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連載 | フェムコト

デザインとダイバーシティの二刀流から“自分の幸せの軸は何か”を問い続ける|PPIH・二宮仁美さん

フェムテックtv編集部

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地方で働く女性、都心で働く女性、子育てをしながら働く女性、さまざまなライフスタイルを送る女性たちを取り上げ、女性の健康課題や社会課題について考える対談コンテンツ『フェムコト』。

今回対談させていただいたのは、新卒から『ドン・キホーテ』の店舗デザインに携わり、現在はダイバーシティ推進にも取り組む二宮仁美さん。「中高一貫の女子校出身だったので、ジェンダーを意識したことがなかった」けれど、ダイバーシティ=多様性の業務に携わることで気づくこともあったと言います。デザインとダイバーシティ。一見異なる業務でも、問題を解決するという目的は同じ。デザインという土台から考える、二宮さんの働き方は、多くの人のヒントになるはずです。

ー二宮仁美さんの3つのルールーRULE1. 人と比べず100点を目指さない

RULE2. 食事・睡眠・運動を大切にする

RULE3.「自分の幸せの軸は何か」を常に問い続ける

Profile
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(略称:PPIH)
二宮仁美さん

にのみや・ひとみ 1983年千葉県生まれ。千葉大学工学部卒業後、2005年にPPIHの子会社である株式会社ドン・キホーテ入社。日本のみならず海外の『ドンドンドンキ』の店舗デザインに携わる。2019年11月PPIHのスペースデザイン部部長となり、着実にキャリアを積む。2020年10月には、同社の執行役員、ダイバーシティ・マネジメント委員会委員長兼デザイン統括責任者就任。翌年に取締役に就任。5歳男子の母親としての顔も持つ。6月上旬に第2子出産予定。

目次

人それぞれ大事にしているものが違うから、人と比べても意味がない

フェムテックtv:二宮さんのキャリアスタートについて教えてください。二宮さん:仲のよかった大学の先生が、『ドン・キホーテ』道頓堀店の観覧車デザインプロジェクトに携わることになったんです。それがきっかけでドン・キホーテの方を紹介してもらい、入社することになりました。入社当初はデザイン部もなかったけれど、当時の社長(現・創業会長)が「これから経営においてデザインは重要だ」と、のちに部署をつくってくれることに。その後、創業会長と社長から「デザインは本業としてやってもらいつつ、これからはダイバーシティ推進、特に女性のエンパワーメントをもう一つの仕事としてやってほしい」と直々に言われ、2020年には執行役員に就任しました。

フェムテックtv:デザインの仕事から、いきなり「ダイバーシティ」と言われ、戸惑いはなかったのでしょうか?

二宮さん:専門外のことなので、戸惑いますよね。それまでダイバーシティ推進の業務というものを考えたこともなかったですし…。私がやりたい仕事はデザインで、その夢を叶えるためだけに頑張ってきました。だけど「君しかいない」と言われ、信じてもらっているのなら頑張ろうかなと。これまで自分のやりたいことをやれる環境で働かせてもらい、恩返しの気持ちもありました。先輩もいない、決められたセオリーもない、参考にする人もいない。初めてのことではあるけれど、第一人者として“最初に踏み出す”ことは、デザインの仕事でもやってきたこと。だったらできるんじゃないかとも思いました。

フェムテックtv:デザインの仕事で得たことが、ダイバーシティの仕事にも生かされているんですね。

二宮さん:世の中的に“デザイン思考”と言われますが、デザインとは、問題を解決すること。目の前の事象や対象をよく観察して、そこにいる方々や物が困っていることを解決する。そのコンセプトと形を考えるのがデザインです。この考えは、あらゆることに転用が利く。例えば、私自身ダイバーシティを学ぶ中で、女性の管理職や離職率などいろいろ見えてくる部分がありました。これらに対する仮説を立てて、解決のアイディアを出してやってみる。デザインは独特な発想が求められます。目の前にあることと自分の経験をこねこねと練り、ウルトラCの回答を出さなきゃいけない。ダイバーシティという新しい分野で仕事をする際に、この考え方は非常に生かされていますね。

