庭園には、神の庭、仏の庭、農の庭という3つの捉え方がある。3つの中で、私たちの生活に最も関わるのが農の庭だ。言ってみれば産業の庭であり、私たちの生きる姿そのものと言ってよい。世界遺産に選定されるような美しい農村の風景は、生業と暮らしの調和がかつて完璧にバランスしていたことを示す。だが私たちは、そのような風景の中で快適に暮らすことはもはやできない。快適さや機能性を追い求めていったために世界中の農の庭は荒廃しつつある。
私たちの生きる時代が、どのような農の庭を実現することができるのか、そんな未来を考える気持ちを与えてくれるのが、千葉県木更津市に誕生した「KURKKU FIELDS」という場所である。この場所をわかりやすく説明すれば、有機農業と水牛の酪農を核に、新しい文化の統合を示そうとしているプロジェクトである。統合といっても、その幅はあきれるほどに広く、食、音楽、アート、建築、ランドスケープ、工芸などが高い次元で融合している。
ほかに類例がなく例えるのが難しいが、農村はずれの修道院でゆっくりと地域の食を楽しんでいたら、ジプシーの楽団と劇団がやってきて始まった。年に一度のお祭りに出くわしたような、聖性や静けさと共にスペクタクルや楽しさが“同居”する日常がここにはある。
コンセプトを見てみると、「サスティナブルファーム&パーク」と書かれている。サスティナビリティの重要性は今や誰もが知っている。なのに、依然として世界は変わらない。それは「やりたいこと」ではなくて、「やらなければいけないこと」のままだからだ。「KURKKU FIELDS」は、命が循環していく実感を、美味しさや楽しさと共に経験させてくれる。意識の革命を引き起すことが企てられた、新しい「アートスペース」と言ってもよいかもしれない。
『KURKKU FIELDS』
住所:千葉県木更津市矢那2503
施工年: 2019年