フリーペーパーを作る

連載 | とおくの、ちかく。 北海道・東京・福岡 | 6 フリーペーパーを作る 【前編】

「ただ住むだけじゃもったいない」「自分たちの住むまちをおもしろがる」そんな掛け声で集まったローカルを思う存分楽しみたい3人(北海道より畠田大詩・東京より竹中あゆみ・福岡より中村紀世志)の連載。6回目は、福岡県大牟田市で通り組むフリーペーパーについて。

ファンとして勝手に応援する。

-今回の書き手:中村紀世志

僕は6年ほど前から動物園のフリーペーパーの制作を続けている。名前は『KEMONOTE(ケモノート)』。福岡県大牟田市にある『大牟田市動物園』を勝手に応援するフリーペーパーとして2015年4月に創刊し、2021年7月に第6号を発行した。テーマは「動物と人との関わり」。動物だけでなく、飼育するスタッフにも焦点を当てることにより、浮かび上がってくる動物園の魅力を伝えようと制作をスタートした。毎回5000部を発行し、動物園内はもとより大牟田市内だけでなく、福岡県内の本屋さんや雑貨屋さん、美容室などさまざまな場所に設置させていただいている。

動物園の日常を綴るという趣旨から動物(ケモノ)+ノートで『KEMONOTE』という名前に。

大牟田市は福岡県南部、熊本県との県境にある。かつては炭鉱の町として栄え、最盛期には人口が20万人を超えたが、エネルギー革命に伴う炭坑の縮小や閉鎖などの影響により現在は約11万人に。『大牟田市動物園』も2000年初頭には閉園の危機もあったが、継続を願う市民の声や、経営を市から民間業者への委託に変更するなど、さまざまな努力によってその危機を乗り越えた。近年は「動物福祉を伝える動物園」をテーマに掲げた取り組みがメディアから注目され、来園者数も閉園危機の頃に比べて10万人近く増えている。

大牟田市内にある、三池炭鉱の主坑としての役割を担っていた宮原坑。2015年に世界遺産に登録。

そんな動物園のフリーペーパー制作のきっかけは、大牟田市出身で後に編集を担当する友人、木下綾さんからの誘いだった。「おもしろい動物園があるから一緒にフリーペーパー を作らない?」と。いまいちピンとこなかった。動物園にはここ数年足を運んでいないし、動物の写真を撮ったこともあまりない。なので「おもしろい」と言われても動物のかわいらしさ以外に楽しめる部分が果たして動物園にあるのか。そこが疑問だった。そもそも県外出身者の僕には、大牟田市といえば盆踊りの歌詞に出てくる三池炭鉱があるところ、それぐらいの知識しかなかった。そんな僕で大丈夫なのだろうか。でもわざわざ「おもしろい」と言ってくるところに興味が湧いて、後日『大牟田市動物園』に下見に行ってみることにしたのだった。

『大牟田市動物園』は福岡市から電車に乗って60分、大牟田駅から徒歩で15分ほど。2019年からはバスの運行も始まった。

2015年1月。初めての大牟田市動物園。券売機に向かうとそこには「ぞうはいません」の看板。突然の先制パンチに僕はよろめいた。象がいないことが残念だったのではない。「いない」ということをまったくオブラートに包むことなくストレートに伝えてくる潔さに驚いたのだ。遠足に来て象がいないことを知った保育園児たちの悲しむ姿を想像した。しかし後に知ったのだが、これは期待させた後でがっかりさせたくないという想いによるものだった。

動物園の入り口の前にあった「ぞうはいません」の看板(2015年3月)。

園内に足を踏み入れると、動物よりも先に目についたのはお手製の案内板だった。書かれているのは動物の名前であったり個体の見分け方であったり、注意であったりと、特別な内容ではない。ただ、アットホームというか、なんとも形容のしがたいユーモアと親近感をまとっていて、一つ一つに飼育スタッフの熱い想いが見え隠れしていた。気がつくと次はどんなのが登場するのかと楽しみにしている自分がいた。

あふれ出る動物への愛とユーモア。

歩き回ること2時間半。動物もかわいらしかったし、案内板も楽しかった。しかしそれだけではなかった。『大牟田市動物園』では園内の動物たちと触れ合うことのできるイベントがいくつも開催されていて、人気のイベントでは順番待ちの列ができるほど。僕もそのうちの一つに参加してゴマフアザラシのオーちゃんとムーちゃんの背中を触ってみた。まん丸の体つきから想像するほど柔らかくもなく、結構張りがあった。そして当たり前なのだけど動いていた。 
僕はいきいきと働く飼育員さんたちを見て、動物に関わる人たちの姿を想像していなかったことに気がついた。なるほど、『大牟田市動物園』は「おもしろい」。しかしどうすればそれを伝えられるのだろう。帰る頃には頭の中はフリーペーパーの制作のことでいっぱいになっていた。

大牟田市動物園の動物たち(2015年)。

後日、フリーペーパー の制作の許可を得るため、編集を担当する木下とともに資料を持って動物園に伺った。実績がないだけに提案が通るのは難しいかと思ったが、思いのほか反応が良く、第1号を配布して反応を見てから継続するか考えましょうというところで話がまとまった。
かくして動物をほとんど撮ったことのないカメラマンと、編集(大牟田市出身)の2人によるフリーペーパーの制作が始まった。(9月5日公開予定の【後編】に続く)

園内にある顔ハメ看板で遊ぶ編集の木下さん(左)とうちの妻(右)。

photographs & text by Kiyoshi Nakamura

中村紀世志/1975年石川県生まれ。機械メーカーの営業として勤務しつつ、フォトグラファーとしての活動を続けたのちに、2014年、結婚を機に福岡へ移り住みカメラマンとして独立。雑誌やWebメディアの取材、企業や地域のブランディングに関わる撮影を行う一方で、大牟田市動物園を勝手に応援するフリーペーパー「KEMONOTE」の制作や、家族写真の撮影イベント「ズンドコ写真館」を手掛けるなど、写真を通して地域に何を残せるかを模索しながら活動中。https://www.kiyoshimachine.com

畠田大詩/1988年京都市まれ。「写真」を軸にした出版・イベント・教室・展示等を運営する会社にて、企画や営業、雑誌・Webメディアの編集・執筆、イベント運営まで多岐に渡り経験。写真を活用した地域活性化プロジェクトの企画運営やディレクションなども担当した後、2020年4月から、地域活性化企業人として北海道東川町役場に勤務。東川スタイル課にて、ブランド推進の企画や情報発信に携わる。https://www.instagram.com/daishi1007/

竹中あゆみ/1986年大阪府生まれ。雑誌『PHaT PHOTO』『Have a nice PHOTO!』の編集・企画を経て、2016年より『ソトコト』編集部に在籍。香川県小豆島の『小豆島カメラ』など、写真で地域を発信するグループの立ち上げに携わる。東京を拠点に取材をとおしてさまざまな地域の今を発信しながら、ライフワークとして香川県小豆島や愛媛県忽那諸島に通い続けている。https://www.instagram.com/aymiz/