高知市のシンボルでもある鏡川。その流域を通して鏡川との関わり方を考えようと流域内対象の講座「高知・鏡川 RYOMA流域学校」と流域外対象のオンライン講座「エディットKAGAMIGAWA」での合同フィールドワークが行われました。
それぞれの講座では鏡川のそばで暮らす人たちから話を聞いて私たちがどのように鏡川と関わっていけるのか考えてきました。参加者は約50名。鏡川が身近にあることで、川の存在が当たり前になっていた「流域内」の受講生は改めて鏡川の存在を、「流域外」の受講生は外からの視点で鏡川を知る機会となりました。そんな中行われた3日間のフィールドワーク。受講生が現地を訪れ、流域の環境や課題を取材するといった内容です。新型コロナウイルスの影響もあり、高知県外からの訪問はリモートで行われました。
現地を訪れる前に質問内容を考えるためのグループワークが行われました。1日目は講座メンターで高知県在住の編集者・かずさまりやさんからの取材のミニレクチャーから始まり、現地を訪れることのできない人のために鏡川のツアー動画を視聴。高知市街を流れる下流域から少しずつ民家が少なくなっていく中流域、山道を登るに連れて自然のなかへ。上流域の鏡川は水がとても澄んでいて美しいものでした。川に沿って探索していく様子から流域の全体像をイメージでき、ますます受講生たちの鏡川への関心度が高まったよう。「いちばんだいじな、いのちの清流」というテロップで締めくくられた動画からは鏡川の存在が当たり前になっていた私たちにとって鏡川を捉え直すきっかけになりました。
高知市・鏡川流域周遊動画
via www.youtube.com
続いて、取材先の紹介動画。フィールドワークで訪れるのは『土佐山学舎』、『夢産地とさやま開発公社』、『久重(きゅうじゅう)地域』、『鏡川漁業協同組合』の4つの訪問先。鑑賞後、①食②しごと・移住・コミュニティ③体験・アクティビティ・観光・景観④歴史・民俗・文化・教育それぞれ興味のある分野を選んでグループごとに訪問先の下調べと質問内容を考え、翌日のフィールドワークに備えました。
目次
子どもたちが地域と向き合える教育体制を『土佐山学舎』から学ぶ
待ちに待ったフィールドワークは晴天に恵まれ、高知らしい雲一つない青空の下で行われました。
一つ目の訪問先である『土佐山学舎』は鏡川の上流域に位置する小中の一貫校。社学一体の取り組みが地域外からも注目を集め、『土佐山学舎』に通うために移住する人も多いとか。お話を聞かせていただくのは竹崎優子校長です。
70分という限られた時間のなかで、受講生が前のめりに質問している姿勢が印象的でした。学校の取り組みから、生徒たちの自尊心の育て方まで地域の中で子どもたちとどのように向き合っているのか様々な角度から質問が飛び交います。なかでも、小中一貫の9年制を利用して、4年・3年・2年のステップで地域課題の解決まで生徒たちを導くというお話が特徴的でした。地域を楽しむ体験を4年かけて行い、次の3年間で地域の課題に向き合う、そして最後の2年間で地域の課題解決を考え地域貢献へつなげるという時間をかけたプログラムです。
たとえば、地域にある「ゴトゴト石」をモチーフにした商品開発。崖から落ちそうで押すとゴトゴトと揺れるのに絶対に落ちない地域の有名な石に着目し、受験に落ちないアイテムとして当時9年生の生徒たちがキーホルダーを作りました。地域外の学生にも手にしてもらえるよう、生徒たちが自ら戦略を立て完売! 売り上げで地域の高齢者施設と保育園にそれぞれプレゼントを購入したといいます。
「郷土愛は時間や距離に関係なく、地域と心をつなげてくれる」。竹崎校長の言葉は、関係人口を「Connected Mind」と意訳することにも通ずる気がします。
子ども達の自尊心を育み主体的に取り組める仕組み、先生達がアンテナを張って率先して学ぶ姿に、教育という観点から地域の未来を明るくするヒントをもらいました。
子ども達の自尊心を育み主体的に取り組める仕組み、先生達がアンテナを張って率先して学ぶ姿に、教育という観点から地域の未来を明るくするヒントをもらいました。
食と里山の取り組みから後継者不足について考える
2ヶ所目の訪問先は『夢産地とさやま開発公社』の大崎裕一さん。
『土佐山学舎』と同じ土佐山地域で農業に関わる地域課題を解決したいとスタートさせた公社です。有機生姜を使ったジンジャーエールをはじめ、地域維持のために土づくりから商品開発までを事業化しています。
『土佐山学舎』と同じ土佐山地域で農業に関わる地域課題を解決したいとスタートさせた公社です。有機生姜を使ったジンジャーエールをはじめ、地域維持のために土づくりから商品開発までを事業化しています。
雇用形態や販売状況など、たくさんの質問のなかで大崎さんが全体を通して語ってくれたのは後継者不足について。新たな商品開発を進めても、人手不足で計画的に拡大できないといいます。新規就農で移住する人がいても、継続して自立できる人は一握り。プレイヤーだけでなく地域のマネジメントをする人材が必要であることを学びました。「自分たちにない視点を持った人に入ってほしい」という大崎さんの言葉が印象的でした。
