地方で働く女性、都心で働く女性、子育てをしながら働く女性、さまざまなライフスタイルを送る女性たちを取り上げ、女性の健康課題や社会課題について考える対談コンテンツです。
前編の記事はこちら『【フェムコト インタビューvol.4 前編】社会の動きと女性のマインド、両軸の変化が必要 株式会社陽と人代表・小林味愛さん』
株式会社陽と人の代表 小林味愛さん
慶應義塾大学を卒業後、衆議院調査局へ入局し、経済産業省に出向。その後、民間企業に転職し、地域活性化などのコンサルティングを行う中で、結びつきが生まれた福島県伊達郡国見町で農産物の流通・加工品企画販売・ 地域づくりを行う、株式会社陽と人を設立。フェミニンケア『明日 わたしは柿の木にのぼる』(https://ashita-kaki.com/)を立ち上げる。
女性の健康課題や、働き方、社会全体の話も、もとを辿れば性教育につながる
フェムテック tv:はい、私たちもそう感じています。
小林さん:身体の仕組みはこうで、生理はどう起きるのか、そして、どう対処していくのかっていうことを、等しく学ぶ機会がないっていうのはおかしいなと感じています。実際、社会人になって、体調を崩してから知るケースも多いですよね。
フェムテック tv:現状、自力で調べるしかないという状況で、しかも、情報の精査も必要になってきます。
小林さん:そうそうそう。さらには、レディースクリニックや産婦人科での対応にも差がすごくある。きちんと話を聞いてくれるところもあれば、「そんなことで病院に来たの?」というテンションのところもあります。
フェムテック tv:そういう話はよく聞きます。なぜ、産婦人科は皮膚科のようにラフに行けないかというと、先生との出会い方がまずかったって。
だから、教育の問題がありつつも、医療機関、専門家の意識も変えつつですよね。何かひとつを変えるというよりは、全体的に底上げしていかないと根本的解決にならないと。そこが難しいところなのかなという印象です。
小林さん:本当にそうですね。
私自身もそうでしたが、元気にばりばり働いている時に、まさか自分が病気になるとか、不調になるとかは思いもしないんですよね。だから、わざわざ身体や生理についての情報を自ら取りにいく必要性がないので、その選択肢がそもそもないですよね。
だけど何かが起きてしまってから気づくのでは遅い。だから、弊社で行う企業研修やセミナー、ホップアップ、インスタライブでは、働く女性の健康課題の中でも、せめてこれは知っておいてほしいことを発信しています。
女性の健康課題とキャリアをどう結び付けるか
小林さん:現代は昔とはライフスタイルが変わってきたけど、身体の仕組みは変わりません。という話を大前提に、例えば、女性ホルモン(通称)の基本的な仕組みや生理が起こる仕組み、生理用品の多様性、妊娠や出産、更年期についても。
フェムテック tv:知っておくべきことでも、けっこうありますね。
小林さん:そうですね。デリケートゾーンのケアブランドをやっている理由も、女性の健康課題とキャリアをどう結び付けるかということを、本当に大事にしています。
今、そういった知っておくべきことをまとめたファクトブックを制作していて。捨てられないようにいろんな仕掛けをしつつ、初回は無料で配るって決めています。
フェムテック tv:すごいです! そのバイタリティはどこから出てくるんですか?
小林さん:本当にやりたいことなんです。
私が社会人になった頃に、ちょうど女性活躍って言われ始めた時代で。でも、女性は男性社会の中で、歯を食いしばって弱音も吐けずに、我慢しながら働いてたし、それはおかしいと思っていて。
私自身、生理不順が当たり前だったし、生理中に長時間の会議があると「漏れないかな……」っていう不安があったり、そういう状況の中でも頑張って働いていたら、「小林は女なのに心は男だって」言われて。
フェムテック tv:頑張って働いる女性が、「お前、男みたいだな」って言われることは、その頃は今よりも多かったですよね。
小林さん:そうやって働いて、どんどんキャリアを昇り詰めようと思っていた女性ほど、自分らしくとか、自己表現があまりできなかったと思うんです。組織の中でいかに評価されるかっていう働き方をしてるから。これが女性活躍って勘違いされてるのってあまりにもおかしいって思ってたんです。
フェムテック tv:男性の中で働くことが正義で、それが働く女性の正解みたいな感じでしたよね。
小林さん:だから、結局、出産を選んでキャリアを諦めるか、出産は諦めてキャリアを築くかのどちらかしかなくて。それを女性活躍っていうのは違うと感じました。
でもいまだに社会では、家のことはまだまだ女性がやるべきって思われているところもありますよね。
フェムテック tv:そうですね……。
子供がいながら女性の管理職が増えたら、社会は全然違うものになる
働き方だけではなくて、家のこと、子育てのこと……どこまで女性たちを追いつめてるのかなって。それは本当におかしいと思う。
男性が育児をすることが当たり前になったり、子供がいながら女性の管理職が増えていったら、社会は全然違うものになると思うんです。ただ、男性のように働いて出産は諦めるか、出産を望むなら辞めるか会社を変えるしかない、というマインドがまだまだ強くて、それが自分の子どもの世代にまで残ったら本当に嫌だと思っています。だからこそ、きちんと正しい知識を男女ともに分かりやすく知って、共感してもらえる選択肢が増えるようにしていきたいです。
フェムテック tv:その想いが先ほどのファクトブックにつながっているんですね。
小林さん:はい。ファクトブックには、進化論の話も収録しています。そういうことを入れることによって、男女での生物学的な違いが分かり、単に女性の問題だけではなく、男性にも分かりやすい仕組みになるのかなって。
