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「ひさしぶり」「ありがとう」「おかげさまで」が飛び交う町。柏には顔の見えるジモト感がありました!

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※本記事は雑誌ソトコト2018年2月号の内容を掲載しています。記載されている内容は発刊当時の情報です。本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

東京駅から上野東京ラインに乗って30分強。千葉県柏市は、訪れる人が次々とコミュニティの一員になっていく不思議なまちだ。その秘密を探るべく、『EDGE HAUS』油原祐貴さんに柏の関係案内所を紹介してもらった。

目次

地域をおもしろくするおせっかい。

”ウラカシ“という言葉をご存じだろうか。1980年代から90年代にかけて、柏駅周辺の裏通りには古着屋を中心に個性的な店が立ち並び、「東の渋谷」と呼ばれるほど隆盛を極めた。その勢いは時代と共に少しずつ衰えていったが、いま、柏は再び注目を集めはじめている。火付け役の一翼を担うのが合同会社『EDGE HAUS』。柏で人と人がつながる場やイベントを企画・運営する会社だ。

 代表の油原祐貴さんは茨城県龍ケ崎市出身。高校生の頃からウラカシに通っていて、外から来る人を懐深く受け入れる風土に魅力を感じていたという。大学卒業後はリクルートに入社し、『ホットペッパー柏』編集部の立ち上げを担当。しかし、そこで葛藤を抱くことになる。「クーポン誌ができたことで、それまでクチコミで人が入っていたお店が安さで選ばれるようになっていったんです。自分が好きだった柏の文化を壊してしまったように感じて、顔が見える関係性を紡ぐ新たな仕組みを模索しはじめました」。

 油原さんが最終的に辿り着いたのは、メディアの役割を果たす場をつくることだった。2012年、日によって店長が替わるコミュニティカフェ『YOL Cafe Frosch』(以下、『フロッシュ』)をオープン。その1年後、仲間と共に『EDGE HAUS』を設立した。「”おかげさまサイズ“のジモトを醸す」が企業理念。「全国の酒蔵には特有の菌がいて、杜氏が混ぜたり温めたりすることでその土地独自の地酒ができます。僕らも同じように、柏ならではの人や文化を交ぜてまちを発酵させたいと思っています。じゃあどんな風に醸すかというと、キーワードは『おかげさま』。『ありがとう、おかげさまで』といった言葉が飛び交うようなまちにしていきたいんです」。そのために大事にしているのは、積極的におせっかいをすること。たとえば、フロッシュに来たお客さん同士をつなげたり、ギターを買った知人のために音楽祭を開くことにしたり。そういったおせっかいによって、地域外の人もいつの間にかコミュニティの一員となり、関係人口の階段を上っていく。

クリエイターや起業家が集まるコワーキングスペース。

『EDGE HAUS』代表の油原祐貴さん(左)とゼネラルスタッフの行政翔平さん(右)。
『EDGE HAUS』代表の油原祐貴さん(左)とゼネラルスタッフの行政翔平さん(右)。

 では、その階段の入り口はどこにあるのだろう? 油原さんが最初に案内してくれたのは、『EDGE HAUS』が運営するコワーキングスペース『Nobless Oblige』、通称NOB。柏界隈のクリエイターや起業家の活動拠点だ。ドロップインでの利用も可能で、登録者の半数は柏市外の人だという。行政がNOBのメンバーに仕事を依頼したり、メンバー同士で周辺の店に飲みに行ったり、といった流れも生まれている。「初めての利用者に、『とんかつのうまい店があるから絶対そこへ行ってください』と強く勧めることもあります。そうすると、『NOBでおすすめされて来ました』とお店の人に話しかけやすくなりますよね。NOBの利用者であることが、地域の人と交流するときの名刺代わりになるんです」。ここでも、油原さんのおせっかいがいい具合に作用しているようだ。

ウラカシのDNAを継ぐ、ファッション・コミュニティ。

左から2番目が店長の田中庸介さん。田中さんの左がスタッフの吉村健さん、右が佐野新吾さんと岡純平さん。
左から2番目が店長の田中庸介さん。田中さんの左がスタッフの吉村健さん、右が佐野新吾さんと岡純平さん。

