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特集 | みんなの学校

【神奈川県・湘南地域】湘南を舞台にした体験型講座で海を楽しみ、海を学ぶ『湘南VISION大学』

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神奈川県の湘南地域を舞台に、海の環境問題を学ぶ市民大学『湘南VISION大学』。大学の原点とも言えるビーチクリーンをはじめとする数ある講座の楽しさや、「ブルーフラッグ」認証について、学長の片山清宏さんに伺いました!

目次

生まれ育った湘南の海を、美しくする活動を開始!

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『湘南VISION大学』学長の片山清宏さん。スタッフや参加者と片瀬西浜・鵠沼海水浴場でビーチクリーンを行った。
神奈川県の江の島の近く、藤沢市鵠沼エリアで生まれ育った、『湘南VISION大学』学長の片山清宏さん。家から海までは自転車で5分ほどの近さだったので、子どもの頃から海で遊び、高校の頃はウィンドサーフィン、大学時代はサーフィン三昧と、海に入らない日はないほど海が好きだった。
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天気のいい日は富士山を見ながら、ウィンドサーフィンやサーフィンを楽しめる片瀬西浜・鵠沼海水浴場。
しかし、当時の湘南の海はけっして美しい状態ではなかったそうだ。ビン、カン、ガラス片、ビニール袋、バーベキューの炭、花火など砂浜にゴミが散乱していた。片山さんはサーフィンをした後、帰る前に砂浜のゴミを拾う習慣がついた。「以来20年間、仲間とゴミを拾い続けましたが、一向になくなりませんでした」と話す片山さん。このままでは埒があかないと、仲間の協力のもと2011年に『湘南ビジョン研究所』を立ち上げ(13年にNPO法人化)、海の美化活動を本格的に始めた。

「ブルーフラッグ」を取得し、湘南の海を学ぶ大学を開校!

海の美化活動を進めるにあたって目標に据えたのが、「ブルーフラッグ」の取得だった。「ブルーフラッグ」とは国際NGO『FEE(国際環境教育基金)』が実施する美しく安全なビーチやマリーナの国際認証制度で、ヨーロッパでの認知度は高い。NPO法人『湘南ビジョン研究所』ではアジア初の取得を目指して、さらに力を入れてビーチクリーンを行い、海底清掃ではタイヤや冷蔵庫など不法投棄ゴミを大量に引き揚げた。行政に働きかけ、企業や団体、大学や市民との連携も強めていった。
そんな地道な努力の結果、2016年に鎌倉市の由比ガ浜海水浴場でアジア初の「ブルーフラッグ」を取得した。今は、湘南4か所を含む日本で7か所のビーチ・マリーナが「ブルーフラッグ」を取得している。「ただ、認知度はまだまだ。『ブルーフラッグって何?』と尋ねてくる人がほとんどです」と片山さんは課題を語る。
「『ブルーフラッグ』の取得を目指して続けてきたビーチクリーン活動によって、湘南の浜辺はかなりきれいになりました。それでも、人気の少ない浜辺や河口付近にはゴミがたまっていることもあります。『かながわ海岸美化財団』の調査では、湘南海岸のゴミの7割は川から流れてくることもわかっていて、海のゴミを減らすには、川やまちを含めた流域全体で取り組むことが必須なのです」。
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ゴミが落ちていないように見える浜辺も、足元の砂をすくうと5ミリ以下のマイクロプラスチックがたくさん交ざっている。「これが海のなかにも」と想像したら……。
海の専門家や環境問題に熱心な市民だけでなく、どちらかというと海に関心が薄い人たち、また、湘南の海に流れ込む川の流域に暮らしている人たちの「ゴミを捨てない」という意識を高めることが大事だと気づいた片山さんは、環境問題に取り組みつつも、湘南の海で楽しく遊び、海を好きになってもらう場として『湘南VISION大学』を設立した。「海に関心が薄い人にもぜひ受講して、何か小さな気づきを得てもらえたらうれしいです」と呼びかける。ビーチスポーツ、海の生き物や自然環境、ライフスタイル、湘南の歴史などいろいろなジャンルをテーマにした体験型の講座が、5月頃から11月頃まで30〜40講座ほど開かれ、受講生は自分の好きな講座に申し込んで受けることができる。
講座を受け持つ先生は、各ジャンルに精通したアスリートや大学教授、アーティスト、あるいは好きが高じてその道を極め、ついには人に教えるほどになった先生までさまざま。「アクセサリーづくりが趣味だった女性が、マイクロプラスチックゴミに衝撃を受け、それでアクセサリーをつくり、近所の子どもにあげたところ喜ばれたので講座を開いてみたら、人気講座になった……という先生もいますよ」と片山さんは笑顔で話す。18年の開校以来、5年間で217講座が開催され、合計7242人の生徒が受講している。
この日は、江の島を望む片瀬西浜・鵠沼海水浴場でビーチクリーンの講座が行われた。子どもから大人まで、トングを手に散歩を楽しむように砂浜を歩きながら、ゴミを見つけては拾い上げ、袋に回収していった。この海水浴場も「ブルーフラッグ」を取得しているのできれいではあったが、それでもよく見て歩くと小さなゴミが落ちていることに気づく。海洋プラスチックゴミだ。シーグラスでつくったピアスを耳につけた参加者の三浦みきこさんは、「カンやビンのゴミは減りましたが、マイクロプラスチックのゴミが気になります」と子どもたちと一緒にゴミを拾う。友人の石橋舞子さんも、「まちでポイ捨てしたゴミが海に流れ出ていることに気づいてほしいです」と、まちなかでゴミを捨てないよう訴えていた。
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右上/片山さん夫妻もゴミを拾う。ちなみに、『湘南VISION大学』が定義する「湘南」は、葉山町・逗子市・鎌倉市・藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町・平塚市・大磯町・二宮町の9市町。左上/ゴミを拾う女性スタッフ。腰をかがめなくてもいい長いトングが便利。右下/裸足で踏むとケガをしかねない。下中央/プラスチック系のシート状のゴミ。左下/角が削れて丸みを帯びたガラス片、シーグラス。

