「懐かしいわ。学生の頃に通ってたの」とマダムの声。5年前に閉店した喫茶店の前に、手造りのドリンクスタンドが現れた。今夏、別事業者が名を引き継いで、まちの社交場としての喫茶をオープンするらしい。
商いを続けている店は、承継のかたちもその歴史もさまざま。岐阜市内にある柳ヶ瀬商店街は、店の「継ぎかた」がなんとも興味深い。再開発により撤退を余儀なくされた食堂が、商店街内の空き店舗でまた暖簾を掲げたり。惜しまれつつ閉店した老舗和菓子屋の看板アイスを、別オーナーのプロデュースによって柳ヶ瀬で復活させたり。とんかつ屋を父から娘へ継ぐタイミングで郊外から移転してきたり……。店や味はもちろん、地域における役割みたいなものも一緒に承継されることで、それがまち全体の深みや魅力として浮かび上がってくる。そんなことを考えながら、ドリンクスタンドで搾りたてジュースをオーダーし、店先で飲む。私が知らない昔の柳ヶ瀬商店街の風景を、少しだけ感じたような気がした。