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場づくり・コミュニティ

連載 | 田中康夫と浅田彰の憂国呆談

横浜市長選挙から、軍事施設の跡地の活用、米軍が完全撤退したアフガニスタンまで。

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横浜市長選挙を終えた田中さんは、築50年の民家をリノベーションした東京・豊島区の小さなまち宿『シーナと一平』に現れた。現在は新型コロナウイルスの影響で宿泊業は休業。テイクアウト販売のみ営業中の1階・お菓子工房の畳の間で、手づくりクッキーを食べながら、浅田さんと一緒に横浜市長選挙戦を振り返った。

目次

12の取り組みを掲げ、立候補するも惜敗。

浅田 横浜市長選挙、お疲れさま! 見事な選挙戦だった。横浜を地盤とする菅義偉首相は、林文子・前市長にカジノIR計画を押し付けときながら、市民の反発が強いのを見て、カジノ反対を掲げる小此木八郎・前国家公安委員長を担ぎ、対して立憲民主党や日本共産党はカジノ反対とコロナ対策を掲げる山中竹春を擁立して勝利した。市長選挙が菅政権への賛否を問う選挙になっちゃったのは残念だけど、既成党派の支援を一切受けない純然たる「ウルトラ無党派」の田中さんが、3位の林に肉薄したのは、客観的に見れば驚異的──主観的に見れば具体的な政策を掲げた田中さんが1位当選しなかったのが不思議でならないけど。
 報道によれば、江田憲司が山中を担ぎ、野党各党がそれを呑んだらしい。江田は、いまは立憲民主党代表代行だけど、2000年の総選挙では菅義偉の支援を受けて自由民主党から立候補し、「不仕合わせ」と呼ばれた「府市合わせ」の「大阪都構想」住民投票が行われた2015年5月には『維新の党』の党首だった人物。『オリーヴの木』のような連立をつくるには「小異を残して大同につく」ことが必要とはいえ、これはとても「小異」と言えるもんじゃない。
 横浜市立大学医学部教授を辞めて立候補した山中自身、いまだにマスメディアは医師扱いすることもあるけど、早稲田大学理工学部で統計学を学んだだけの「データ・サイエンティスト」。維新の吉村洋文大阪府知事のイソジン(ポピドン・ヨード)会見資料には、山中のデータ分析に基づくと明記されていたから、レヴェルが知れる。横浜市大でも同僚に加えて出入り業者にもパワハラ事件を起こしたと報じられた。まさしく「維新」らしい候補で、言い換えれば野党が合同で担ぐべき候補じゃなかったし、いまだに説明責任を果たしてない。
田中 「負けて兜の緒を締める」べき小生が指摘するのもなんだけど、市議会本会議初日の質問でコロナ対策と医療崩壊の答弁に窮して議事が止まってしまったり、就任後の初会見でもフリーランスの記者からパワハラ疑惑に関して詰問されると市幹部職員が突如、宇宙人を“拉致”するかのように退席させてしまった動画も拡散されて前途多難。というか、横浜市選挙管理委員会が全戸配布した「選挙公報」に「候補者の中で唯一のコロナ専門家」と記して市民から疑問が寄せられると、当選後に自身のツイッターでしれっと「正確にはコロナデータ分析の専門家ということですね」と“歴史修正主義”を披露した山中を、「医学部教授でしたから、コロナの専門家だけでなく医療や介護の専門家」と江田が街頭演説で太鼓判を押した根拠も含め、立憲、共産両党の「説明責任」や「製造物責任」が今後、問われていくのかな。
