ローカルジャーナリストとして関係人口などをテーマに取材、執筆活動を行う田中輝美さん。人口減少をより深く考えられる、ストーリーラインのある選書をしていただいた。過疎が生まれた理由から、これからのひとりひとりの心の持ち方まで、時系列で追える5冊だ。
田中輝美さんが選んだ、地域を編集する本5冊
今回、人口減少というテーマで選書するにあたって、過去、現在、未来の3つの視点を考えました。❶なぜ日本の地方で過疎と言われる人口減少が起こったのか。❷人々はどう対応しているのか、またはすれば良いのか。最後に❸これからの私たちが持つべき視点は何か。この3つです。
❶は『中国山地』に詳しく載っています。1960年代、中国新聞取材班が実際に過疎の村に足を運んだルポで、高度成長期、人々が仕事も所得も相対的に得やすい都市に流出していった様子がリアルに書かれています。
1980〜90年代になると、流出の中身が変わるということが、『学歴社会のローカル・トラック』でわかります。全国的に大学進学率が上がり、進学のために都会に出て行く。この本が先進的なのは、短絡的にそれを止めるべきというのではなく、進学流出やその後の流入の構造を把握して地域が主体的に考えていきましょうと提案している点です。20年前の本ですが、時代が追いついてきて、近年ローカル・トラックを考える動きが広がっています。新装版も出ました。
そのうえで、❷どう対策をとるべきかは、『田園回帰1%戦略』が参考になります。著者の藤山浩さんによるデータを駆使した分析によると、毎年人口の1パーセントずつを取り戻すことで、人口の安定を達成できる地域や自治体がかなりあるそうです。具体的な数字がわかれば、対策も立てられます。
同じく❷の『ボーダーツーリズム』は、前著とは違うアプローチです。これまでボーダー、つまり国境が行き止まりの壁になり、人口減少に直面してきた国境地域が多かったのですが、国境を資源として捉えて、国境を渡って隣の地域へ海外旅行にも行けるようにすることで、行き止まりではなく玄関口となる。この場合は国境ですが、ほかにも「負の遺産」と見えても、活用の仕方で資源になるものは地域にたくさんあるはずです。
最後の❸は、『料理と利他』に書かれています。人口減少と同時に地球環境にも配慮が欠かせない時代ですが、私自身、そんな大きな問題にどう向き合ったらいいのか迷っていたときに、土井さんの「私たちができることは良き食事をすること」「環境問題もまな板から」という言葉にほっとしたんですよね。どんな食材を使おうか考えることは社会や自然を思うことにつながるというのです。まず自分自身が「良き食事をする」。そこから一歩が踏み出せるのではないでしょうか。