ぼくは仕事がきらいだった。『古くてあたらしい仕事』

ぼくは仕事がきらいだった。『古くてあたらしい仕事』

 20代のころ、ぼくにとって労働はお金を稼ぐ手段でしかなかった。人間嫌いで独りレコードを聴いたり本を読むことが好きだったぼくにとって、広告会社の営業という仕事は苦痛でしかなかったから、あくまで仕事は生活の手段と割り切ってたくさんのクライアントに会い、夜遅くまで残業をしていた。あの日々は今にして思うとまったく無駄ではなかったと思うけれど、もっと早くこの本が出版されていて、その頃に読んでいたならば会社を辞めていたかもしれない。それほどまでに、この本は自分の仕事にかける嘘偽りのない誠実さと人の心を動かす言葉の力にあふれている。


 きらめくような美しい本ばかりを復刊する、夏葉社という出版社がある。その夏葉社の代表島田潤一郎さんがやわらかく平易な言葉で、自身の仕事観やこれまでの生き方を綴っているこの本をどうか見逃さないでほしい。労働を金を稼ぐ手段だと割り切っている、そこのあなたにぜひとも一読してほしいのだ。朝起きて顔を洗い、誰かのために働く原動力とはどこからくるのだろう。すべてが合理的に、わかりやすく、簡単になっていく世界でぼくら人間は何を信じて、何を礎として働いて生きていくのか。その答えがこの本のなかにかすかにあるような気がしている。


『古くてあたらしい仕事』
著者:島田潤一郎
出版社:新潮社


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