これまでの複業・兼業の概念を越え、目指すのは人と人とのつながりが生む“真の関係人口”の創出。SDGsにも通じる新たなパートナーシップのあり方などについてFFGビジネスコンサルティング ビジネスサポート部人材紹介グループ・アシスタントマネージャーの奈須 幸太郎さんとCEspace代表の若泉 大輔さんにお話を伺いました。
北九州市発、首都圏の複業・兼業人材が地方にもたらすイノベーション
FFGビジネスコンサルティング 奈須 幸太郎さん(以下、奈須) 昨年9月から市とともにスタートした新事業です。北九州市内の企業はそれぞれ多種多様な課題を抱えています。人口流出による人材不足、加速するデジタル化、経営の行き詰まり…。市としての街の活性化のために地元企業を応援したい。そこで首都圏のITやコンサルティング能力に長けた専門的な人材と北九州市内の企業を複業・兼業という働き方でつなぎ、企業が抱える課題を解決するとともに、市と関係性を築いてもらうというのがこの事業の目的です。
我々FFGは日々、地元企業を回り悩み事に耳を傾けています。社長さんたちが何に困っているのかを熟知していることが強みと言えます。それら企業の悩みを、市やCEspaceさんと共有するとともに課題解決のサポートを行っています。
CEspace代表 若泉 大輔さん(以下、若泉) 実はCEspaceは人材派遣会社ではありません。ITエンジニアなどTECH人材に特化したコミュニティー型住宅を首都圏を中心に提供する不動産が主な業務です。入居条件には高いITスキルなどはもちろん、人柄など人間性も含めて基準を設けています。「この人、素敵だな」と感じた人々が集まるこのコミュニティーにはもう一つ特徴があります。それは入居すると希望者には“地方のお仕事”が紹介されるというシステムです。
近年、副業解禁が進んでいますよね。コミュニティーのメンバーが勤める企業の多くも副業が認められています。そこで北九州市とFFGさんの元に届く地元企業の課題を“お仕事”としてコミュニティーに共有、「それ!やってみたいです」と手を挙げたメンバーと調整を経て市と企業に紹介しています。
ソトコトNEWS すでにいくつもの事業が進んでいると聞いています。どのような内容に対してどのような人材が関わっているのでしょうか
奈須 一例を挙げると、不動産開発を担う大英産業株式会社では、顧客リストのデータベース作成やスマートシティ構想のアイディア出しなどが行われたそうです。「着実に課題解決に向かっている」とうれしい声を聞いています。皆さん驚くのは派遣された複業人材の能力の高さです。考え方や視野の広さ、解決のためのスキルはもちろんのことその人が持つ広くて太い人脈など、スペシャルな方ばかり。「刺激的な話し合いにより社員のやる気が上がった」とモチベーションアップにもつながっているようです。
若泉 喜んでもらえるとうれしいですよね。コミュニティーのメンバーも皆すごくやりがいを感じているようです。正直、仕事の対価として、それだけで生活出来るような充分な金額を彼らに支払えているとは思えません。それでも皆「楽しい」「また打ち合わせしたい」などとリクエストに応えてくれる。実は本業では、GAFAMをはじめ世界的な会社や話題のベンチャー企業でバリバリ働いている方々が多くいらっしゃいます。そんな彼らも地方の事はよく知らない。本事業は彼らの知的好奇心を刺激するとともに、北九州市の皆さんがメンバーを温かく迎えてくれていることが心の充実につながっているようです。
市との提携の中で派遣するメンバーのために、市職員と同じデザインの名刺発行をお願いしています。肩書は『TECHアドバイザー』。市役所の名刺を持つということは、使命感とともに自己肯定感を与えてくれます。東京では何十万人もいる中の一エンジニアかもしれませんが、ここでは彼らはすごく重宝される。ヒーローになれる。だからお金だけではなく幸せのために頑張りたいと思う。
