「食」をキーワードに、地域の価値や士気を高めている人たちがいます。
お話を聞いた人
大類知樹さん 『ONESTORY』代表取締役社長
横尾 年に数回、日本のどこかの場所で期間限定で開店するプレミアムな野外レストラン「DINING OUT with LEXUS」。地域の持つ魅力を引き出しつつ、新たな価値を付加していくやり方は、国内外から注目を集めています。今回はその仕掛け人でもあり、僕の博報堂時代の尊敬する先輩でもある、『ONESTORY』代表取締役社長・大類知樹さんにお話を伺います。具体的にはどのようなことを行っているのですか?
大類 地域の魅力を「テーマに沿って野外レストランという形式で表現する」という方法で、お客様におもてなしをしています。スタッフが数か月かけて地域に入り込み、歴史や文化をリサーチし、世界中から注目されるトップシェフや案内役のホストとともに、埋もれている土地の魅力を引き出していきます。そして、地域をシンボリックに表現できる場所を会場に設定し、その土地の食材を新たなやり方で提供するのです。さらに、土地固有の伝統芸能や工芸なども加え、総合的に地域の魅力を伝えています。
横尾 2012年に始まり、新潟県佐渡市、広島県尾道市など、これまで文化や歴史が息づくさまざまな場所で行われてきました。そもそもなぜ始めようと思ったのですか?
大類 事業を立ち上げた当時は、地方創生という言葉がまだマイナーで、地域を盛り上げる方法としてはゆるキャラやB級グルメが花盛り。しかしながら、どれだけ地域のブランド向上に役立っているのか個人的には疑問でした。 アドマンとして、地域の情報発信の仕方にもっと方法があるのではないか、と考えるようになったのがきっかけですね。
今は、価値創造の力が求められているのだと思います。これまで1泊2日で1万5000円だったツアーにどう付加価値をつけることで、15万円にできるか。それができれば、地域は無理をすることなく、成長することができる。地域の方々が「ここにはなにもない」と言っていたとしても、それを疑うのが僕たちの仕事。地域に埋もれているストーリーを引き出し、国内外に向けて表現していきたいですね。
横尾 特に心がけていることはなんですか?
大類 「地元の人が、地元のよさに気づき、プライドを持つこと」です。地域には、地元の人が気づいていない魅力が必ずあります。イベントを通じて地域の人たちに眠っている魅力に気づいてもらい、終わった後も彼らが継続的にそこで事業をできるようになることがゴール。だから、スタッフと数か月間(場合によっては1年以上)にわたる話し合いや、ワークショップを重ね、ていねいにみんなの意識を高めていくんです。「DINING OUT」が終わっても、地元の有志でイベントを継続したり、名産品をつくろうとする動きも出てきています。
横尾 これからの自治体に求められていることはなんだと思いますか?
大類 取捨選択する力ではないでしょうか。みんなに受け入れられるものをつくろうとすると、平均を求めにいき、結果的につまらないものになってしまいます。平均ってつまり、誰にも刺さらない施策だと思うんですよ。誰に向けてどんな施策をすれば一番効果的なのか、考え抜くことが求められていると思います。
取材後記
「日本が世界と戦う最大の武器、その答えはきっと地方にある」と語る大類さん。私は、「地方創生」によって、地域に目を向けられ始めていることはいいことだけど、似た取り組みを行った結果、どこも同じような街並みになってしまうのではと、日々感じています。そういう意味でも、地域の魅力を時間をかけて引き出せば、必ずどこにも負けないものが出てくると信じ、「地域には、高付加価値のさまざまなビジネスチャンスが隠れているから、おもしろい」と、メディアや商品・サービスの開発に取り組む大類さんは魅力的でした。地方をこれまでとは違うやり方で盛り上げようとする取り組みに、これからも注目していきたいと思います! 一度は15万円の「DINING OUT」にも参加したいなあ。 (横尾)