 ともあれ、人口約378万人と、モンゴル(約335万人)、四国4県(約369万人)よりも多い日本最大の政令指定都市には問題が山積だと痛感して、今年4月の誕生日に横浜市民となったのは、6年前から横浜エフエム放送で僕が選曲してお話しする番組『たまらなく、AOR』を担当するようになったのがきっかけなんだ。子育て世代の番組スタッフや、横浜在住の学生時代の友人と会話するなかで、住みたい街の上位に常にランクされる横浜市には、たとえば全国20の政令指定都市で唯一、中学校に給食がないと知って驚愕する。
 数年前からパソナ系列の業者と契約して「ハマ弁」という弁当を販売してきたけど、生徒の0.1パーセントしか購入しない惨状が続き、この春からは同じ調理業者が学校へ搬入する、弁当箱だけ立派になった「デリバリー型給食」が始まったけど、相変わらず常温以下で提供される中身は貧弱なまま。温かいものは温かく届けるデリバリーにすら到達していない。なのに地元の立憲民主党も日本共産党も、これぞ私たちが働きかけた給食の進化形ですとSNSで胸を張っているのを知って、更に暗澹たる思いになった。
 しかも大半の中学校では昼食時間がわずか15分! 「食育」もへったくれもない。まずは隣接する小学校の給食室を速やかに充実させ、温かい完全給食を運ぶ。続いて調理室を中学校に設けて自校給食に移行すると僕は具体的に語ったんだけど、イジメ問題でも動きが極めて鈍い横浜市の教育委員会は、中学校の敷地が狭いので難しいと「できない条項」を並べ立ててきた。これが信じ難きヨコハマの現実なのよ。
 2013年に「待機児童ゼロ」を高らかに宣言した横浜市のHPには現在、待機児童16人と記された下段に小さな文字で「保留児童」2842人と但し書きが付いている。保育施設に入れなかったので育児休暇を延長したり、自宅で休職中の保護者の子どもは待機児童でなく保留児童だと強弁するんだけど、それは横浜以外の全国1746基礎自治体では「待機児童」なんだよ。嘉永7年(1854年)に日米和親条約を締結して「開国」した地の横浜は、都合のよい数字だけ「待機児童」の“メートル法”で胸を張り、都合の悪い数字は「保留児童」の“尺貫法”で誤魔化してきた。
 今年65歳となった僕も含めて横浜市の高齢者は約93万人。その3人に1人は一人暮らしの独居老人なんだ。ところが保健所は統廃合を重ねて中区本町の地上32階建て本庁舎の中に1か所だけ。お世話をする保健師の増員も、無報酬で貢献する地域の民生委員の待遇改善も一向に進まない。老朽化した施設更新を理由に水道料金も7月から平均12パーセントも値上がりした。分譲マンションも毎月の共益費だけでなく修繕積立金があるでしょ。そうした当たり前の努力もせず、値上げありきは行政努力の怠慢だと撤回を約束した。
浅田 そういう問題は全国どこでも起きてて、今回の田中さんの立候補で可視化された意味は大きい。
田中 少し話は逸れるけど「経済的新自由主義」信奉者は、その先に水道事業の民営化を唱えている。ところが先駆者だったパリ市は、「ウォーター・マフィア」と呼ばれてセーヌ川右岸を一手に牛耳っていた『ジェネラル・デゾー(現・ヴェオリア)』、左岸の『リヨネーズ・デゾー(現・テムズ)』両社への委託契約を2010年に終了させ、浄水から給水、料金徴収のすべてを再公営化した。水道料金が高止まりし、災害時にも給水車を出さない「民間」よりも、再公営化で財務の透明化と説明責任を課したほうが得策だと考えた。ここでも日本は周回遅れの道を竹中平蔵一派と歩んでいる。