「魚が減るのが嫌だから」と、SDGsを研究!

『湘南VISION大学』は子どもたちの学びの場にもなっている。藤沢市立羽鳥小学校2年生の阪本航愛くんは、昨年の夏休みの自由研究でSDGsをテーマに選んだ。17の目標を1つずつ調べていくなかで、目標14「海の豊かさを守ろう」の研究のために『湘南VISION大学』のビーチクリーンに参加した。「人がゴミを捨てて海が汚れ、魚が減るのが嫌だから、ゴミを拾って海をきれいにしようと思って参加しました。人が捨てたビニール袋のようなゴミを魚が餌だと勘違いして食べ、死んでしまっています。魚から人へ移っていくマイクロプラスチックも怖いです」と阪本くん。片山さんにインタビューもして、ゴミ拾いのコツも伝授してもらったそうだ。
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右上/研究レポートをまとめた阪本くん。左上/阪本くんの研究は、『子どもの文化・教育研究所』が主催した「第39回全国小・中学生作品コンクール生活科部門」で文部科学大臣賞を受賞。右下/スタッフTシャツ。左下/ビーチクリーンを行ったスタッフと参加者。
「濡れている砂浜と乾いている砂浜の境目、つまり、波が届く部分にゴミが多く落ちていると。そのあたりの砂をザルですくい、砂を振るい落とし、マイクロプラスチックを拾い上げます」と、ゴミ拾いの様子を写真と文章で伝えるレポートを見せてくれた。「これからもゴミ拾いを続けながら、海でいろいろなことにチャレンジしたいです」と元気よく話してくれた。
子どもたちの清掃活動を応援する片山さんは、学校との連携も視野に入れる。「藤沢市内の小・中学生は4万人以上。『湘南VISION大学』の講座、たとえば、総合学習の時間にビーチクリーンの講座を受けることで、地元の海を知る貴重な体験になるはずです」と、感受性豊かな子ども時代に環境を学ぶ大切さを語った。
湘南の海を好きになれば、地域を愛する気持ちも芽生える。活動を通じて、地域とのつながりも生まれる。まちと川は海とつながり、そして海は、世界とつながっていることにも気づくに違いない。

『湘南VISION大学』では、こんな講座が開かれています!

