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連載 | 写真で見る日本

つながりと懐のような場所へ 西岡 潔×奈良県吉野郡十津川村

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奈良県・十津川村に行き始めて15年ほどになるだろうか。十津川村とのことを書くにはあまりにもたくさんのことがあり、ここですべてを書き切ることなどできないのだが、自分にとっての十津川村とはどういった場所なのか、なぜ行かざるをえない場所なのかをひもといてみる。

私は大阪府で生まれ育った。母が奈良県出身で、祖父は熱心な修験者でもあった。そのことを知ったのは奈良によく行くようになってからなのだが、その話の内容はまるで物語を聞いているような不思議な話が多いのだ。

一本歯下駄を履いて山で修行していたとか(木に登り一本歯下駄を履いて枝の上に立っている写真を見せてもらったことがある)、大峰山で一人で1週間の断食をし、修行中に気を失って倒れているところを発見してもらえて助かったとか、修行をしていると空を飛んでいる感覚になるとか、普段の生活からはかけ離れた話が多かった。私にとって奈良とは、まさしくミステリアスな場所なのである。

十津川村はそんな奈良県の最南端に位置し、近年道が整備されたとはいえ大阪府からは車で3時間半ほどかかる位置にある。なかなか辿り着けないような場所であり、たくさんの昔話も残っている地域である。十津川村に行くようになったきっかけが何だったかは、今ではハッキリとは思い出せないのだけど、複合的にいろんなことが重なっている。とはいえ“何度も行く理由”は私の中では一貫していて、それは私とその場所に住む人との間に何らかの関係性があるかないかにある。

友達に誘われ十津川村武蔵集落の盆踊りの手伝いに行き始めたのは13年ぐらい前だっただろうか。その当時、大阪市立大学の先生をされていた中川真先生が、夏休みに学生を連れて盆踊りの継続支援の活動をされていて(40年以上続けている)、そこに参加させてもらったのがきっかけで毎年のように盆踊りの手伝いに行くようになった。十津川村の盆踊りの魅力は華やかさであり複雑さでもある。「大踊」は国の重要無形民俗文化財に登録されている。うまく踊れるまでには練習が必要で、私は未だにうまく踊れなくてもっぱら写真を撮るか、楽しそうに踊っている姿を眺めていることが多い。

公民館では10〜15名が家事を分担し、夜は一間に布団を並べ合宿生活。年齢も職業もまちまちな人たちが毎年盆踊りの時期に集まり独特な雰囲気を醸し出している。自販機もないような場所なので、櫓の設営や踊りの練習をする以外はやることもなく、のんびりした時間を過ごす。踊りを教えてもらったり散歩したり他愛もない話をしたり。次第に古い木造の小学校校舎と校庭に櫓が建てられ提灯も飾られ、本番になると村の人たちと櫓の周りをぐるぐる踊り、お酒を飲む。

そこには懐かしさや日常とは違った時間の流れをみんなで共有しているように感じられ、翌朝片付けをし、また来年会いましょうと心の中で呟きお別れをする。

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吉野熊野国立公園内の奈良県・三重県・和歌山県にまたがる大峡谷であり、十津川村の景勝地としても知られている渓谷・瀞峡にも会いたい人がいる。川舟観光『かわせみ』の東福万さんだ。幾万年もの悠久を感じさせる大峡谷に東さんの川舟でエンジンを切り、川の流れのままゆっくりと進む。瀞峡の水面は早朝と夕方に静まり鏡面のように周りの風景を映しだす。

ずっとこういった場所で生活している東さんの佇まいと話し方は、大峡谷と相まって心地よい。瀞峡を知り尽くした東さんは私の呼吸に合わせてくれるように舟を操舵し撮影をサポートしてくれる。瀞峡と東さんは私にとっては一体みたいなものだ。

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また、十津川村の山天という山上の行き止まりにある集落には3人のおばあちゃんが住んでいて、ここにも何度も訪れている。訪れるというより帰る家のような場所で、お昼に行くとたいていは「めはり寿司」を作ってくれる。家の周りにはたくさんの種類の作物が植えられていて、そこから高菜の葉っぱを採ってきてそれで作るのだ。

最近の出来事を話したり、一段落すると「昼寝していくか?」と言われ、座布団を枕に横になる。そして帰るときはいつも表玄関で一旦お別れをするが、今度は家の裏手に周り山道を下り車が見えなくなるまで手を振って見送ってくれている。

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そういったことに胸を打たれ、少しでも写真に残すことができたらいいなと考えているが、一方で写真に残すことは「私はここにいた」という証しであり関わるということでもある。

その場所とそこにいる人たちと関係が築かれ、私も含めた記憶のような写真を、私は撮っているのかもしれない。

にしおか・きよし●1976年大阪府生まれ。大阪モード学園ファッションデザイン学科卒業。書籍、月刊誌、コマーシャルと幅広い分野で活躍し、写真展「マトマニ」で2012年度三木淳賞奨励賞受賞。2017年より奈良県・東吉野村に移住。
記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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