「酒」への深い愛。
今回紹介する『酒眉』は、「お酒と食と本」を愛するさまざまなジャンルの専門家が集まって製作している同人誌。
残念ながらお酒を飲まない僕にとって、読んでいてもさっぱりわからない部分もある。執筆者のみなさんが楽しそうにお酒を飲んでいる記事を読んでも、実のところ、お酒のことはわからない。
第5号の特集は「へんなさけ」。
巻頭では、「我が家秘蔵のへんなさけ大試飲会」が繰り広げられている。
20年前にどこかの免税品店で買った1997年物のボルドー。玄関先にある靴箱で保存されていた1983年物のオーストラリアで買ったワイン。チーズや、酒粕、ヨーグルト、奈良漬のような味になった18年物の活性にごり(日本酒)。中国料理店で見つけた、黒ゴマのような蟻が浮いた蟻酒。生ホップをちぎって入れた発泡酒など。それぞれ試飲して評価。自己責任で準備されたお酒は味もそれぞれ。
夜の『浅草花やしき』で行われた「茨城地酒まつり」。夜間貸し切りにして次から次へと蔵元を変えてお酒を飲むというイベント。夜のメリーゴーラウンドの写真が郷愁を誘う。
「酒的熊本案内」。震災後の熊本の状況と共に、奮闘する地元スーパーや自身の話。お酒の話はなくてもお酒愛。
「すご〜く長いし、手間もかかるけど、絶対おいしいレシピ」では、生麩の牛肉巻き、白ネギの味噌焼き、ぶどう酒なますと、おいしそうな写真と共にレシピの紹介。お酒に合うのはもちろん、生活を豊かにするヒントも。
「アンカーコップ礼讃」。戦前、戦後に、水煮や甘露煮、肉類などの缶詰の代用として使われたガラス製のアンカーコップ。企業のロゴや商品名の入ったものも多く、現在では作ることの難しい無骨なデザインが、お酒用に楽しく見えてくるらしい。
まだまだ記事は続き、「紹興へ紹興酒を呑みに行くというから連れて行ってもらった…」「新宿ゴールデン街時代」「プロレス的ワイン論」など数えると、全26本。
愛飲家たちが、印刷代、紙代などの製作費、原稿料や取材経費といった編集費を負担することによって生み出された『酒眉』。
お酒の広告とは一線を画し、酒呑みの自由な発言、酔っ払いの芸術発表の場、体験に裏付けられた鋭い見識で「酒」を愉しむ場になっている。
お酒を飲まない僕にも、愛飲家の「酒」への深い愛情が伝わる、お酒の楽しみを分けてもらえる一冊になっている。
『酒眉』編集人より一言
本誌に参加しているのは、ライターやカメラマンなどプロが7割。残り3割はアマチュア。基本みなさん、お酒好きです。普段は、真面目な仕事をする人が、飲むとロマンチストになって、大きな夢を語り始める。そんな酔っ払いの「さけび」が、予定調和のないこの雑誌を生みました。編集会議の翌日の二日酔いもまた楽し。
今月のおすすめリトルプレス
『酒眉 Vol.5』
「お酒と食と本」をテーマに、何でもおもしろがる同人誌。
編集人:中洲次郎 発行人:一翻文雀
2017年2月発行、148×210ミリ(90ページ)、648円(希望小売価格)