「シビックプライド」考。【行政編】

特集 | まちをワクワクさせるローカルプロジェクト | 「シビックプライド」考。【行政編】

2022.03.08

研究のかたわら、行政側からのシビックプライド醸成などに関わる関東学院大学法学部地方創生学科准教授・ 牧瀬稔さん。日本でもシビックプライドという言葉が増えてきた必然性や、自治体などでも活用において大事なことなどを教えていただきました。

地方創生とシビックプライド。

まず、日本の地方行政においてシビックプライドという言葉が使われてきた背景には、『地方創生』との関係が大きいと言えます」と牧瀬さん。メディアでも2008年頃から露出しはじめ、2015年あたり、ちょうど地方創生がスタートしたタイミングから、シビックプライドは頻繁に登場するようになったそうだ。

「地方創生の命題でもある人口の維持には、転入促進と転出阻止がありますが、各自治体はほかの自治体から人口(住民)を奪うという都市間競争を展開してきましたけれど、不毛だということが認識されつつあります。一方で、転出阻止のほうがやりやすい。その観点で注目されているのがシビックプライドなんです」
 
牧瀬さんによれば、一定数の自治体が行政計画に「シビックプライドを高めて、転出を阻止する」と明記しているという。「実際はシビックプライドによって転出が阻止されるといった相関データはありません。ただ、データを分析すると、シビックプライドが高い地域ほど、Uターン率が高いというのはあるようです」。
 
さらにシビックプライドは使いやすいという側面も。「地域愛を高めていこう」という場面においてシビックプライドは否定しにくいキーワードであることも。「国が推進する関係人口創出においてもそう。最近では地域の自治体が住民や民間企業、大学などとともに活動し、イノベーション事業などを行う『共創』の概念もありますが、そこにもシビックプライドは親和性が高いと感じます」。

シビックプライドを条例化するメリットとは。

現在、コロナ禍によって人々の視点が地域へと向かい、シビックプライドにも注目が集まっている状況もある、と牧瀬さんは続ける。例えば生まれた故郷や応援したい自治体に寄付をできる「ふるさと納税」の制度や、暮らす地域に近いエリアを観光することで魅力の再発見を促す「マイクロツーリズム」などは、図らずもシビックプライドに近しい考え方だろう。そんな中、2021年4月に、行政としていち早くシビックプライドに関する条例を施行したのが神奈川県相模原市だ。牧瀬さんも、同市の条例の制定には座長として関わった。相模原市の「さがみはらみんなのシビックプライド条例」は、まちへの誇りや愛着、共感を目標に、自ら関わっていこうとする気持ちであるシビックプライドをボランティアや自治会活動、住民同士のコミュニケーションなどが活発になり、コミュニティが活性化され、住民の「住み続けたい」という気持ちが膨らむことを期待したもの。条例にする意義について聞いてみた。

「1点目は継続性ですね。条例がある限り、行政として相模原市役所はシビックプライドを醸成していくための事業を継続していくことになります。2点目は予算の根拠です。条例は法的根拠を有するため、事業実施のための予算が確保されます。予算があれば事業も実施されるので、成果が出るということです。3点目としては、条例は議会の意思。議会は住民が選んだ議員によって構成されているので、相模原市民の意思として推進していくとことを意味します」。

条例化によって目指すのはシビックプライドの浸透、醸成が考えられるが、そこに行き着くにはどのくらい期間が必要なのだろう。

「まったくの感覚的な私見ではありますが……。10年程度(市長が3期)継続していくと、濃く深くなっていくように感じています。地域活性化で成功した地域は、だいたい5~10年間、同じことに取り組んでいます。市長がシビックプライドに関心を持ちつつ継続して進めていければ、市民の理解も進み、濃く深く浸透していくと推察します。しかし、政治家は関心が変わりますし、政変が起きると終わってしまうこともまた政治の常。そこで、行政主導のシビックプライドから市民主導のシビックプライドに、どのように落とし込んでいくかがポイントだと考えています」。

思い出をいかにつくるか。大事なことは過程にある。

シビックプライドは概念であり、気持ちの部分に寄与するところが大きい。市民の中にシビックプライドを醸成する際のポイントはどこにあるのだろう。「以前、Uターンの人たちに地元に戻った理由をヒアリングしたのですが、みなさん『思い出があるから』と。両親が亡くなっていても、小・中学校の時の思い出があるからという理由で戻っている人が多かった。ですので、『思い出をつくってあげる』ことは一つのポイントかと。シビックプライドも、イベントが多く開催される自治体のほうが高い傾向があるんです。さらに、ここからはまったくの私見ですが、イベントを開催することも大事ではありますが、その過程にこそ意味がある。シビックプライドという言葉を使っていますが、日本で昔から言われてきた『協働』と同じこと。市民、行政、事業者という、地域を構成する3つの力が足され、楽しいなにかを生み出していく。そして基本的にはなにごとも気合だと思っています(笑)。やっぱり人の心を動かせるのは人の心。データも大事ですが、でも、データで説得ができたとしても心で動いてくれないと意味がないし続かない。いかに好きになってもらえるか。ポイントはそこじゃないかなって」。

牧瀬 稔さん
まきせ・みのる●法政大学大学院博士課程人間社会研究科修了、博士(人間福祉)。横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室を経て現職。新宿区新宿自治創造研究所政策形成アドバイザーなど、多くの自治体シンクタンクでアドバイザーを経験。

photographs & text by Yuki Inui

記事は雑誌ソトコト2022年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。