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連載 | フェムコト

【後編】自分が感じていることをもっと気軽に話してもいい!|テレビ東京プロデューサー・工藤里紗さん

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地方で働く女性、都心で働く女性、子育てをしながら働く女性、さまざまなライフスタイルを送る女性たちを取り上げ、女性の健康課題や社会課題について考える対談コンテンツ『フェムコト』。前編に引き続き、『生理CAMP2020』や『シナぷしゅ』などを担当するテレビ東京プロデューサーである工藤里紗さんとの対談です。フェムテックが拡大する中で感じている懸念点。そして、工藤さんが番組を作るうえで大切にしていること、伝えたいことを教えてもらいました。

-工藤里紗さんの3つのルール-

RULE1.「性」のカテゴライズにこだわらない
RULE2.PMSや生理対策は身体の負担と自分のニーズを考えて取り入れる
RULE3. ロードバイクで今に集中して心と身体で感じる

〈Profile〉
工藤里紗(くどう・りさ)さん
●株式会社 テレビ東京 制作局 クリエイティブ制作チーム プロデューサー
慶應義塾大学環境情報学部卒業。2003年、テレビ東京に入社後、『生理CAMP』『極嬢ヂカラ』『アラサーちゃん無修正』『昼めし旅』『よだれもん家族』『秒でNEWS180』『シナぷしゅ』『種から植えるTV』など幅広いジャンルのヒット番組を手がける。

目次

誰よりも早い初潮で孤独を感じた

フェムテック tv:工藤さんの生理体験が番組制作に活かされているところはありますか?

工藤さん:私の場合は、生理前に眠くなる、頭が痛くなる、気分が悪くなるというPMSの症状や初潮が早かったということがあるように、人それぞれに生理ストーリーがあると思います。共有することで知れることがある一方で、プライベートなことでもあるのでランチの時に気軽に話せるようなことでもないと感じています。

ただ、気軽に相談してもいいということは知っていてほしいですね。中には、婦人科に行って「え、こんなこと来たんですか?」と言われたらどうしようという不安を聞くこともありますが、些細なことでも受診して、相談してもいいんです!

誰よりも早く初潮がきた時、相談できなくて孤独でした。特に小学生の時はみんなと違うということが孤独の要因になりやすいと思うんです。高学年になると初潮を迎える人が増えて、一緒にプールを見学する人ができました。その時は仲間ができた感じで心強かったですし、ナプキンを忘れた時に「持っている?」というやりとりができますよね。同士みたいな感じなので、そうすると自分が抱えていた孤独感や悩みがだんだんと和らいできました。こういうことは10代でも、大人になってからもあると思うんです。その考えは『生理CAMP2020』に活かされていると感じています。

フェムテック tv:『生理CAMP2020』を放映した後、周りからの反響はどうでしたか?

工藤さん:フェムテックという言葉が出てきたこともそうですが、生理に関するコンテンツや記事がすごく増えたと思います。もともとYouTubeで生理コンテンツはあったと思いますが、それがもっとオープンな形で目にする機会が増えている印象です。雑誌の表紙にも生理と書いてあったり、書店でもメインのスペースに置かれていたり。ネットニュースの記事でも、生理の貧困やナプキンに関する記事を見るようになったのは大きな変化だと思います。

会話の中で生理というワードが当たり前のように使われるように

フェムテック tv:生理をはじめ、PMSや更年期といったワードも目にする機会は増えましたよね。

工藤さん:はい、ここ数年ですごく増えていますよね。身近なところで言いますと、上司や編成と言われるどういう番組を制作するかを決める部署はほぼ男性です。番組の台本を渡す時は番組名の『生理CAMP2020』を言わざるを得ない。言っているうちに、生理というワードに抵抗がなくなっていくんですよね。その流れは、メーカー担当者や代理店の方たちにも広がって、「生理CAMPのようなイベントできない?」と、会話の中で普通に出てくるようになったのも大きな変化のひとつだと思います。

フェムテック tv:番組名だから言わざるを得ないということを想定して『生理CAMP2020』に?

工藤さん:ここまで言われるようになるというのは想像していなかったですけど、これまでにも女性の身体に関すること、悩みを扱う番組はたくさんありましたし、私自身も試作してきました。その中で生理をフォーカスしたいという時にタイトルとして打ち出したほうが世の中に少しでもエールを送れるのではないかと考えて、ダイレクトなタイトルにしたほうがいいなと思いました。必ずしもオープンに話す必要はないけど、だからと言って隠さなければいけないことでもないから、「生理」を文字化してタイトルにしたという感じです。

フェムテック tv:タイトルは重要ですよね。

工藤さん:そうですね。これが『お悩みガールズナイト』とかだと違う感じになりますよね(笑)。

フェムテック tv:生理のコンテンツや記事が増えている中で、生理用品の選択肢も広がっています。いろいろと試していますか?