スキルを持つ人が、必要とする人のためにその力を発揮する。僕らはツール販売を目的としたセールスマンではありません。一緒に悩み、喜び、汗をかく伴走者でありたい。お互いが喜び合える関係は、ウェルビーイングや幸福度につながっていくと僕は感じています。それはSDGs、持続可能な社会実現に欠かせない鍵だと信じています。
大切なのは価値観の共有。目線を合わせるから見えてくる課題解決
奈須 確実に実を結びつつあると手ごたえを感じています。ただ、まだまだ“複業・兼業”という部分に懐疑的な企業さんも多いのも事実。「アルバイトと何が違うの」「どこまで会社のことを本気でやってもらえるの」など…。北九州市は産業で成り立ってきた街ということもあり、目に見えるカタチでの労働、例えば工場で働くなどの実働を仕事ととらえがちな気質があるように感じます。市やCEspaceさんがもたらすのは、新しい価値や知恵の提供だと私は考えています。
価値観というのは本当に多種多様です。北九州市はベテランの経営者様が多く、なかなかこの新しい価値観の部分を共有しきれていないように感じます。これは伝える側の、我々FFGにも責任があります。そのため、この事業推進に向けて北九州市すべての店舗で担当者とともに勉強会を開き、どのようにこの価値感を伝えていくかを日々考え、試行錯誤を続けています。カタチとして見えづらいものだからこそ丁寧に伝えることが大切だと感じています。
実はこの事業、コスト面でもとても魅力的なんです。市からの助成金やCEspaceさん側の共創に対する思いから低コストでご提供いただいています。通常では考えられないコストで、首都圏の“超”がつくような優秀な人材が、自社の課題解決に向けて動いてくれる。事業を導入している大英産業さんや他企業の実例なども踏まえて「御社であればこのような課題解決が可能かもしれませんね」とひざを突き合わせて話し合います。
企業の悩みは、ポンと来た人に相談できませんよね。FFGは長く地元企業さんと歩みをともにしてきたからこそ、話せる良き相談相手になれると信じています。自社だけでは解決できない課題にこそ外部の力が必要です。つながりあうにはやっぱり信頼が大切ですね。
関わりを通して生まれた出会いこそ財産。目指すのは真の関係人口づくり
奈須 実は個人的に思うことですが、事業を企業側に勧めている我々地方銀行にこそ、このような人材活用が必要じゃないかと感じています。DXによる効率化や働き方など、まだまだ遅れている部分に対して、複業・兼業の方々と一緒に考えてみたいですね。
そう感じるのも、実際に事業に手を挙げた企業の方々のいきいきとした姿を見ているからこそ。我々地銀も、一地元企業です。地元にいるからこそ見えない部分がきっとあるはず。外からの新しい目線と技術を活かし、より良いサービスの提供を生み出したいですね。
若泉 北九州市に限らず、地方行政や企業は同じ課題に悩んでいたりします。北九州市での事例を元に、複業・兼業人材の活用の幅を広げていきたい。そもそも、副業の“副”という言葉が僕はあまり好きじゃない。本業に付け足すような働き方ではなく、この北九州市が実施する事業のようにパラレルな意味で本業と並行して“複”数の仕事を楽しむことが大切だと感じています。
奈須 確かに。「スポットエキスパート」なんてどうかな?なんて考えちゃいました。皆さんを見ていると、真剣に北九州市の企業と向き合ってくれています。皆さん本当にエキスパートな存在だと思いますね。
若泉 TECH人材のコミュニティーも成長中です。声がかかれば、どんどん仕事を受けていきたい。それがコミュニティー側にとっても学びや気づきにつながります。北九州市には面白い企業がたくさんある。首都圏にいては気づかないことや、得られない経験を彼らは欲しています。そして自分たちの力を活かし、喜ばれることにやりがいを感じています。絶えることのない、人と人とのつながりを大切にしていきたいですね。
NEW_Uブランドサイト: https://www.newu.jp/