2007年から東京と南房総の2拠点生活をスタートした馬場未織さんは、『週末は田舎暮らし—ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記』の著者である。山の上にある拠点からの眺望が気に入り、家から続くウッドデッキを作製。ウッドデッキには、この場を訪れた人たちの思い出が毎週更新され続けている。東京生まれ東京育ち、夫婦共働きの馬場さんがどのように拠点を探し、2拠点生活を実践してきたのか話を聞いた。
2拠点生活に向けてやったこと。希望条件と現状
「週末を田舎で過ごす」というアイデアが出てからまず馬場さんがしたことは、ウェブ検索での物件探しだった。「田舎暮らし」や「古民家」というワードで検索をかけると、検索結果に農地が出てきてしまい、欲しい情報がなかなか出てこない。「それなら直接現地へ行ってみよう」と、神奈川や長野へと出向き、実際に物件を見に行くようになった。
馬場さん流物件探しの条件と現状は、こんな感じ。(順不同)
1.周りに家がなく、山や林、川に隣接していて生き物と出会える
→敷地内に山林があり、川に隣接していて周りに家はない
2.南と東に開けていて朝日が早く当たる
→東に山をしょっているので朝日は当たらないが、眺望がよいのでこちらを優先
3.まとまった平坦地がある
→売りに出ているのは斜面地が多かったが、ここには平坦地があり畑ができる
4.敷地は500坪くらい
→8700坪あるので、希望より広すぎた
5.土壌が汚染されていない
→産業廃棄のある土地がけっこうあったが、ここは大丈夫そう
6.携帯の電波が入る
→入るが、あまりよくないので敷地内で移動しながら利用
7.東京から車で90分以内
→移住当時は渋滞がなかったが、最近は渋滞するのでその分時間もかかる
8.年間降雨量の少ない地域
→週末のみの利用なので気になるが、雨も降るし意外と寒い
9.東京から電車でいける
→徒歩圏内に駅がないので、電車だけではたどり着けない
房総半島との出会い
長男5歳、長女2歳のときに始めた2拠点生活。その舞台は、8700坪の敷地が広がる南房総の里山だ。東京に住みながら、いったいどうやってこの場所にたどり着いたのだろうか?
馬場さん「買付証明書をもらってサインして、翌日提出してって段取りが決まっていた土地が神奈川県の丹沢にあったんです。すごい気にいってたんだけど、不動産屋さんから前日に電話がかかってきて、現金持ってきたお客さんに買われちゃいましたって……」
ショックを受けて自暴自棄になった馬場さんは、「もう2拠点をやめてしまえ! という気持ちにもなった」という。やけくそになって、一度も渡ったことのなかった「東京湾アクアライン」を渡ってみようと思い立ち、南房総へと足が向いたのだ。
東京から南房総へ行くには東京湾アクアラインの利用が便利で、2021年現在普通車の通常料金は片道3140円。ETC割引だと800円で利用できるが、馬場さんが土地を探していた当初はまだこの割引がなかったため、房総半島は候補地に入っていなかった。
馬場さん「アクアラインを渡って袖ケ浦の道路を走っていたら、神奈川と全然違ってのどかな雰囲気って感じがしっくりきました。こんな近いところに理想的な場所があったんだ!とびっくりしました。」
アクアラインに近い君津、鴨川、富津辺りで物件を探し始めた馬場さんは、さらに南下した位置にある南房総に行くことは考えていなかったという。馬場さんをその気にさせたのは、海の青さだった。
馬場さん「富津を越えると海の色が変わるんですよ。それまでちょっと黒っぽかった海の色が、突然すっと抜けて青くなるのを見て、これはきれいだなと思いましたね」
房総半島を南下して出会ったのが、南房総の里山にあるこの拠点だった。アクアラインを渡ってから20~30の物件を見て回り、2拠点生活を思い描いたあの日から3年の月日が過ぎていた。
子どもの成長とともに変化する2拠点生活
週末を南房総で過ごすため、馬場一家は金曜の夜に移動を開始する。2拠点生活を始めてから生まれた次女も含め、子ども3人と猫2匹とともに、道が空いている夜に自宅を出発。到着したら就寝。翌朝7時、市内に流れる防災行政無線の音楽で目覚めるのが週末の日課だ。
馬場さん「子どもたちが小さいときはしがみついて離れない子どもをちょっと置いて草刈りをして、すぐ泣くから戻って…と草刈りをする時間をとるのが難しかったです」
長男が中学生になり部活が始まると、子どもたちは家で待つことが多くなったという。馬場さんが一番悩んだのも、やはりこの頃だった。
馬場さん「どうすれば続けられるか葛藤していました。やめるっていうのは頭になくて。子育てが目的で始めた2拠点生活だったのが、子育ての範囲から子どもがはみ出していく。目的の中から抜けていってしまう。でも、親にとっては田舎暮らしはマストだったので、目的を変更したとしても私たちは継続したい心境でした」
子どもたちを東京に残して南房総にくることで、子どもたちは子どもたちなりに生活力を身に付けていった
最近では親の介護もあり、週末の2日間を南房総で過ごすことが難しく、日帰りの日もある。昼間は自然の中でリフレッシュし、晩ごはんを食べ、お風呂に入り、洗濯物を干してから南房総を出発。東京に着いたら寝るという生活スタイル。大学生になった長男は平日に車を運転し、サーフィンをしに1人で南房総を訪れているそう。
2拠点生活に興味のあるあなたが今週末からできること
2拠点生活を検討するのであれば「すぐできることは、現地に行くことですかね」という馬場さん。現地に行って歩き回ることでわかることが多いという。
馬場さん「不動産屋さんを見つけて、土地の案内をしてもらうことをしてもらう。そうするとどんな土地がどういうふうに売られたり賃貸で出ていたりという雰囲気がわかるので、中古物件てこんななんだ、暮らしってこういうところにあるんだとか、こういう風に車がないといけないのかな、この辺だと車なしでもいけるかなとか、リアルがわかります」
ほかに、土地のスーパーに行くことも勧めている。観光地ではないその土地の普通の場所に行き、その場所に自分の足で立ってみることによって現実味を帯びてイメージが広がるのかもしれない。
馬場さん「ここ好きかもとか、ここじゃないかもとかわかるだけでも十分最初の一歩かなと思います。」
パソコンの前で情報を詰め込むだけでなく、気になる場所に行ってみることで見える景色、動き出すことがありそうだ。市町村が主催する、移住イベントに参加するのもいいだろう。
馬場さん「今日行きたい!というタイミングで行くってすごく大事な気がします。それが1カ月後になると冷めちゃうし、モチベーションの波にうまく自分を乗せて、体を動かしてみるのがいいと思います」
落ち着いたら気になっていた“あの場所”へ行ってみるのもいいかもしれない。