実は、日本の研究データのベースになっているのは、多くが男性で、例えば、工学の分野では、オフィス用のイスはそのデータに基づいて作られているので、男性のほうが心地がいいことが多い。医療の分野においても、ある薬は女性のほうが副作用が出やすいというのがあるのですが、それは基になっているデータのベースが男性だから。
最近はそういった事実も出てきているので、データの蓄積なども含めて考えると根本的な解決には何百年もかかる問題だと思います。でも、海外も含めて、女性の健康課題に着目されて、フェムテックの動きも出てきて、組織がどんどん変わっていけば、本当の意味で女性が活躍できて、女性の研究データも増えていきますよね。
長い道のりにはなりますが、今、その始まりに私たちはいるから、地道に頑張るしかないって思っています。
福島県の農家さんに出会い「生きるって何だろう」という問いが生まれた
小林さん:私のウェルビーイングの考え方が変わったのは、会社を立ち上げる前なんですが、福島県でいろんな農家さんに出会ったっていうのが大きなきっかけでした。
私は東京で生まれ育ってきて、会社で10年近く働いて、たぶんずっと競争社会の中にいたんだと思うんです。当時は、子どもを作ることで自分が今まで積み上げてきたものがすべて崩れるのであれば、子どもは絶対いらないと思っていたくらいです。今まで生きてきた環境の中では、その選択が当たり前で、それが一番いいと思っていました。
そんな中で、農家さんやいろんな人に出会ったのですが、みなさん当たり前のように5、6人子供がいるんですよ。当たり前のようにパパも育児をしていて、むしろ、地域全体で育てている。そして、太陽が昇ったら畑に行って、太陽が沈んだら家に帰るんですね。そういう生活を見ていたら、「あ、太陽ってあるんだ」って(笑)。東京は夜でも明るいから、太陽が昇って沈むことに着目したことがほとんどなくて。
フェムテック tv:はい、とてもよく分かります。
小林さん:農家さんとコミュニケーションを取る中で、「私は仕事があるから子どもは作る気ないです」って言ったら、みなさんが驚いて、「子どもが宝だ。じゃあ、なんのために働くんだ」って私に聞いたんですよ。「なんのために働いているんだ」っていう、今までになかった問いと価値観をもらって、今までの私の価値観や働き方、生き方はすごく小さな枠で、その中で必死に這い上がろうと自分を殺して努力してきたんだなって。なんて滑稽なんだろうって思ったんですよね。
「生きるって何だろう」っていう問いに、決してこの小さな枠の中で競争をしながら働いていくことではない、私だからこそできること、私が無理しないで誰かを幸せにできることを模索していったほうがいいなって思って、すぐに当時の会社を辞めました。
フェムテック tv:そう思って、行動に移せたことがすごいと思います。
小林さん:自分の生き方とまったく違うベクトル、まったく違う次元で生きている人たちと身近で触れ合う中で、東京にはない価値観を自分の中で得れました。そして、子どもを初めて可愛い存在だと思えたんです。それまでは、子どもが可愛いと思えたことがなかったから。
フェムテック tv:そうだったんですね。そう思っていた理由があったんですか?
小林さん:今までは、妊娠するのが怖かったんです。
例えば、東京は満員電車が当たり前だけど、優先席で妊婦さんが席を譲られてるところをほぼ見たことないし、赤ちゃんが電車で泣いていた時にうるさいと怒鳴っている人もいたし、国が少子化が問題だという割に子どもを産むことが歓迎されない社会だなってずっと思ってたんです。
でも福島県では、まだ妊娠してることが気づかれないくらいの時期に、「味愛ちゃん、子どもできたんかい」って言われて、「えーなんで分かるの⁉」って。「分かるでー。重い物は持つなよ。やっておくから」って、本当に全部やってくれるんです。
フェムテック tv:素敵ですね。
小林さん:実際に子どもが生まれたら、いろんなもの食べさせてくれたり、いろんなお祝い事をやってくれたり。そういう生き方があることを知れたことが、私にとってはウェルビーイング。
フェムテック tv:今は核家族で子育てしているのが問題だとも言いますよね。昔は地域で育てていたから何人も産めたって。
ブランド名の『わたしは柿の木にのぼる』というフレーズには、女性が自分自身で人生を選んでいくっていう強い意志を込めてるんです。
そして『明日』というフレーズには、「明日でも大丈夫だよ」という意味を込めています。現状、仕事も、家事も、育児も、いろんなところで頑張っていっぱいいっぱいになっていることも多いと思います。でも、本当に大変な時に、本当に辛い時に、私たちのブランド名を見て、「明日でも大丈夫」と言ってくれる人が必ずいることを思い出してほしくて。
『明日』の後ろに半角開けているのは、女性の心のゆとり、時間のゆとり、息継ぎを表現しています。それこそウェルビーイングなところを表現した半角になっています。
ちなみに、パッケージに金の箔でデザインしたところがあるんですが、これはアイテムごとにちょっと変えています。それは多様なデリケートゾーンを表してるんです。デリケートゾーンは、本当に人によって見た目も違うので、女性自身もみんな違って多様だから、自分を大事にしてほしいっていう想いを込めて、あえて可愛く表現してぽんっと表に出しています。
フェムテック tv:そうだったんですね。初めて見た時は、ブランド名から衝撃的でした。だからこそ気になっていたので、その背景が知れて嬉しかったです。ありがとうございました!
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