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ドン・キホーテ五反田東口店。「猥雑な街のイメージと、新しいITの街イメージを融合しています」
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ドン・キホーテ浅草店。「伝統的な街で、夜にはまるでブロードウェイのような派手なネオンが絶妙な違和感を醸し出しています」
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ドン・キホーテ梅田本店。「巨大な顔のオブジェ『うめどん』をあしらいました。海底から浮かび上がってきた都市をイメージ。カンボジア旅行で見た『アンコール・トム』という遺跡を思い出してデザインしました。社内では当時『すごいもの作ったね』と話題になりました」
フェムテックtv:女性が活躍するロールモデルを社内のポータルサイトで発信する『ニノの部屋』もダイバーシティの一環ですよね。二宮さん:ダイバーシティ推進という使命をもらったときに、何をしようかと考え、さまざまなことを勉強しました。そのとき、まず1年目はいろいろやってみよう、それで結果が残ったものを続けようと思ったんです。その一つが『ニノの部屋』。社内で活躍している女性を呼び、『徹子の部屋』形式で私がお話を伺うというもの。月1で社内ポータルサイトに記事を掲載していますが、なかなか好評です。

そもそも私はデザインという専門職でこれまでやってきて、PPIHの中でもレア中のレア。ほとんどの女性は、店舗で働く女性です。そうなると、私の話は何の参考にもならないだろうなと。私よりも、現場で働く女性たちの参考になる人を呼んで、話を聞いたほうがいいなと思いました。

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『ニノの部屋』の一コマ。「この日は都内店舗の女性店長とトーク。さまざま部署の従業員との対談を通して、多用な働き方や価値観を知ってほしいと始めました」
フェムテックtv:人選はどのようにしているのでしょうか?二宮さん:こちらから声を掛けることもあれば、上司からの推薦もあります。上司の方には“ゲストの方の人物像を教えてください”と事前にアンケートを取らせてもらうんですね。それを基に「上司の方はこう言っていますが、どう思いますか?」などと話を展開します。上司は自分の部下は可愛いですから、記事が公開されると見てくれますよね。結構、管理職の男性の方も見てくれるものになりました。そうやって身近な関係性をきっかけに、女性社員が能力を発揮し活躍できる環境づくりに皆が取り組むという意識づくりをこのコンテンツからも強化できればいいですね。

フェムテックtv:さまざまな人のお話が聞けるのは、とても貴重でおもしろいですね。

二宮さん:誰か一人に憧れて、誰か一人を目指すというロールモデルは、今の時代に合っていない気がします。昔は“この人みたいになりたい!”ってあったと思うんですが、それよりもいろんな人を見て参考にして、それを混ぜ合わせて、“じゃあ自分って何なのか?”と、誰かの真似じゃなく自分と向き合ってほしいと思うんです。だからこそ連載形式にして、できるだけいろんな人の働き方や生き方を見せたい。AさんとBさんが言っていることが全く違ったとしても、それでいい。そこに整合性は求めていないし、あくまで価値観の話なんですよね。

フェムテックtv:自分と違う考え方から学ぶことや発見はありますよね。

二宮さん:弊社は仕事で成果を出すための社風として、競争文化を大事にしています。一方で、個人としての人生の価値観については、それぞれが自分と向き合うことが大事だと思っています。“誰かに勝つために”という思考になると、その相手を絶対に超えられないし、自分の軸じゃない。自分にとっての幸せじゃないんです。そこを間違えるのは危ないかなと。“自分がいるフィールドはどこなのか”自分にとっての優先順位を考える。人それぞれ大事にしていることが違うんだから、そこを他人と比べても仕方ない。自分の価値観を自覚するのは、大事なことだと思います。

無理せず“やりたくないことはやらない”選択があってもいい

フェムテックtv:デザインとダイバーシティという二刀流の仕事をこなす二宮さんですが、一日のスケジュールを教えてください。二宮さん:6時半頃に起きて7時に朝食を食べたら、息子の身支度や勉強を見たり、一緒にお絵描きなどを少しします。夫の車で皆で8時過ぎに家を出たら、私は駅で降りて会社へ。9時半頃に出社して、17時には退社。18時過ぎに帰宅して19時前には夕食を済ませ、息子とお風呂に入ります。それから勉強を一緒にして、20時半には寝かしつけ。絵本を読んであげたり、最近では足のマッサージをしてあげたり。揉んでいるうちに私も寝ちゃうことが多いですね。子供には、寝る前に満足して寝てほしいんです。そうしたら“今日一日よかったな”って思ってもらえるかなって。読み聞かせは1歳前から続けていて、最近は2~3冊読むことが多いですね。特別なことは何もしていなくて、すごくシンプルな生き方をしています。

