「魚屋が日本の未来を背負っています」と、まっすぐな瞳で話す小野崎雄一さん。そんな強い矜持を持つ老舗の魚屋『おのざき』の若き4代目がセレクトした「これからの魚屋」のイメージが明るく広がるような5冊をご紹介します。
まず『魚屋は真夜中に刺し身を引き始める』は、鮮魚販売を行う『東信水産』の4代目である織茂信尋さんの著書です。魚屋がこの数十年でかなり減少している点など厳しい現状をしっかり伝えたうえで、実は可能性にあふれていることをさまざまなデータを用いて示しています。僕が何より衝撃的だったのは、織茂さんが魚屋であるにもかかわらず、鯵すらきれいにおろせないと書かれていたこと。会社の規模が大きいというのもあると思うのですが、現場に入り込むというより、徹底的にデータを分析して改革を起こし、赤字だった業績を数年で黒字にしています。魚屋の従来のイメージや概念を覆してくれる一冊だと思います。
魚自体をもっと知ってもらえたらと思って選んだのが「日本一の魚屋」と呼ばれ、世界中の業界関係者が視察に訪れる『サスエ前田魚店』の5代目・前田尚毅さんの『冷やしとひと塩で魚はグッとうまくなる』です。前田さんが長年の経験と知識で培ってきた圧倒的な目利き力や処理の技術が、とてもわかりやすく書かれています。その内容は「こんなことまで書いてしまっていいの!?」と思ってしまうほど。魚を知ることは、おいしく頂くことにつながります。同業者にもそうでない方にもおすすめできる一冊です。
今回紹介した本のうち4冊の著者は魚屋です。ご本人も店も個性的で日本の魚屋の潮流が変わってきたなと感じています。僕が携わる『おのざき』の経営理念は、「街をもっと多彩に、もっと面白く」。ただ魚を売るだけではなく、魚を通じて個性をもったいろいろな人たちが有機的に交わり、まちをかき回していく。そんな地域に根ざしたワクワクするような魚屋と社会を、我々もつくりたいと思っています。
記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。