【公認心理師・山名裕子先生】「結婚は?」と口うるさい母親に反発心が増幅する「カタストロフィー理論」とは?

【公認心理師・山名裕子先生】「結婚は?」と口うるさい母親に反発心が増幅する「カタストロフィー理論」とは?

2022.02.16

月経やPMS(月経前症候群)、セクシャルな問題、男女間や家族間のコミュニケーション問題など……。現在を生きる女性たちは、日々、さまざまな不調やストレスと戦っています。なかなか人に話すことができないそんな女性特有の心身の問題への対処法を、公認心理師の山名裕子先生に伺います。

〈今回のお悩み〉
「30歳をすぎた頃から、母親が『結婚はまだ?』『いい人はいないの?』と事あるごとに聞いてくるように。でも、今は彼もおらず、仕事が楽しいので結婚願望もありません。そう話しても、『一生一人は寂しいわよ』『子供を産むなら早いほうがいい』とばかり……。母に理解してもらうには何と話せばいいのでしょう?」(30代・会社員)

具体的な数字を出して話してみる

「どんな親も、子供の幸せを願うあまり、ついつい口うるさくなってしまうのでしょうね。お母さまに自分の気持ちを理解してもらうためのひとつの方法としては、自分が今、どれぐらい幸せなのかをより具体的に話してみることだと思います。

『今はこういう仕事を任されていて、やりがいを感じている』とか『お付き合いしている人はいないけれど、趣味や友人に恵まれて充実している』など……。そして、『結婚も考えてはいるけれど、もう少し見守っていて欲しい』と話してみるのはどうでしょうか?

その際に大切なのが、抽象的な言葉で終わってしまうのではなく、期間などを具体的な数字で示して話しをすることです。たとえば『今のプロジェクトが終わる2年後までは仕事に専念したい』とか『35歳になったら婚活をしようと思っているので待っていて欲しい』と、より具体的に話しをしてみましょう。

娘の幸せそうな姿をイメージできることで、『そこまでの期間は、なるべく口を出さずに見守ってみよう』と、お母さまに待っていてもらいやすくなるはずです」(山名先生、以下同)

―たしかに、親に口うるさく心配されると、ついつい鬱陶しく感じてしまい、「わかってる」「ほっといて」の言葉で終わらせてしまう人も多そうですよね。

「さらに言うと、『お父さんとお母さんを見て育ったから結婚願望はあるよ』とか、『自慢の母親だったから、私もいつかはそんな風になりたいと思ってる』など、ご両親の気持ちに寄り添った一言を添えられるとパーフェクトですよね」

―娘にそんな風に言われたら、お母さんもそれ以上は何も言えなくなりそうですね。

母親のすべてを好きな人なんていない

「そもそも、必ずしも『結婚=幸せ』ではないですし、するもしないもその人の自由です。みんな違ってみんないいのですが、どうしても親は子供の未来が心配になり、口を出してしまうもの。

母親が自分の意見を押し付けてくることを疎ましく思い、親に自分の価値観を尊重して欲しいと願うのならば、まずは最初の一歩として、こちらも親の価値観を認める姿勢が大切なのです」

―親子関係は距離が近いだけに、お互いの価値観を素直に認め合うことも難しいのもしれませんね。

「そうですね。母子関係は、その近さゆえに複雑で厄介なことも多く、トラブルになると溝が深まりがちです。特に、娘と母の間で起こる問題に関する相談はかなり多いように感じます。

自分の母との関係に悩んでいる女性に、まず知っていだたきたいこととして、『自分の母親のことを100%大好きだ』と思っている人は、実は世の中にそう多くはないのです。一見、とても仲の良い母娘関係に見えても、実はお互いにどうしても許せない一面やわだかまりを抱えているケースは少なくありません」

愛情が反発心に変わる「カタストロフィー理論」とは?

―「女の幸せは結婚にある」という価値観を母親から長年、押し付けられてきたゆえに、逆に反発して結婚から遠ざかってしまっている女性も少なくないのかもしれませんね。

「たしかに、近いがゆえに反発心が増幅する、という現象は起こりがちです。これを心理学の世界では、『カタストロフィー理論』と呼んでいます。これは家族や恋人同士などが深い愛情で結ばれた幸福状態から一転し、憎悪や反発心が増してしまう状態を説明するときに用いられる言葉です。

『愛と憎しみは表裏一体』とはよく言いますが、人間は深い愛情を感じている相手にほど、それが何かのきっかけで憎しみに変わったとき、相手に対する怒りや悲しみがより助長される可能性が高いものなのです」

―母娘関係では、「カタストロフィー理論」の状態が起こりやすいということですか?

「そうですね。母と娘は、関係性が近く、絶対的な愛情や信頼関係があるからこそ、その愛情が強い怒りや反発心に変わり、関係性が大きくこじれやすいとも言えるのです。

その心理状態の裏には、『母は私の一番の理解者だ』『娘と私の間には信頼関係が成り立っている』という思いがあります。すべてを受け入れ、理解してくれているはずの相手に、自分を否定されたり、自分の価値観を認めてもらえないと、その反動で負の感情も大きくなってしまうケースが少なくありません」

言葉を受け流すことも時には必要

―恋愛関係にある2人の間にも起こりやすいですよね。友達に言われても特に気にならないことでも、自分のパートナーに言われるとものすごく腹が立つという……。

「『誰よりも私のことを分かってくれているはずなのに、なんで?』という思いの反動なのです。母と娘は、そういう負の感情も増幅しやすい関係であることを、頭の片隅に置いておいてください。

また、そんな風にこじれやすい関係なだけに、丁寧に気持ちを伝えてみてもどうしてもぶつかってしまう場合には、顔を合わさないで済むような生活環境に変えてみるのも1つの手段です。お母さまに言われることをすべて正面から受け止めないで、時には『そういう価値観もあるよね』と受け流すことも必要だということも覚えておいていただけたらと思います」



関係が長く、信頼があるからこそ、愛が憎しみに変わる危険性を秘めている母と娘の間では、その事実を知り、お互いの価値観を認め合いながら、時には適度な距離を保つことが良好な関係性を長く保つ上では重要なのです。

山名裕子先生(やまな・ゆうこ)
●1986年生まれ、静岡県浜松市出身。公認心理師。「やまなmental care office」を東京青山に開設。心の専門家としてストレスケアからビジネス・恋愛などの悩みへのカウンセリングを行っている。メディア出演や講演会活動も多数。

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小嶋美樹(こじま・みき)●編集者、ライター、ディレクター。大学卒業後、出版社に勤務し、女性誌や実用書・ビジネス書の編集、WEBディレクターなどを経て、2020年からフリーランスに。現在は主にインタビュー記事や女性のライフスタイル・子供の教育系記事の執筆、韓国エンターテインメント記事の編集・執筆など行う。趣味は旅行で、今一番欲しいものは子供たちと日本中を旅して回れるキャンピングカー。