 続いて、柏を代表するセレクトショップ『iii3(アイスリー)』へ。この店を経営する田中庸介さんも最盛期のウラカシに遊びに来ていて、買い手から売り手へとシフトした一人だ。店の壁をギャラリーにしてアーティストの作品を展示したり、駐車場で餅つき大会を開いたりと、枠にとらわれない活動を展開する。遠方から服を買いに来た人が地元客と仲良くなって一緒に飲みに行く、なんてこともたびたびあるそうだ。

 2017年11月、田中さんは「柏をもう一度ファッションのまちとして盛り上げていこう」という志を同じくする仲間と共に、「ウラカシ百年会」を立ち上げた。エリアをまたいだ新しい商店会で、約30店舗が加盟する。柏に興味・関心のある個人も会員として参加可能だ。『オモシロイことを企む自由の総合商人』のようなものです。これからどんどん企画を仕掛けていきますよ」と田中さん。休日になると路地を人が埋め尽くしていたかつてのウラカシの風景が戻ってくる日も、そう遠くないかもしれない。


柏の生産者と消費者・飲食店がつながる場所。

柏の生産者と消費者・飲食店がつながる場所。

駅前から車を15分ほど走らせると豊かな農地が広がる柏。だが、都市部で暮らし、働く人が農家と知り合う機会はあまりない。そこで2016年、都市デザインコンサルタントの鈴木亮平さんは、農家・飲食店と一緒に「路地裏マルシェ」を立ち上げた。毎週水曜日、駅前の空き地が数時間だけファーマーズマーケットの会場となり、農家が直接採れたて野菜を販売する。「水曜以外も買えるようにしてほしい」という声が多く上がったことから、2017年6月、柏駅から徒歩1分の場所に実店舗『ろじまる』がオープンした。これらの取り組みによって、農家にファンがつくように。

『ろじまる』代表の森脇菜採さん(左)と副代表の鈴木亮平さん(右)。鈴木さんはNPO『balloon』の代表でもある。
『ろじまる』代表の森脇菜採さん(左)と副代表の鈴木亮平さん(右)。鈴木さんはNPO『balloon』の代表でもある。

「路地裏マルシェでは農家さんと直接相談できるので、飲食店の方が買いに来ることが多いですね。ろじまるにはOLさんがお昼休みに立ち寄ってくれたりします。スーパーでは見向きもされない珍しい野菜も、ここではスタッフが味や調理方法をお伝えできるから、よく売れるんですよ」と鈴木さん。茨城や東京から来る人も多く、通ううちに買う側も野菜の旬や農法に詳しくなっていく。生産者と消費者・飲食店のよい関係が生まれる場所になっている。

日替わりでゲスト店長がやってくる、コミュニティカフェ。

『YOL Cafe Frosh』に集まる仲間たち
ギターを持っているのは、時折フロッシュで音楽店長を務めるミュージシャンの浅川貴史さん。

 最後に訪問したのは、『YOL Cafe Frosch』。中に入ると、常連さんがメニューを手渡しながらおすすめ料理を教えてくれた。ここの特徴は、誰でも一日店長になれること。三陸出身の人が地元のムール貝を使った料理を振る舞ったり、ミュージシャンが店長となってライブをしたりと、店は毎日表情を変える。この制度のおもしろい点は、サービスを提供する側・受ける側の境界線が曖昧になっていくこと。自分が店長ではない日も片付けを手伝ったり、初めて来た人に店の説明をしたりする客が増え、それが居心地のよさを生む。「フロッシュのおかげで柏に仲間ができた、とお礼を言われることも多いんです」と、油原さんはうれしそうに顔をほころばせる。「そうやって楽しんでくれる人のおかげでフロッシュもまたいい場になっていくわけです。お互いに『おかげさま』と思っている、こういう関係性を、僕はやっぱり大事にしていきたいです」。

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