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連載 | とおくの、ちかく。 北海道・東京・福岡

フリーペーパーを作る 【後編】

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「ただ住むだけじゃもったいない」「自分たちの住むまちをおもしろがる」そんな掛け声で集まったローカルを思う存分楽しみたい3人(北海道より畠田大詩・東京より竹中あゆみ・福岡より中村紀世志)の連載。9回目は、福岡県大牟田市で通り組むフリーペーパー【後編】について。

目次

継続することの難しさと楽しさ。

-今回の書き手:中村紀世志

2015年2月。『大牟田市動物園』からフリーペーパーの制作について許可を得ることができ、『大牟田市動物園』を題材とするフリーペーパーの制作がスタートした。
テーマは「動物と人」。動物だけでなく、そこで働く人にも焦点を当てることにより、浮かび上がってくる『大牟田市動物園』の魅力を伝えようということで決定した。そして、フリーペーパーの名前は動物たちとその周辺について綴っていこうという思いから、KEMONO(動物)+NOTE(ノート)で『KEMONOTE(ケモノート)』に。
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最新号ではフランソワルトンを特集。
テーマとタイトルが決まり、次は形を決めることに。どういう人に手にとってほしいかをイメージしながら打ち合わせを重ね、決定したのが以下のもの。

①サイズ
B4を八つ折り(90ミリx130ミリ)。
持ち運びやすいようポケットに入る大きさ。

②紙
開いた時でも形崩れしにくいよう、厚手のものを選択。
いざというとき敷物にもなる。

③表紙
子どもの目に留まるように、動物の表情が見える写真を使用。

④誌面・表
特集する動物の生態や特徴について写真やイラストを交えて記事を作成。
字が読めなくても伝わるように写真を大きめに。

⑤誌面・裏
飼育員さんや獣医さんへの取材記事。
帰宅してから大人がじっくり読めるように。
4コマ漫画や飼育員さんのお弁当など、毎回遊び心を入れたものも掲載。

⑥動物園のイベントや企画と連動しない
『大牟田市動物園』の広告物として制作するのではなく、ファンという立場を貫く。

⑦広告を入れない
限られた誌面のスペースで伝えたいことだけを伝えるため。

⑧配布
『大牟田市動物園』の他、大牟田市内だけでなく、筑後地区や福岡市内の本屋、カフェ、美容室、雑貨店などにて配布。

⑨発行ペース
年に2〜3回。

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『KEMONOTE』の形状。
骨格が決まったが問題も残っていた。それは制作に掛かる資金。印刷代など外部に委託する費用や、交通費といった経費は当然掛かってくる。あくまで1ファンとしての視点を保って制作をしたいので『大牟田市動物園』に制作費を貰うつもりはなかったが、広告も載せないと決めた以上、資金をどうやって作るのか早急に考える必要があった。当時既にクラウドファンディングは存在していたが、まだ絵に書いた餅状態のフリーペーパーに資金が集まるとは到底考えられず、それを利用するには至らなかった。
資金問題という、制作を継続させるにあたって最大の障壁となるであろう問題を残しつつ、とりあえず印刷代だけでもと、まずは2万円ずつ持ち寄り、2015年4月に『KEMONOTE』第1号が完成。『大牟田市動物園』以外にも、自分たちでさまざまな場所に直接足を運んで交渉を行い、配布が始まった。
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福岡市内の渡船場でも配布。
それから6年が経過。今年の6月には第7号を発行した。つまり今も制作を継続できている。第1号の反響がすこぶる良かったので、『大牟田市動物園』からも制作について継続の許可を得ることができたのだ。今では配布場所は福岡県内で30か所以上、東京や大阪の知人のお店などでも配布してもらっている。
問題の資金面については第2号を発行した頃に、写真やイラストを使用したバッチやキーホルダーの入ったガチャガチャを『大牟田市動物園』の入口に置かせて貰うことで安定して売上が見込めるようになり、あっけなく問題が解決してしまった。
