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多様性

連載 | 発酵文化人類学

発酵✕観光の新たな可能性。

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発酵×観光の新たな可能性。

つい最近まで、僕は渋谷ヒカリエで「Fermentation Tourism Nippon」という展覧会のキュレーターを務めていた。都道府県の知られざる発酵文化を紹介する企画だったのだが、単なる物産展ではなく、発酵という視点から日本を再発見してほしい。そして実際に発酵文化が生まれる現場を旅してほしい。そんなコンセプトで展示を組み立てた。

目次

発酵視点で旅する

僕は日々発酵の現場を訪ねて日本中、世界中を旅している。すると普通の観光では絶対に立ち寄らないような不思議な場所を訪れることになる。小さな離島や山の中の集落、数百年前から時が止まったような宿場町など。観光地とは見なされていないが、ローカルの魅力がいっぱいの場所が多いんだね。そして発酵食品の製造現場を訪ねてみると、これまた普段の生活ではお目にかからない光景をたくさん見ることになる。タンクの中でブクブクと蠢く醪、立ち上る湯気の中で微生物たちと格闘する醸造家たち、桶の中で食材が発酵していく芳しい香り……。工場の外に出てみれば、水の湧き出る森の奥、爽やかな風の吹く田んぼや畑、波の打ち寄せる港など、その土地の空気を味わえるロケーションに立ち会うことができる。

さらにその土地の醸造家と話をしてみると、何百年も前の古い歴史が、まるでつい最近のようにカジュアルに語られ、土地に流れる長い時間軸にごく自然にアクセスすることができる。発酵を訪ねる旅は、下手な海外の観光地よりもインパクトのある景色に出合えて、しかも下手な博物館よりもディープな歴史に触れることができる。パッケージ観光を超えた特別な体験ができるんだね。

新たな観光の切り口?

ヒカリエでの展覧会が始まると、日本各地から「この展覧会をテーマにしたツアーを開催したい!」という申し出が相次いだ。発酵×ツーリズムという新たな可能性に多くの人が興味を持ち始めたということだ(多分)。バスを出して蔵を見学し、地元の飲食店でローカル発酵食を堪能し、ついでに温泉入ったり、自然の中を散策する。地元の人のリアルな話も聞かれて、その土地の人の暮らしぶりもわかる。実際僕の住んでいる山梨で同様のツアーを開催したのだが、このようなローカリティを深く体験できるツアーは参加者の満足度も高く、何ならまた個人旅で蔵や飲食店を再訪する人が出てくる。通常のパッケージツアーよりもコミュニケーションが濃いので、開催側にもたくさんのフィードバックが寄せられる。リピーターも期待できて新たな発見もある。参加者側にも開催側にもよいこと尽くしのプログラムになり得るんだね。ただし気をつけなければいけないポイントがある。それは「翻訳者/編集者」の存在だ。単に蔵や名所を訪れただけだとパッケージツアーの域を出ない。必ずしも話し上手ではない醸造家の言葉の真意を汲み取って発酵の素人に伝えたり、複数の見学場所(例えば酒蔵と森と古い屋敷)の間をつなぐ関係性をしっかり言語化して伝えないと、体験に深みが生まれない。

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