「中心部」の中区や西区の事業ばかりが注目されて、ミナト街の印象が強い横浜市を構成するのは18区。その3分の2を占める12区は海に面していない内陸部なんだよ。東急電鉄の田園都市線や東横線、相模鉄道の沿線に暮らす「横浜都民」と冷笑されがちな人々も、同じ税率で住民税を納めている。来年度の税収不足は970億円だと「危機」を煽りながら、前年比115.4パーセント増の一般会計予算を計上し、特別会計と公営企業会計を加えて3.9兆円に達するのが横浜市。
 信州・長野県知事に就任した2000年秋、冬季五輪(1998年)の宴の後で巨額の起債残高(借金)を抱えた県財政は、元本以外に1日の利息額だけでも1億4812万円に達していた。職員の協力を得て47都道府県で唯一、在任7年度連続で基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化し、計923億円の借金を減少させて生まれた原資を元に、全国初の小学校30人学級を全学年導入したのも、今回の選挙戦で改めて訴えたように、人が人のお世話をして初めて成り立つ福祉・医療・教育への積極投資こそが確かな雇用と活力を生み出す訳でね。実質経済成長率5パーセントを達成したけど、人口約220万人だった当時の長野県の総予算は年間1兆円。横浜市の人口は長野県の2倍にも満たない約378万人で予算は4倍。中学給食も待機児童も解消しない原因は明らかだ。街頭演説の動画や公約「12の取り組みYOKOHAMA2021」はHPでご覧いただけるよ。
浅田 もちろんカジノも不要。大体パンデミック時代にカジノの先行きは暗いんで、現にアメリカの業者は次々に撤退してる。
田中 宿泊も食事も博打も建物・敷地内で独り占めする囲い込み運動だから、中華街や元町には経済効果が生まれない。しかも、シンガポールはIRの敷地の5パーセントだけど、日本は3パーセントに規制しているから治安上も問題ないと述べてきた政府の説明も欺瞞なのよ。実はテーブル・ゲームと呼ばれるルーレットやバカラのテーブル面積が全体の3パーセント。ギャンブラーが座る椅子もバーカウンターも含まれない。だからシンガポールのIRもあんなに巨大なハコモノなんだよ(苦笑)。
浅田 それにしても選挙中も選挙後も「立候補してくれてありがとう」という声がネットに寄せられたのは象徴的だね。
田中 住宅街を街宣車でがなり立てたり、応援弁士の国会議員が勢ぞろいして候補者本人は10分も喋らない他陣営と違って(苦笑)、遊説も僕は自分でマイクを握って声高でなく喋り続け、要領が悪いので街頭演説も1か所50分近く「12の取り組み」を解き明かしたけど、既成政党や労働組合の動員とは一切無縁の街頭演説に、どの場所でも多くの老若男女が最後まで立ち去らずに聴いてくださった。最終日のたまプラーザ駅頭に600人を超える方々が集まったのは候補者冥利に尽きる出来事だった。
 思い起こせば2006年の3回目の知事選翌日に「大人になれなかった知事」とありがたい見出しの社説を書いた朝日新聞は、今回も固定電話だけの世論調査で当初、僕を「泡沫候補」扱いしてくれたけど、横浜市政の今後がテーマの市長選を「総選挙の前哨戦」だと机上の空論を掲げたマスメディアに引きずられた中途半端な「意識高い系」よりも、古びた公営住宅から駆け出してきた方のほうが信州時代の取り組みに詳しかったり、アルゴリズムな「偏差値」でなく暗黙知の「地頭」が大切だと実感する選挙戦でもあった。
 (49170)

