「パーマカルチャー」はオーストラリアから世界へと広がり、日本では1996年に『パーマカルチャー・センター・ジャパン』が設立されました。今では各地で「パーマカルチャー・デザイン・コース(以下PDC)」が実施されています。今回は、日本のパーマカルチャーシーンをけん引する本間・フィル・キャッシュマンさん(以下、フィルさん)、ヘイミッシュ・マーフィーさん(以下、ヘイミッシュさん)、ソーヤー・海(かい)さん(以下、海さん)の、消費者から創造者になるパーマカルチャーな暮らしを紹介します。
パーマカルチャーについての記事
・「パーマカルチャー」って知ってる? 消費者から創造者になって循環する生き方
・パーマカルチャー実践者に聞く、すぐに始められるパーマカルチャー的行動6例
実験して、間違えて、学び、遊ぶ。フィルさんの『Permaculture Awa』
南房総市和田町にある『Permaculture Awa』(通称『パワ』)は、フィルさんがパーマカルチャーを実践しているフィールドです。2013年に立ち上げたコンパクトな循環型生活システムで、一反(300坪)の敷地でできるパーマカルチャーシステムがデザインされています。
フィルさん「コンパクトに表現したかった。小さなゾーン(区画)をどこまで機能的にできるか。小規模から始めて発展していけばいい。子どもが成長してここで遊ばなくなると、ニーズ(求めるもの)が変化する。自分の変化に応じて、パワも変化していく。常にリデザインすることが大事」
フィルさんが土地の整備を始めたとき、この場所にずっといられるかどうかはっきりしない状態でした。「限界はチャンス。トラブルがあるからこそ、できることがある」そう話すフィルさんは、出ていくことになっても移動できるように、ピザ窯もロケットマスヒーターも移動式のものを作りました。
フィルさん「いつ出ていってと言われてもいい状態は、すごく強い。やってることが全部、遊びであってほしい。ぼくはそれが学び。本気で遊んでいると間違いがおきるけど、間違えてもOK。間違いはぼくのもの。何よりもの財産になる」
自然界には無駄がありません。「どれだけ要らないモノを落としていくか、それに魅力を感じるようになった」とフィルさんは言います。必要なモノだけをコンパクトに集めて、余計なエネルギーを使わなくて済むように、多機能性がつながり合う配置になるようデザインして、フィールド作りをしています。
そこに暮らし、土地の全てとつながる。ヘイミッシュさんのフィールド『食べられる森―Uzume―』
フィルさんとは対照的に、約9000坪の敷地を有しているウズメは、ヘイミッシュ・マーフィーさんが2014年に鴨川市で立ち上げた里山再生プロジェクトです。PDCコーススケジュールのDay 6は、Uzumeツアーでした。ヘイミッシュさんにとってのパーマカルチャーとは、どんな世界観なのでしょうか。
ヘイミッシュさん「はじめは、機能的なものだった。考え方が分かると、生活のなかで広く使えるもの。今は生活のなかで何がアースケアかを考え直して、“マイパーマカルチャー”にした。(パーマカルチャー3つの倫理の)ピープルケアをセルフケアにして、アースケアよりも上のトップにした。自分を大切にできなければ人を愛せない。自分を愛してほかも大切にする。自己愛ある人はアースケアができるから、アースケアは下に」
もともと、週末を過ごすための別荘を建てた場所でしたが、その後パーマカルチャーについて学び、土地を開拓。敷地内に新たに建てた住居はもみ殻を断熱材として使い、外壁は焼き杉、コンポストトイレを取り入れたオフグリットハウスです。
敷地の入り口から住宅までの間に、円形の大きな屋外ステージ、ツリーハウス、ジビエ肉の加工場や多様性と作業効率を高めるキーホールガーデン、ため池やカモの家などがあり、あちらこちらに花や実を付ける植物が植えられています。
ヘイミッシュさんが、この広大なフィールドを整備するときにこだわっていることは何か、聞いてみました。
ヘイミッシュさん「全てのもののつながり。木、動物、ヘビ、鳥、天気、雨、全て意識があると思う。だからいつも太陽、雨、木と話している。家を建てたとき、家の横の赤松が茶色くなって、死にかかった。悲しくて、毎日ハグしていたら、4倍くらい大きく元気になって、今では大親友になった。ため池を造ったらカエルが増えて、ヘビも、他の生物も増えた。マムシも多いけど、ヘビにもリスペクトして『みんなのためにやってるから噛まないでね』って話す。住んでいるから、土地や生物たちとのつながりを感じる。彼らと話すようにしていることが、何よりもポイント」
失敗が許され、自信につながる場所。ソーヤー海さんのフィールド『パーマカルチャーと平和道場』
全ての命が大事にされる社会のための実験と実践の場として、ソーヤー・海(かい)さんが仲間と2016年に立ち上げたのが、2700坪の敷地を有する『パーマカルチャーと平和道場(以下道場)』です。PDCコーススケジュールのDay 11は、いすみ市にある道場に集合し、再生した築150年の古民家やアウトドアキッチン、手作りの小屋や畑を見学しました。
10年契約でこの場所を借りている海さんは、いつでも手放せるように再生しているといいます。
海さん「体験と知識は持っていける。ここは低所得、低技術で、バックグランドに技術ないし、極めようとも思ってない。やってみたいことをやって、失敗が許される場所。失敗できる場をつくるのが大事。失敗を受け止める寛容さも大事。一回やると、すごく自信つくし、その後の成長がすごい」
海さんがパーマカルチャーで意識していることは、“シンプル”であること。シンプルだと壊れにくく、壊れても修理しやすいし、誰にでもできるから。そんな彼が愛用しているのが、太陽光を利用したソーラーオーブンやソーラークッカーです。
海さん「ソーラーオーブンは、使っても請求書が来ない。薪は、切って運ぶエネルギーがかかるし、二酸化炭素やススも出るし、温暖化に加担するけど、太陽光はそれがない。使うことで太陽への意識が変わる」
海さんがフィールド造りで目指しているのは、「常に未完成であること」。完成は決してゴールではなく、色々な人が実験して学びと成長ができるように、誰でも手を加えたくなるような未完成度を維持しています。
フィールドの面積も、デザインも、考え方も、そこには3人3用のパーマカルチャーがありました。パーマカルチャーデザイナーが集まれば、その数だけのパーマカルチャーてき考え方と出逢えそうです。
PDC受講生たちが考えるパーマカルチャーや、今すぐに取り組めるパーマカルチャー的行動については、記事「パーマカルチャー実践者に聞く、すぐに始められるパーマカルチャー的行動6例」で紹介します。
Permaculture Awa
web:https://permaculture-awa.wixsite.com/permaculture-awa
パーマカルチャーセンター上籾
web:https://pamimomi.com/
Facebook:https://www.facebook.com/PermacultureKamimomi/
パーマカルチャーと平和道場
web:https://peaceandpermadojo.wixsite.com/home
鴨川SupernaturalDeluxe
web:https://super-deluxe.com/
取材協力:PDC@鴨川SupernaturalDeluxe関係者・受講者の皆さま
写真・文:鍋田ゆかり