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講師に教わり、浜辺の砂で思い思いのイルカをつくる「湘南イルカサンドアート作り」。ビーチを泳ぐたくさんのイルカの姿が見られた。ビーチクリーンも実施。
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プロのビーチアスリートを迎えて、家族で楽しめる「ビーチスポーツ体験会」を開催。スポーツの後は気軽に参加できる、「海の環境教育プログラム」も実施。
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「泳がなくても海を楽しみたい!」という人にぴったりの講座「ビーチナイトピクニック」。参加者が持ち寄った食べ物を食べながらおしゃべりしたり、ヨガをしたり!
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海沿いの道に積もった砂を取り除くトンボを、エクササイズとしても活用する「トンボエクササイズ」。砂を取り除いた道とともに、心も体もきれいにリフレッシュ!

スタッフになって 一緒に講座を 企画しよう!

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伊藤美保さん(会社員)/目標があったほうが活動を継続しやすいので、「ブルーフラッグ」を目標にしているこの大学を選び、スタッフになりました。取得のノウハウを学んだので、今度は自分が暮らす茅ヶ崎のビーチも「ブルーフラッグ」の取得を目指したいです。
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白取朋恵さん(大学生)/『鎌倉ライフガード』でライフセーバーの活動を行いながら、「ブルーフラッグ」を広めたいと思い、インターンとしてスタッフになりました。由比ガ浜海水浴場で車椅子利用者が海に入れるための講座を企画しようと考えています。
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徳田龍太郎さん(会社員)/海が好きでスタッフになり、ビーチクリーンのサポートから始め、1年近くが経ちました。今年は講座を企画したいです。私は水泳やアメリカンフットボールをしていたので、ビーチスポーツに関わる講座を開いてみたいです。
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遠藤あかりさん(会社員)/海洋ゴミに関心があり、鎌倉の海で友人とビーチクリーンを行っていたところ、Facebookで大学のことを知り、参加しました。海洋ゴミをなくすには、生活のなかでペットボトルやプラスチックの利用を大幅に減らさないといけません。
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三浦一浩さん(写真家)/海のきれいな写真を撮ろうとすると、逆に汚い部分も見えてきます。自然と対峙するなかで、自然の“悲鳴”が聞こえてくることもあります。自分も含め、ゴミに関する一人ひとりの意識を変えていくことが必要だと思います。
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久保 卓さん(プロデューサー)/広告代理店に勤めていたので、企業から協賛金をいただいて行うイベントなどを担当しています。また、海の家の組合や漁協、市役所、NPOなど地域の主要な団体とのつながりを知り、海洋ゴミに限らない学びを得ています。
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廣田美夏さん(『comad』店長)/参加したきっかけは、学長の片山さんをはじめ多くの「地元中学の先輩方」が活動されていたから。海を愛し、大切に守る。そんな思いに賛同し仲間に加わりました。海に感謝し、自分にできることを続けていきたいです。
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湘南は以前と比べて、小さな子どもを連れた家族が遊べる海になってきたと思います。今、「ブルーフラッグ」をテーマにしたオリジナルのボードゲームを制作中です。大学の講座にも取り入れていく予定ですので、乞うご期待!

『湘南VISION大学』・片山清宏さんが気になる、学びを楽しむコンテンツ。

Website:海と日本PROJECT in かながわ
https://kanagawa.uminohi.jp
神奈川の海を存分に楽しみたくなるコンテンツが満載。ここからヒントを得て、『湘南VISION大学』の講座の企画を考えたり、先生をお願いしたりすることも。海を守るプロジェクトに参加してみたい方、必見です!
Radio:Kiss & Ride
Fm yokohama 84.7
「守ろう!私たちの綺麗な海」コーナーでは、海を守るさまざまな活動を紹介。海の環境問題を楽しみながら学べます。『湘南VISION大学』も取材していただき、多くの方に大学を知ってもらえる機会になりました。
Book:シブヤ大学の教科書
シブヤ大学編、講談社刊
最も有名なソーシャル系大学『シブヤ大学』の理念と授業内容を紹介。読後、前・学長の左京泰明さんに会いに行き、海の環境教育に特化した市民大学設立を着想しました。『湘南VISION大学』設立のきっかけになった本です。
photographs by Yusuke Abe  text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2023年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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