工藤さん:はい!月経カップは便利だし、サステナブルだと多くの人にすすめてもらって試してみたのですが、私は上手に装着できませんでした。折りたたんで中で開く時に上手くいく時と、何回やってもパカっ! と開かない時があったり、取り出した後に会社でどう洗えばいいのか、この手はどうしたらいいのか……と、練習不足かもですが不器用な私には向いていないと感じました。でも、使えると何かの時には便利なので、試しておいたり、ひとつ持っておくのはお勧めです。

また深夜番組を制作している時に、世界の便利グッズを紹介しようという演出があり、自分が知らないものを紹介するわけにはいかないと、その時にアメリカで誕生したという、使い捨ての月経カップのようなアイテムの月経ディスクを試してみたこともあります。説明書には恥骨のほうまで入れて……と書いてあって、「そんな奥まで入れて出せなくなったらどうしよう」と、途中で怖くなっちゃいました。

いろいろ試しながら、カップタイプは私にとって楽ではないことが分かりました。今はいろんなブランドの吸水ショーツを試していて、便利だなと思っています。現状、ナプキン、タンポン、吸水ショーツを併用している感じです。

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工藤さんがチャレンジしたという月経ディスク。

フェムテックはあくまでも毎日を心地よく過ごすためのもの

フェムテック tv:生理以外のことも含めて、女性の健康課題に対する現状はどう思いますか?

工藤さん:医療制度が違うので、日本と欧米を比較することは難しいと思っています。例えば、アメリカは日本の保険の仕組みと違うから、なにかしらの不調があっても気軽に「病院に行けばいい」とは言えないですよね。そう言えるのは日本の保険制度があるから。海外だと受診するだけで何百ドルも費用がかかり気軽に行けないから、予防をするとか、病院に行かなくても過ごせるようにグッズを活用することが考えられます。ただ、それらのグッズは日本の場合、快適に過ごすための+αの要素が多いかなと思います。

最近のフェムテックに関しては、広がってはいるものの根本的に解決できることではないものも多い印象があります。どこかファッション的というか、トレンド化しているというか。話題になって知られることは大事だと思っているのですが、ファッション的な部分で広がりすぎてしまわないかなと心配もあります。

そうなってしまうとこのアイテムを取り入れればOK! 何かが治るみたいな、誤った形で知識を得る人もいると思っていて。身体の不調は命にかかわることなので、病院を受診することは大前提として、現状あるフェムテックのグッズの多くはあくまでも毎日を心地よく過ごすためのもの。いろんなグッズが広がっているからこそ、すみわけが必要というか、病院に気軽に行ってもいいという知識も同時に伝えていくことが大切だと思っています。

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サウナが好きで、コロナ前の2019年に家族でフィンランドへ。「サウナも、個人が自分で考え、生きるフィンランドの社会の在り方もウェルビーイングだと感じました」。

自分の抱えている課題を番組作りにも反映

自分の抱えている課題を番組作りにも反映

フェムテック tv:その想いも踏まえたうえで今後、どんな番組を作りたいと考えていますか?

工藤さん:私自身も、近い将来!? 更年期へとライフステージが変わっていきますし、今後も快適に過ごしていきたいと思っています。私と同じように思っている仲間もいると思いますし、広い意味での女性の性と健康とライフスタイルに興味があって、関心が高いです。

生理が話題になっている一方で、まだまだ更年期の症状に関してはネガティブに言われやすいと感じています。もしその時期を迎えたらナーバスになる話題だと思います。私は興味があるからいろいろ調べますが、頭でっかちになって不安感ばっかり増す時もあります。事実としてこういうことが起きる、でもこういう対策があるっていうのは知りたいので、きちんと裏付けをした形でお届けしていきたいです。

フェムテック tv:工藤さん自身のライフスタイルに根付いた形での番組作りになりそうですね。

工藤さん:はい、そうですね。性分野以外も、テレビ番組はいろんな人の生活に影響するところがあります。でも、影響したことすべてに責任がとれるかと言われたら難しいです。

だからこそ自分が発信するものには何かしらの意義を大切にしたいです。流行っているから、視聴率が取れるからではなく、先ほどお話ししたフェムテックのファッション化もビジネス的に成功しやすいからという側面は出てきていますよね。いろんな情報を扱ううえでは、キャッチーな部分と合わせて本質的に何を大切にしたいかは考えます。そのうえで、自分の生活や抱えている課題とも照らし合わせていくことは、番組作りにおいて大事だと思っています。

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撮影現場の様子。

好きなものを気楽に好きと言える社会に

フェムテック tv:工藤さんが考えるウェルビーイングな社会とはどんな社会ですか?