軍事施設の跡地利用は、重要な施策の一つ。

浅田 横浜市の内陸に位置する在日米軍上瀬谷通信施設跡地の活用案も秀逸だと思ったな。
田中 選挙前にも数々の助言と提言を記した長文のメールをありがとう。起伏に富んだ地形が大半の横浜には珍しく、東京ドーム51個分もある広大な敷地は真っ平らなんだ。市内各地に繋がる国道16号線と環状4号線に隣接し、東名高速道路の横浜町田インターチェンジからも至近距離。横浜市は東京ディズニーランドに対抗する舶来の施設を誘致すると粋がっていたけど、カジノ同様、手を挙げる企業がなくて頓挫した。すると、巨大なショッピングモールとマンション群という金太郎飴を持ち出している。
 桜並木が美しく、タヌキやハクビシンも暮らす現地を訪れた僕は、その環境に配慮したうえで敷地の北半分に医療・保健、消防・救急の統合型レスキュー拠点を設ける構想が頭に浮かんだ。消防・救急というのは良い意味で特異な行政組織。法律に従いなさいと命ずる警察や、前例がないから難しいと言い訳する役所と違って、人を救うためには前例がなくともチームワークで取り組む。火事も交通事故も、一つとして前例どおりには起きないし、災害列島ニッポンの各地にお手伝いに行く拠点にもなる。
浅田 上瀬谷を 「Integrated Resort」ならぬ「Integrated Rescue Center」にするってのは妙案。軍用地の跡地利用で言うと、米軍の田奈弾薬庫(旧・日本軍でも最大規模の弾薬製造貯蔵施設だった)が返還されたあと、1959年の皇太子(明仁殿下)成婚を記念して横浜市と町田市の境に『こどもの国』がつくられ、65年5月5日(こどもの日)に開園した先例がある。これは伯父・浅田孝の計画によるもので、イサム・ノグチや黒川紀章をはじめとする芸術家や建築家が参加した。ずいぶん古びちゃったけど、もともとできるだけ自然を残し、余計なものをつくらないって発想だったからね。むしろ、テーマパーク型の大規模再開発は絶対に避けるべきだ。山中は上瀬谷で「花博(国際園芸博覧会)」を開く構想の推進を表明してるけど、大阪や淡路の花博の焼き直しに過ぎないんじゃない?
田中 おっしゃるとおり。しかも700億円を投じて軽量軌道交通LRTの「進化形」を建設するので、売上高36億円弱で資本金101億円の第3セクター『横浜シーサイドライン』に330億円もの費用負担を求めると発表。前市長時代からの置き土産を見直さないのが「データ・サイエンス」だとはイヤハヤ。
浅田 医療や救急ってことで言うと、新型コロナウイルスに感染した患者が入院できないからって、厚生労働省と東京都が医療機関にコロナ患者の受け入れや病床の確保を要請し、拒否した場合は病院名を公表するって言い出した。でも、それ以前に、上昌広が言うとおり、『NHO(国立病院機構)』と尾身茂が理事長を務める『JCHO(地域医療機能推進機構)』で所管してる病院は、緊急時には厚労相の指示でベッドを空けさせられるはず。1年半も経つのに、できることをやってないんだから。
 むろん、全国的には野戦病院的な施設も必要で、たとえば福井県は体育館に軽症者向けの臨時病床を100床設置し、医者と看護師が常駐してる。それより大事なのは、保健所にトリアージは無理だから、DMAT(災害派遣医療チーム)を中心とする医師たちがまず診て患者を振り分けてること。そのぶん荷が軽くなった保健所は濃厚接触者の追跡に専念できる。そういう例があるのに、全国的には依然として保健所が司令塔。その保健所は「改革」と「効率化」で痩せ細り、機能不全に陥ってる。厚労相が大鉈を振るうべきところ、前職の加藤勝信も現職の田村憲久も官僚の言うがまま。
田中 それは第100代内閣総理大臣に誰が就任しても変わらないね。PCR検査の徹底で「早期検査・早期対応」を当初から説いていた本庶佑を、日本版アンソニー・ファウチ(米国立アレルギー・感染症研究所NIAID所長)として起用すべきだったのに、「4日間はウチで」「旅行や移動で感染は起きない」「PCR検査が多い国は死者が多い」「60歳以下は感染しても症状が軽い」と三百代言を続けた“カメレオン尾身茂と愉快な仲間たち”を「感染症ムラの専門家」として崇め立てる医系技官とマスメディアの厚生労働記者会は戦犯だよ。
浅田 比べてみれば、厚労相として2009年の新型インフルエンザに対応した舛添要一のほうがずっとましだった。彼は東京大学で教えた医学生たちの推薦で、現場で頑張ってる有能な医師たちの意見を聞いた。岩田健太郎もそのひとりだったしね。それにしても、格段に感染力の強いデルタ株の出現で、ワクチンも3回目のブースター・ショットが必要だって言われてる。先進国はいいけど、ますます第三世界にワクチンが行き渡らなくなるし、そこで感染者が減らないと変異が起こり続けることになる。
田中 繰り返すけど、抗生物質で対応可能なバクテリア(細菌)と違って有為転変するのがウイルス(病原体)。ワクチン優等生と言われたイスラエルでも、変異種に感染した半数以上がワクチン接種済みだったように、「必要十分条件」とは成り得ないのが悩ましい。とすると、希望者へのPCR検査や抗原検査を無料で行うことに税金を使うべき。それさえできないこの国は一体、何なんだろうね。
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米軍が撤退した後のアフガニスタンはどうなる?

