「ライク・ア・バードokitama」第3弾

特集 | ソトコトが手がける講座・講演プロジェクト | 「ライク・ア・バードokitama」第3弾 グランドレベルの田中元子さんと訪ねる、暑さ忘れる長井市

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2021.11.06

「ライク・ア・バードokitama」旅のその先へ。

―イザベラ・バードのように、軽やかな一羽の鳥のように。自分らしい価値観に出会う映像の旅。

19世紀末、明治初期の日本にひとりの英国人女性探検家が訪れました。 彼女の名前はイザベラ・バード。海外旅行が一般的ではなく、女性の自由が今よりはるかに制限された時代にもかかわらず、軽やかにしなやかに世界中を飛び回った女性でした。 その道中を記録した『日本奥地紀行』の中で「東洋のアルカディア(理想郷)」と称賛された山形県・置賜(おきたま)地方を舞台に、「現代のイザベラ・バード」と呼びたくなるような、新しいライフスタイルを歩む女性たちが旅をします。

ライク・ア・バードokitamaロゴ

舟運で栄えた歴史を現代に残す、水のまち長井市

長井市の東部には、日本海に流れ込む最上川があり、イザベラ・バードが訪れた時代には、舟運で栄えた商業都市でした。人々の営みによってつくられた建物や水路はその姿を継承しつつ、時代に沿った変化を経て現代においても生活の中に息づいています。その文化を色濃く残す景観は、2018年に「風景の国宝」重要文化的景観に選ばれています。

そんな長井市を旅するのは、「1階づくりはまちづくり」をテーマに活動する株式会社グランドレベル代表の田中元子さん。田中さんがつくった「マイパブリック」という言葉には、「自分でつくる公共」という意味があります。自分がやりたいことに夢中になることで、それが自然と公でつながり、結果、人やまちとつながっていく…。そんな田中さんならではの視点から長井市の魅力を紐解いていきます。

―「ライク・ア・バードokitama」では山形県外からやってくる女性が、とまり木を渡る鳥のような旅をします。

第1弾、第2弾のテーマをそのままに、今回のイザベラ・バードとなる田中元子さんが旅の中でお話をする女性たちは、観光で訪れるだけではなかなか会うことのできない、地域に根ざして生きる方々です。

長井市は、地下水で上水道をまかなっている日本でも有数の「水のまち」です。朝日山系から流れ置賜野川を水源とする長井ダムには、龍神が住むという伝説が残る三淵渓谷もあり、静謐なその印象に魅せられ、市内外から観光客が訪れます。
まちのいたる所にある水路には、清流にしか育たないという梅花藻や、さまざまな生き物たちが自生しています。建物の中に水を引き込み利用している蔵や、天然水100%で仕込むお酒や発酵食品の老舗などが、市街地に点在しています。

まち歩きをするときに顔となる建物の1階や歩道、ちょっと一息をつきたいときに置いてあるベンチなどからまちづくりを考え、そこに住んでいる人や、訪れる人にとって心地よい空間を作ろうと考え、全国を飛び回っている田中さんは、水のあるところがとても好きだといいます。もともと長井市に暮らす人たちにとっては当たり前の環境ですが、田中さんの視点から見るこの土地は、どのように映るのでしょうか。

田中さんが長井市を訪れたのは、2021年8月29日から30日。平地をぐるりと囲む山々の緑は濃く、日中の残暑で汗をかいても、夕方から早朝にかけては清涼とした空気に包まれる季節です。
この旅で出会った女性たちをご紹介します。

長沼真知子さん (酒蔵 長沼合名会社)
鈴木麻恵さん (旧長井小学校第一校舎)
松崎綾子さん (画家 Kosyauこしゃう)
菅野ちゑさん (農家れすとらん なごみ庵)
横山千恵子さん (ムスメヤ花店)
青木美佐子さん (スナック夜汽車)
梅村和子さん (Lui Chantant UMEMURA ルイシャンタンうめむら)

