昭和の遺産をつくり替え、新しい家族旅行の形をつくる。
今回は、そんな昭和の遺産的巨大旅館の創造的継承のチャレンジを紹介したい。場所は三重県鳥羽市、駅近くの山に立つ旅館『扇芳閣』である。ある日、旅館を継いだ若き経営者の谷口優太氏から、森に子どもの遊び場をつくれないかという相談が私たちの事務所に舞い込んだ。話を聴いてみると、個別のアイデアはいろいろあるが、全体の構想はまだ固まっていないことが分かった。そこで、どんな旅館につくり変えるのか、構想から一緒につくることになった。コンセプトは「新しい家族旅行」。家族との旅行で、仕事をしながら、子どもと楽しく旅行ができる空間とサービスの提供。鳥羽・伊勢という観光地のブランドに頼らず、旅館単体でも子どもの一生の記憶に残るような旅の経験をつくることを目標にした。
空間デザインについては、何を変えるべきか、老朽化している部分を徹底的にリサーチした。運営方法の刷新に合わせて、インテリアデザインも一新。新旧の織り交ざりが価値となるようなデザインとした。経営の負担を考慮し、旅館を休業しない「居ながら改修」とした。
旅館再生の肝となる森の遊び場については、旅館スタッフでゴミを拾うことから始め、造園の専門家と何度も一緒に森を整えながら、この夏ついに、ツリーハウスやカフェ、散策路をつくる段階にまで辿り着いた。昭和から令和へ。日本の家族経営型旅館の継承のモデルになればよいと思って、コツコツ取り組んでいる。
ふじわら・てっぺい●建築家。1975年横浜生まれ。2009年より『フジワラテッペイアーキテクツラボ一級建築士事務所』主宰。2010年より『一般社団法人ドリフターズインターナショナル』理事。建築、地域計画、まちづくり、展覧会空間デザイン、芸術祭空間デザインと領域を越境していくプロジェクトを多数手がける。2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。受賞に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞など。