浅田 ジョー・バイデン米大統領がアフガニスタン駐留米軍を撤退させ、20年に及ぶアフガニスタン戦争が終わった。タリバーンと交渉して撤退を決めたドナルド・トランプ前政権の約束を守ったわけだけど、たった1週間でタリバーンが首都・カブールを制圧して政府が崩壊、多くのアメリカ人や協力者を残して逃げ去るような形になった。タリバーンから逃げようとする人々が空港に殺到、米軍のC-17輸送機が800人以上詰め込んで強行離陸するとか、機体にしがみついた人たちが落下して死ぬとか、ヴェトナム戦争のサイゴン陥落シーンにも勝る大混乱。確かに、アメリカが巨額の援助で支援してきたアフガニスタンの政府と軍があっという間に崩壊するのを予想できなかった戦術的失敗だけど、20年支援してこのざまなんだから撤退しかないって意味で戦略的には正しい決断だったと思うね。
 9.11同時多発テロのあと、アメリカはアル・カイダを匿うアフガニスタンのタリバーン政権を攻撃、首謀者オサマ・ビン・ラディンに迫った。ところが、アル・カイダと無関係なイラクにも手を出し、両方とも泥沼化した。後になってパキスタンに逃れたオサマを殺害することで報復は果たしたものの、国家再建には失敗したわけだ。
 タリバーンが政権に復帰するんだろうけど、一国社会主義のスターリンに対する世界革命志向のトロツキーのようなIS(イスラム国)が早速爆弾テロを起こしたのを見ると、先が思いやられる。ちなみに、日本政府も日本人やアフガニスタン人協力者の救出に自衛隊機を送ったものの、出遅れたため、この爆発でバスが空港まで行けず、結局、日本人1人を連れ帰っただけ……。
田中 タリバーンが全土を掌握したのは、8月8日告示・20日投開票の横浜市長選挙の最中。朝日新聞を筆頭に自称「リベラル・メディア」は問題山積の横浜市政をどうするかが争点の市長選を、総選挙の前哨戦としての「与野党対決」だと囃し立てた。横浜市民を軽んじた机上の空論だと直感した僕は街頭演説で、アフガンでの米ソ「代理戦争」の悲劇を繰り返すのかと強調した。
 今から42年前、1979年のクリスマス・イヴにレオニード・イリイチ・ブレジネフ率いる旧・ソビエト社会主義共和国連邦が軍事侵攻し、福音派の支持を得てジミー・カーターがアメリカ大統領に就任していた民主党政権も、それを待ち構えていたがごとく、異教徒との戦い「ジハード」を掲げるムジャーヒディーン勢力を支援して泥沼化。米ソ「代理戦争」の現場で多くの人々が傷ついた。
 こうした中で荒廃した土地に灌漑用の用水路を設けた医師の中村哲は2019年12月、非業の死を遂げる。『ペシャワール会』現地代表だった彼の棺を、当時のアシュラフ・ガニ大統領が自ら担いで飛行機に乗せた。ところが日本政府から成田に赴いたのは外務副大臣。幾度も皇居に招いていた上皇・上皇后陛下らの皇室関係者が弔意を表す一方で、日本政府の要人は、故郷の福岡で行われた葬儀にさえ参列しなかった。しかも、その非礼をメディアは批判もしなかった。そういう国なんだよ、日本は。
浅田 一説ではガニはバイデンに事態の深刻さを警告してたらしいけど、バイデンはわかってて損切りを急いだのかもしれない。ガニも早々と亡命したし。
田中 中村は農作を通じての集落単位の自律を図る中で、若者がテロリズムに走らぬ社会を目指し、何十年もかけて実践した。ノーベル平和賞を貰うべき人物だった。
浅田 そう、それこそが国家再建ならぬ社会再建なんだよね。それは世界の問題であり、日本の問題でもある。
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photographs by Hiroshi  Takaoka  text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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