動画と合わせて、旅の模様をお楽しみください。

―2021年8月29日

旅の始まりは、長井駅から始まります。
置賜の沿線市町のシンボルである花々でラッピングされた山形鉄道の車両から、鮮やかな衣装で降り立つ田中さん。

まち歩きでは、水路や蔵造りの建物が並ぶ商店街などを巡り、歩道から「長井市の1階」を眺めます。

長沼合名会社 長沼真知子さん

『長沼合名会社』は、「惣邑(そうむら)」の銘柄を代表に、仕込みには長井市の地下水100%使用して醸造を行う老舗の酒蔵です。1916年に創業、現当主の娘である真知子さんは夫婦で酒蔵を営んでいます。「惣右衛門」の名は、襲名する際に戸籍の名前を変えて受け継いでいます。男性でなければならないということはなく、たとえ女性でもその名前を名乗り、代々残していくのだそうです。真知子さんは「私が受け継ぐとしても戸籍が惣右衛門になる」といいます。そんな将来を誇らしく、面白そうに語る真知子さんは、実は四女。後継者になるべく育てられたのではなく、「私は酒造りを仕事にしたかったから」と、この世界に飛び込んだのです。
田中さんはお酒がほとんど飲めないとのことですが、人の手で自然の全てが融合してお酒になっていく過程を知り、いろんなことが腑に落ちた、と感慨深い様子で酒蔵を見学していました。

旧長井小学校第一校舎 鈴木麻恵さん

『旧長井小学校第一校舎』は、長井市の人口が多かった頃の大規模校が耐震工事を経て改修された建物で、地域内外の人々の交流拠点の一つとして開放されています。レトロモダンな外観に、当時の雰囲気を残す長い廊下や階段。カフェや子どもに開かれたフリースペースの他に、長井の歴史を伝える展示室、旧教室は一般貸し出しもされています。
新しい長井小学校が同じ敷地内にあり、中心市街地の交流施設でありながら、子どもたちの姿が多く見られ、まちの生活の一部としてここにあるのだということを実感できます。
鈴木さんは運営側として、この場所を拠点に長井市の魅力を伝えるために、模索の日々を送っています。

長井市は、競技用けん玉の生産量日本一。家に何個もけん玉がある家庭も多いといいます。
大人も子どもも楽しみながら、文化が家庭単位で自然に受け継がれています。
2020年には、けん玉が長井市の「市技」として認定されるなど、けん玉によるまちおこしの活動も広がりをみせています。

―2021年8月30日

Kosyau 松崎綾子さん

『Kosyau(こしゃう)』とは、松崎さんが所属する若手アーティスト4名で構成される「アメフラシ」のメンバーたちが運営している製作場所であり、ときには展示会場ともなり、ゆるやかに交流が生まれている施設です。
もとは印刷会社だった大きな建物をメンバーで借り、少しずつ自分たちで手を加え、拠点にしています。自由な発想でものづくりをしながら、長井の文化をそこに取り入れて新しい形で作品を生み出すなど、アーティストならではの感性で地域と関わりを持っています。
「文化を自分たちで守らなければ」という肩に力の入った発想ではなく、受け継ぐ人がいないのなら、いま自分たちで習って技術を学ぼう、それを誰かに手渡す日も来るかもしれない、そのためにアーカイブをしているのだ、といいます。
アメフラシは「雨降って地固まる」からネーミングしたといい、ちょうどお話の最中に、外に通り雨が過ぎていき、そんな偶発的なできごとも、旅の醍醐味かもしれません。

廃材などから作品を制作し販売もしており、田中さんが座ったこのベンチは、実際に購入することもできます。

農家れすとらん なごみ庵 菅野ちゑさん

山形県内でも先駆けとなった農家レストランを営む菅野さんは、老後を考え始める頃に、パートナーの女性と出会い、自宅の敷地の建物を改装して、自家製野菜や季節の食材を提供する『なごみ庵』をはじめました。
料理を運んで「おしょうしな」と言ってゲストを迎える菅野さん。「おしょうしな」とは、置賜の言葉で「ありがとう」の意味です。来てくださってありがとうございます、という方言が、とても温かく響きます。

笑顔の柔和な「地域のおばあちゃん」を体現するかのような菅野さんですが、収穫となるときびきびと、目にも止まらない速さで食べ頃の野菜を次々と籠に入れていきます。

ムスメヤ花店 横山千恵子さん

横山千恵子さんは、結婚してから夫の家業である生花店の仕事をはじめました。夫と話し合いながら、仏花などが中心だったお店の商品の他に、日常的に飾れる花を販売するようになりました。「玄関などをさりげなく彩る花があって、その家族の会話の中に花の話題が出たら嬉しいだろうな」と、生け花などの敷居の高いものではなく、暮らしに身近なものとして花を飾ってほしい、と、フラワーアレンジメントの教室も開きました。切り花だけではなく、普段、道端に生えているような草花を取り入れることで、暮らしにもっと身近なものになります。そして、教室がアレンジメントを教えるだけのものではなく、教室に来てくれる人たちの交流の場となっており、自然とお客様の体調などを気にかけるようになったそうです。思いやりの中にも主体性があるのが、会話の中からもにじみ出ます。