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趣味は子どもの洋服作り。ものづくりが好きなので、集中して服を作ることがストレス発散になる
フェムテックtv:シンプルな生き方にたどり着くまでは、「家事・育児を全部100%やろうとして倒れてしまったことがある」ともお聞きしました。当時のことをお聞かせください。二宮さん:私が36歳で子供が1歳半くらいのときです。当時は、手を抜くということが分からなかったんですね。だけど赤ちゃんって毎週のように熱を出すから私にもうつるし、1週間最後まで熱を出さずに保育園に行ける週がなくて、私の体力も尽きてきました。あるとき私が39度の熱を出し、1週間ほど入院することに。抵抗力が落ちていたんですね。急なことなので、会社にも部下にも迷惑を掛けました。結局、無理した結果。そこですごく反省して、適当でいいんだなと。“いかにやらないか”を考え始めました。

フェムテックtv:まずどんなことを“やらない”と選択したのでしょうか?

二宮さん:退院直後くらいに社内で『180度評価』という、“部下から見たあなたの評価”をされるものがあったんですよ。何を書かれるかソワソワしていたら、みんな“頑張ってほしい”と。部下はほぼ女性だったので、“私も将来は子供が欲しいと考えているから、その道を切り開いてほしい。大変だと思うけど、部下としてできることをしたいと思う”というようなことも言ってもらえました。それがすごくうれしくて、感動したんですよね。それからは、自分で抱えて迷惑を掛けるよりは、みんなに任せていこうという意識に変わりました。

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仕事風景
家事に関しては、変なこだわりを捨てましたね。掃除はロボット掃除機、洗濯は乾燥機を使って、料理も家事代行を取り入れるようになりました。食事は自分で作ることもあるけれど、家事代行に関してはまずは一回やってみようと。夫には「家事代行をトライアルしてみたいと思う」と伝えたところ、「いいんじゃない!」と。やってみて問題があれば、戻せばいいだけ。いざ取り入れてみたら、精神的にかなり楽になりました。私にとっては料理のレシピを考えるのも一苦労(笑)。そのくせ栄養は気にしていて、炒めるとか蒸すとか調理法も毎日変えなきゃと思っていました。今は、100点を目指さない。人と比べないということが大事だなと思います。フェムテックtv:精神的に楽になったことで、健康面でも変化はあったのでしょうか?

二宮さん:マインドを健康に保つことが、いちばんの身体的健康法に感じています。元々ロングスリーパーですが、子供と一緒に寝るので8時間以上は寝ていますね。それによりストレスも減りました。私は何かを足すことより、引くことのほうが大事だと思っているんですよね。掃除が大変なら、物を減らせばいい。「〇〇がいいらしい」というものはいろいろあるけれど、人間に必要なのは、食事・睡眠・運動。家庭科で習ったような基本的なことをすればいいと思っています。運動すれば肌もキレイになるとか、3つが上手く回ると物事の循環がよくなる気がしますね。

フェムテックtv:健康であっても、女性特有の課題に直面することもあるかと思います。

二宮さん:そうですね。これまで忙しくて生理が乱れることはあってもすぐに戻るし、生理痛も我慢できる程度。女性特有の健康課題に直面したことが、比較的少なかったと思います。ただ現在2人目を妊娠中ですが、1年半くらい不妊治療をしていたんですね。人工授精を何度かして体外受精4回目にして、妊娠できました。正直、こんなにできないなんて思っていなかったんです。1人目の子供を自然と34歳で出産できたことや芸能人の高齢出産のニュースを見ていたことなどで、“私も大丈夫だろう”という気になっていました。でも出産のニュースの裏側で、出産を諦めている人も大勢いるはずですよね。その人たちの声が、私たちには届いていないだけで。

