『ポケットマルシェ』代表取締役/『東北食べる通信』創刊編集長/『日本食べる通信リーグ』代表|高橋博之さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊
まず、今の一般的な流通の市場は、生産する側から見たとき、顔が見えない不特定多数のお客さんたちがいるところになります。そこは価格競争の世界であり、コスト削減でしか勝負になりにくい世界です。反対に思いやこだわりのある生産者もいて、考えに共感したお客さんが買ってくれるわけですが、その絶対数が少なすぎて食べていけないというのが、これまでのパターンでした。『ゆっくり、いそげ─カフェからはじめる人を手段化しない経済』の中で著者の影山知明さんは、「顔が見えない不特定多数の市場」と、「顔が見える特定少数の市場」の間に、「顔が見える特定多数の市場」があるんじゃないかと言っていて、ご自身がオーナーのカフェ『クルミドコーヒー』で実現させています。
「顔が見える特定多数の世界」で重要なのは、お客さんに一人の人間として向き合い、手間と時間をかけること。影山さんの言葉を借りれば、消費者には、「消費者的人格」と、「受贈者的な人格」があり、前者は安売りなどに弱く、後者は買ったもの以上のものがプラスされると何かの形で返したくなります。これは第一次産業の世界でも同じ。つくるものが良質であるのはもちろんですが、生産者からちょっとした手紙やおまけの商品が入っていたら、お客さんはその気持ちを返そうとして、リピーターになったり、知り合いに紹介したくなったりするわけです。これを僕は、「真心マーケティング」と言っています。『食べる通信』や『ポケットマルシェ』を通じて、日本中の生産者と出会ってきましたが、コスト削減に走らずに少量多品種でやっていける農家さんは、そういういい関係をお客さんとつくれています。
こうした考えを具体的に農業に当てはめているのが『日本の食と農の未来─「持続可能な食卓」を考える』です。この本では、日本の食料自給率の問題や、これまでの流通の変化を伝えながら生産と消費がつながることが必要だと説いています。生産者と消費者の良質な人間関係がさまざまなところで生まれること。それが、最終的に流通業界全体を変えていくことにつながるのだと思います。