スナック夜汽車 青木美佐子さん

『スナック夜汽車』は昭和46年にオープンしました。夜汽車という名前にも、その響きから「人生、いいときも悪いときも」という意味があり、日常で疲れたときにふと足を運んでもらえるような場所でありたい、と名付けられました。青木さんは、夫の母が経営していた夜汽車を、嫁という形で受け継いだという経緯があります。
オープン50周年となる今年は、コロナ禍もあり、手放しでお客様に「ぜひ来てください」と言えない状況でもある中で、常連のお客様が「なかなか行けないけれど元気でいる?」と電話をくれるなど、長井市に暮らす人たちの人情味を感じているといいます。
青木さんは、実はそれほどお酒が飲めません。「お互い、たくさん飲めると思われることが多いよね」と田中さんと二人、笑います。

夜汽車の隠れた名物は、ラーメン。お酒を飲まずに、ラーメンだけを食べに来る人も増えたといいます。お酒は嗜む程度、という人にも足を運んでもらいたいと、メニューを取り揃えています。

〜旅の続き〜

三淵渓谷

この日は晴天。波もなく、ボートが進む水音を聴きながらゆったりと進みます。ときおり、風が熱気をさらい、ひんやり心地よく吹き抜けていきます。

長井ダムは、水源の確保だけではなく、水害を防ぐために先人が未来に生きる人たちの生活を守るためにつくったという歴史があります。

cross-ba

長井市本町に、シェアオフィス『cross-ba(クロスバ)』があります。
さまざまな業種の人たちが集まり、商業機能、オフィス機能、交流機能を一体的に捉えて、街と人と出来事がクロスする場所であってほしい、と名付けられました。

屋外にあるベンチは、そこに座る人がいるだけで、まちが華やぐのがわかります。

Lui Chantant UMEMURA(ルイシャンタンうめむら) 梅村和子さん

梅村さんは、父親が経営する『梅村呉服店』と並んだ同じ敷地内で、洋服店を営んでいます。
昔から訪れてくれていたお客様が、お嫁さんを連れてくるなど、世代間の交流もあるといいます。基本的には女性向けのお店なのですが、その人に合うコーディネートを考えることが本当に大好きなのだ、という思いが伝わってきます。アクセサリーや帽子、バッグなどの小物類も絶妙なセンスで、自分が楽しむことで周りにもそれが自然と伝わる、ということを、ご自身が一番体現されています。

長井市の旅を振り返って

田中さんは長井市との出会いを「気取りのない、日常の質感が豊かなまち」と表現します。
旅に登場した女性たちは「いま自分が一番やりたいことを追いかけてきた」という点が共通していて、田中さんは皆さんにとてもシンパシーを感じたといいます。また女性たちも、田中さんとの会話で「いま自分たちがやっていることの意味」を新しい形で捉えることができた、と喜びを語ります。
今回、女性たちは地域に根ざして人を迎える立場の方々ですが、「次回はあの場所に案内したい」という話題で盛り上がり、それぞれがこの土地に暮らしていて「素敵だな」「美しいな」と思う、心の故郷といえるものを持っています。
田中さんが「まちの1階づくり」を手がけるように、土地に根ざしている人たち自身が、生き生きと楽しく暮らすことが、結果としてまちづくりになっていく未来が見えるような旅でした。

田中さんが出会った皆さんは、やまがたアルカディア関係案内所のWebサイトでもご紹介しています。

さいごに

田中さんと、長井市の女性たちとを旅で繋ぐ役割を担ったのは、やまがたアルカディア観光局に所属する齋藤はるかさんです。

動画に登場していただいた女性たちは、観光で訪れただけでは普段なら会うことができない方々です。地域の深いところにいて活動を続ける女性たちに、限られた時間の中で会いに行けたのは、齋藤さんのように、陰で調整を担う役割の方がいてこそ実現できます。定住移住などにこだわらず、地域を行き来しながら、人々の垣根を少し低くして、その土地と関わる人たちを、ソトコトでは「関係人口」と表現しています。地域との“関わりしろ“を作る関係案内人が、齋藤さんです。
外からやってくるイザベラ・バードのような人を受けとめ、そこに暮らす人とつなげることができる人がいることが、新しい観光のかたちを生み出しています。

人に会いに行ける旅。
それが「ライク・ア・バードokitama」です。

次回は、メディアアーティストの市原えつこさんが訪ねる、紅葉舞う南陽市です。
第4弾もお楽しみに。