現在の家へ引っ越し、新生活をスタート。住み込みの管理人をしていた1年の暮らしで、この集落はイノシシや鹿、サルの被害が多いことを知っていた。山本さんは、集落の猟師から鹿やイノシシのさばき方を教わりながら狩猟の勉強もしていたので、狩猟犬を求めて知り合いに相談していたという。

引っ越した当日の夜、「殺処分されそうなホワイトスイスシェパードがいるので、山本さんどうですか?」との連絡を受け、翌日早速保健所へ会いに行った。「よかったら今日引き取ってもらって構わない」と保健所の人に言われ、山本さんは才蔵を引き取ることを即決。ここへ越してきた翌日から、一緒に暮らし始めたのだ。

相棒の犬、ホワイトスイスシェパード

相棒の犬、ホワイトスイスシェパード

そんな山本さんの一日の過ごし方を聞いてみた。

山本さん「今冬で、あんまり体を動かさないようにしてまして。体動かして働くのは一日2~3時間くらいかな。朝起きて裏山の木を切って薪割りをして。ご飯作って今、みたいな感じ。多分このあとは休むと思うから、かなりゆっくり過ごしてます。季節によってやらなきゃいけないことがあるなか、どうせ春がきたら忙しくなるのが分ってるから、冬は最低限やらなきゃいけないことを終わらせたら、脳みそを停止してゆっくり過ごすぐらいがいいのかなと思ってて。その分春夏は涼しいうちに草刈りして忙しくなるので」

現在は才蔵だけでなく、2匹の猫とニワトリ3羽も加わって、一段とにぎやかになっている。

ここでの暮らしで得たものは?

田舎暮らし 山の整備活動

田舎暮らし 山の整備活動

地域の人と山の整備へ 写真提供:山本和志
山本さんが暮らすのは、平均年齢65歳ほどの約15世帯の部落(班)だ。草刈りや空き缶拾い、川遊びや祭りなどの部落作業に参加し、地域にも溶け込んでいる。近所の人から、卵でご飯や具材を巻いた卵巻きや、ワラビなど季節の食材を差し入れてもらったり、車を貸してもらったり。「ぼくの暮らしは大分低空飛行でこの2年やっている」と山本さんは言う。そんなここでの暮らしで得たものは、いったい何だろう?

山本さん「世の中のことをいちから勉強できてるなって思ってますね。最初は衣食住のところだったんです。電気も来てなかったですし、床も水もなかったから。人間として生きるっていうことの一つ一つを、自分がつかみとれる範囲で経験して知れたことが一つ。ここでこうして暮らしていられるのは、ここに代々住んできた人たちが道を造って住処を造って、今なお住み続けてきてくれてるから、今ぼくが住めるってことだったり。電気も水道もガスも誰かがすごい一生懸命やってくれてるから、ここに届いているし。それが人間だけじゃなく、イノシシにも鹿にも虫にも樹々たちにもそれぞれの都合があって、生きているってことだったり」

移住・田舎暮らしを満喫中

移住・田舎暮らしを満喫中

最初は自給自足して、社会に捕らわれずに自分で暮らせるようなコミュニティを作れば、幸せなコミュニティ生活ができるのではないかと考えていたが、ここでの暮らしを通して、社会のことや世の中のことも見えてくるようになったという。

山本さん「全て経験を通して自分で考えてできたのは、この環境と集落の人たちのお陰。酪農をされている一次産業の人の話や、水道がなくて自分たちで通したときの話、人間関係に角を立てないように、一緒に生きる人たちに誠実であること。ここに来るまで経験できなかったし知らなかったから、以前は合わなかったら辞めればいいって思ってた」

この集落での暮らしで、世の中のことも自分のことも知ることができた山本さんは、今日も低空飛行で拠点作りを進めている。その様子は、「ちんたら放送局〜保育士が田舎に空き家を買って暮らす日常〜」で紹介している。荷物が山積みで床が腐っていたころの様子も映っているので、拠点の進化をチェックしてみてほしい。

写真:山本和志、鍋田ゆかり
文:鍋田ゆかり
取材協力:山本和志

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