担い手を育て地域外の人を巻き込むためにどのような取り組みが必要なのか、事業を成功させた後に継続させていくことの難しさを知りました。
次に訪れたのは橋詰辰男さんが暮らす久重地域。
標高約300mの穏やかな大地に竹園・落葉樹・希少植物など優れた資源が残っている土地です。橋詰さんたちが守っていきたいという里山の原風景を3箇所に分けて見せてもらいました。水田と山々が美しい風景、ホタルが生息する水辺、地域内外の人たちが交流するためのイベント広場や竹園。どれも自然の中なのに品を感じました。強い生命力を感じる生い茂った自然と、共生のために地域の人の手が入った里山。「自然と里山は違う」。橋詰さんが繰り返す言葉を、目にすることで初めて理解できた気がします。
「七草フェスタ」という久重地域の恒例イベントでは七草がゆを食べるだけではなく、子どもたちと七草を採取することから始まります。地域に生息する植物や、七草を楽しく学習できるイベントを踏まえ、次世代にこの里山の原風景を守ってもらいたい、という気持ちと十分な働き口が地域にない葛藤をお話してくれました。久重地域で暮らす人や移住してくる人もまだまだ居て、強い危機感がないのが現状だと橋詰さん。今すぐたくさんの人に来てほしいわけではなく、10年後の里山につながっていくようにできる範囲で活動されているように、感じました。流域内で何ができるか探している私たちにとって、既に地域で活動する人たちへの尊重や距離感を考えさせられるお話でした。
鏡川を自分ごとにしてもらうために
最後に訪れたのは『鏡川漁業協同組合』。
お話を聞かせてくれたのは高橋徹組合長、戸田二郎専務、岡本勲放流部長です。
お話を聞かせてくれたのは高橋徹組合長、戸田二郎専務、岡本勲放流部長です。
『鏡川漁業協同組合』ではアユをはじめとする鏡川の生態系を守り、外来魚がもたらす課題解決を行なっています。漁業者のためだけでなく、市民ためのより良い川づくりを意識しているように感じました。しかし「どこかまだ市民と繋がっていないと感じる」と戸田専務。多方面のからの協力を必要としていると受講生たちに声をかけました。高知市民の「鏡川は当たり前の存在」という認識を変えることへの難しさを感じました。
『鏡川漁業協同組合』は鏡川の目の前にあり、窓の外を覗くと川のそばで犬の散歩をする人やカヌーをする人たち。この日常の風景が実は当たり前ではないということをどう市民に気づいてもらうのか。自分ごとにして考えてもらうのは難しい、と考えている受講生は既に鏡川を自分ごとにできていて、このフィールドワークの空間に希望を感じました。
多様な関わり方があるなかで、自分らしい関わり方ってなんだろう。
現地訪問に続き、最終日は3名のインタビュー動画の視聴から始まりました。人気漫画「釣りバカ日誌」の初代の編集者で定年退職後、高知に移住した黒笹慈幾さんからは、流域関係人口をつくるためには「見える化」が必要だと語ってくれました。上流と下流のものを物々交換するマルシェを行うなど、ヒントを交えながらまずは小さなアイデアを数珠つなぎで続けていくことが大切だということを教わりました。
川は時間軸さえもつないでいる。鏡川一斉清掃の第一回から参加している『ひまわり乳業』の社長・吉澤文治郎さんからは、鏡川は高知の昔、今、未来をつないでいるという考えを話してくれました。上流や下流といった地域ごとに見るのではなく、時間という概念で鏡川をみるというヒントをもらいました。
限界集落といわれている坂口地域に住む山﨑光さんは林業が寂れ地域が過疎化していく過程を話してくれました。これを受け講座メンターの奥川季花さんからは「林業の世界では30年前から課題が変わっていない。大きな課題を一気に解決しようとするのではなく、高知ならではの小さな課題を一つずつ解決していくということが大切だ」という林業の現場からの声を挙げてくれました。
奥川さんは、高校時代に紀伊半島大水害によって被災したことをきっかけに土砂災害リスクの低い山づくりを目指して『ソマノベース』という会社を立ち上げています。そんな奥川さんからも受講生に向けて、地域課題をアクションに結びつけるヒントと題してレクチャーが行われました。関心期から維持期にわけ、受講生の関わりの幅に合わせて奥川さんの取り組みからヒントを得る時間となりました。たくさんの地域課題に直面し、一体自分たちは何ができるのかと気負ってしまったところに「ゴミ拾いだって立派な地域課題解決へのアプローチである」ということを自分の体験を元に教えてくれました。
最後に、関わりしろを考えた受講生からは「河原で屋台村」「こども交換留学」「地域を丸ごと根っこから 究極の食体験」など自分らしいアイデアが飛び交いました。次回の講座までにこれらをブラッシュアップして発表を行います。3日間の講座とフィールドワークを通して受講生がどのような自分らしい関わり方を見出していくのか楽しみです。発表会も別途レポート記事になる予定なので、受講生がどんな自分らしい関わり方を見つけたのか読んでみてください。
photographs & text by Mariya Kazusa