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制作資金の調達に大活躍のガチャガチャ。
『大牟田市動物園』は、日本国内の動物園の取り組みに対して評価をする「エンリッチメント大賞」において2016年と2019年の2回にわたり大賞を受賞。2019年11月には『大牟田市動物園』が題材の映画『いのちスケッチ』全国の映画館で公開された。ちなみに制作開始当初の仮タイトルは『ぼくのケモノート』だった。そして2015年以降は20万人超える来園者数を継続している。
これらの成果はもちろん「動物の福祉」をテーマに掲げ、運営を行ってきた『大牟田市動物園』の努力によるものだ。けどその中の1パーセント、いや、0.1パーセントぐらいは『KEMONOTE』の影響によるものだろうと勝手に思っている。
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2019年に公開された映画『いのちスケッチ』。
今後の課題は発行ペースだ。制作開始当初は年に2〜3回を目指したものの、途中から遅れが生じて結果的には年1回ペースになってしまっている。これは制作を行う2名それぞれの家庭に子どもが生まれ、時間に余裕がなくなったことによる影響が大きい。でも、そんなスローペースにも関わらず、次号はいつ頃ですか? と問い合わせてくれる方がいたりしてとても励みになっている。
とはいえ、『大牟田市動物園』と動物園では日々変化が起きている。生まれてくる新しい命もあれば消えてゆく命もあり、掲載してきた動物の中にも今はもう見ることができない個体がいる。そういった変化に向き合うことができていない現状をどう乗り越えて行くか。
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2016年2月。亡くなったトラジロウの献花台に届いた花束や手紙。
フリーペーパーを作ることは単純に楽しい。インターネットとは違い、ゆっくりな流れの中で届けたい場所に届けることができる。内容についてはモラルとリテラシーを問われる部分があるものの、縛られることは少ない。継続させるにはいくつか壁を乗り越えなければならないが、届けたいという気持ちがあればなんとかなる、というかなった。
「おもしろい」と感じたことを伝え、読んだ人に「おもしろい」感じてもらえたこと。それが僕たちが制作を続けられている1番の理由かもしれない。
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日本タウン誌・フリーペーパー 大賞2016の新創刊部門において『KEMONOTE』が最優秀賞を受賞。
photographs & text by Kiyoshi Nakamura
中村紀世志/1975年石川県生まれ。機械メーカーの営業として勤務しつつ、フォトグラファーとしての活動を続けたのちに、2014年、結婚を機に福岡へ移り住みカメラマンとして独立。雑誌やWebメディアの取材、企業や地域のブランディングに関わる撮影を行う一方で、大牟田市動物園を勝手に応援するフリーペーパー「KEMONOTE」の制作や、家族写真の撮影イベント「ズンドコ写真館」を手掛けるなど、写真を通して地域に何を残せるかを模索しながら活動中。https://www.kiyoshimachine.com
畠田大詩/1988年京都市まれ。「写真」を軸にした出版・イベント・教室・展示等を運営する会社にて、企画や営業、雑誌・Webメディアの編集・執筆、イベント運営まで多岐に渡り経験。写真を活用した地域活性化プロジェクトの企画運営やディレクションなども担当した後、2020年4月から、地域活性化企業人として北海道東川町役場に勤務。東川スタイル課にて、ブランド推進の企画や情報発信に携わる。https://www.instagram.com/daishi1007/
竹中あゆみ/1986年大阪府生まれ。雑誌『PHaT PHOTO』『Have a nice PHOTO!』の編集・企画を経て、2016年より『ソトコト』編集部に在籍。香川県小豆島の『小豆島カメラ』など、写真で地域を発信するグループの立ち上げに携わる。東京を拠点に取材をとおしてさまざまな地域の今を発信しながら、ライフワークとして香川県小豆島や愛媛県忽那諸島に通い続けている。https://www.instagram.com/aymiz/

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