フェムテックtv:実際に不妊治療に取り組むまで、分からないことは多いように思います。

二宮さん:弊社の社外取締役には、産婦人科医で内閣官房参与を務めた経験もある吉村泰典医師がいるんですね。その方による社内セミナーを主催しました。そこで私も卵子が歳を取ることや妊娠の確率など現実の数字を知ったんです。“何で誰ももっと早く教えてくれなかったんだ!”と思いましたね。アンチエイジングの技術が進んで見た目は若いかもしれないけど、体は昔と変わっていないんです。出産可能年齢は高まっていないし、初潮は早まっているけど閉経年齢は変わっていない。騙されちゃいけないんですよね。いろいろなことを勘違いしていました。

“他人の幸せの軸”ではなく“自分の幸せの軸”に誠実に生きる

フェムテックtv:産婦人科医によるセミナーのほか、ダイバーシティの一環として「髪色自由」や、最近では福利厚生で「低用量ピル服用補助制度」を導入されました。二宮さん:「髪色自由」は店舗現場から声が上がり、導入しました。髪色が派手だからって、仕事の能力とは関係ないですからね。実際、導入した直後からアルバイト募集の応募は増えました。これで優秀な人材が来てくれるなら、会社にとっても喜ばしいですよね。

「低用量ピル服用補助制度」は、かなりの反響をいただきました。ネットニュースのコメントには、賛辞だけではなくさまざまなコメントをいただいたのも事実。知識の乏しさから、ピル=避妊というイメージを持たれている方もいらっしゃいました。弊社では産婦人科医によるセミナーで直に知識を得ている社員が多かったので、今回の導入には反対意見はありませんでしたね。ピルはあくまで、契約で45歳までの補助制度なので、今後は更年期や介護課題などに対してできる取り組みはないか、考えていければと思っています。

フェムテックtv:フェムケアに関して、二宮さん自身が注目しているトピックスやアイテムはありますか?

二宮さん:『ソフィ シンクロフィット』に出会ったときは感激して、もう手放せません。生理時の臭いが相当軽減され、夜の漏れがなくなりました。トイレに流せるのもうれしいですね。

それからドン・キホーテでは、女性向けのオリジナルブランド『me&do(ミーアンドドゥ)』を展開しています。フェムケアより広い定義で商品開発を進めていますが、吸水ショーツや寒暖差に合わせて体感温度が変化するインナーなどはおすすめですね。

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me&doの開発会議の風景。「女性従業員が意見を出し合いながら、女性目線のものづくりに取り組んでいます」
フェムテックtv:御社の取り組みや自社商品の次なる展開も楽しみにしています。二宮さんご自身の今後のライフプランをお聞かせください。二宮さん:“海外の店舗デザインがしたい”という私自身の夢は叶いました。私生活では今は自分ではなく、子供が主語になっていますね。子供自身が選択肢の中から選べるという環境をつくるのが、親の役目。子供の「やりたい」に対して、不可能ということはしたくない。次世代によい人生を歩んでもらうために生きるのが、今の私の生きる意味です。

それは会社でもそう。後輩の女性社員たちが頑張りを発揮できたり、いいところを会社側が見つけて伸ばせたりできる仕組みをつくりたい。“この会社に入ってよかったな”と、自分の夢を叶えられる環境づくりをしたいです。

フェムテックtv:最後に“生きる意味”を抱えながら生きる、二宮さんにとってのウェルビーイングな社会とは?

二宮さん:それぞれが幸せの軸を持つこと。その軸に対して選択できる社会であることかなと思います。他人に認められる自分や他人に定義された幸せを歩み始めると、どんどん苦しくなっていく。まずは自分ありきです。

その点で言うと、SNSは一定の距離を置いて付き合うのが良いと思っていて。SNSって求めていない雑音まで入ってきがちですよね。勝手に情報が入ってきて、人と比べてしまう。そうなる状況に身を置かないことにしたんです。情報が欲しければ、自分から意思を持って取りにいけばいい。求めていない情報を浴びるような状況は、できるだけ減らすようにしています。インプットするのは大事だけれど、そこでどう考えるかがさらに大事。“自分にとって大事なことは何か”“自分が何をしたら幸せなのか”シンプルな問いを忘れがち。このような根源的なことを問い続けることが、大切なことだと思います。

フェムテックtv
株式会社ツインプラネットが運営するフェムテック情報共有サイト。《毎日をイキイキと、自分らしく過ごす》ため、《自分のカラダについての“知らなかった”をなくす》ことを目的に、女性の健康に関するコンテンツを公開しています。https://femtech.tv

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