工藤さん:好きなこと、困っていることなど、自分が感じていることや思っていることをあれこれ考えずに気軽に言える社会なのかなと思っています。

「思っていることをどんどん言っていこう」「それぞれでいいんだよ」という流れができてきているとは思いますが、でも実はすごく難しい。特に今は情報過多になっていて、多角的にいろんな情報を知れるということはプラスもありますが、いろんな人の考え方がすごくライトな感じで自分の頭に入ってくるところがあって。

例えば、月経カップや吸水ショーツが誕生して、さらにSDGsの流れがある中で、「やっぱりナプキンが便利です!」と言うことすら時に勇気がいる。「ナプキンが好きって言ったら、月経カップを推していた先生はなんて言うかな」「サステナブルな知人は、ナプキンはゴミが……と思うかな」と、いろいろ考えた結果、「いろんなスタイルがありますよね」となりがちな社会になっているような気がします。

先日、結婚した友人が、結婚の報告を職場でしたいのだけど、周りにどう思われるか分からず言えない、と話していたり。ある人は、好きなものは焼き肉なのに、ルックスの事をネット上で何か言われて「焼き肉が好き」とも言えなくなり。好きな事も、素直に言えないなんて何だかな、と思います。

人を傷つけることやハラスメントになるようなことを言わないのは大切だと思います。しかし、色んな人の声を知る事と、色んな人の声を気にしすぎて自分の声を出せなくなることは違うなと。どのように自分と違うものを知り、そこからどのように自分で意思決定をするかが大切。教育も含めてもっと根本部分の話だと思うのですが、好きなもの、やりたい事、困った事は気にせずにアウトプットできる社会になるといいですね。

「あーお腹が痛い。だるい。今日は会社に行きたくない」と、生理の時に思ったとして、その時に「〇〇ちゃんはもっと大変そうなのに」「みんな我慢している」とかは考えなくてもいい。もっと自分の感じていることは素直に言ってもいいと思っています。そして、その感じていることに対してジャッジをしない。それはそれ、私は私、あなたはあなたという風になって、心も身体も健康で、幸せを感じられる状態がウェルビーイングな社会だなと思います。

フェムテック tv:ジャッジしないというところまでが大切な気がします。

工藤さん:そうなんですよね。ちょっとしたことでジャッジしたり、揶揄したりしないためのベースのリテラシーも大事。でもこのリテラシーにとらわれすぎて何も言わなく、言えなくなってしまうと、言うのが上手な人だけが……というのもアンヘルシー。

ロードバイクで今に集中する時間が貴重

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コロナ禍に始めたというロードバイク。
フェムテック tv:感じにくくなっている、そもそも感じることが分からないという人も多いように思います。

工藤さん:そうですよね。だから何がしたいか、何を好きかが分からなくなっていると思います。自分の感じることに間違いも正解もないから、素直に言えるような社会はウェルビーイングだと思うんです。

フェムテック tv:工藤さんは感じるために何かしていることはありますか?

工藤さん:「よし、この2時間はデジタルデトックスしよう。携帯は見ないぞ」ではなく、自然とデジタルと接しない時間というのが私の中ではすごく貴重になっています。

コロナ禍になってからロードバイクに乗っていて、時間があったらサイクリングロードを走ってます。自然の中で景色や空気、風を感じて、まさに今に集中している状態。今あるものを身体と心で感じています。スポーツバイクのデビューが「しまなみ海道」で、「この距離を自分の身体で移動できたんだ!」という達成感もあり病みつきに。

先日は、息子が通う学校の「自転車クラブ」のボランティアとして、二子玉から府中を大雨の中往復し、子供たちと困難を乗り越え走り切る充実感を味わいましたした。

私たちが目に触れるものは、テレビ番組も動画配信サービスの作品も誰かが制作しているもので、SNSは誰かが言ったこと、メディアの記事は誰かの言葉なんですよね。自分ではない誰かのものをずっと浴び続けている状態なので、ロードバイクはそういうこととは違う世界で、地球を感じながらただ走るから私の中ではすごく大切な時間になっています。

フェムテックtv
株式会社ツインプラネットが運営するフェムテック情報共有サイト。《毎日をイキイキと、自分らしく過ごす》ため、《自分のカラダについての“知らなかった”をなくす》ことを目的に、女性の健康に関するコンテンツを公開しています。
https://femtech.tv/

橋本範子(はしもと・のりこ)●女性誌を中心に手がける編集・ライター。趣味は深夜ラジオを聴くこと。小型船舶2級所持。

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