広場の質を変えていく小さな公共空間の実験。
日本の街にはよい広場がほとんどない。どの街にも「〇〇広場」、「〇〇プラザ」と呼ばれる場所はあるのだが、ガランとしたオープンスペースで誰もいないか、目的地に足早に通り過ぎていく人で埋め尽くされるか、そのどちらかである。大量につくられてしまったこうした「自称〇〇広場」は、日本の都市計画の未熟さを示す代表例と言えるのだが、そうした状況に果敢にチャレンジしようという動きが出てきている。
『 OM TERRACE』は、大宮駅前につくられた、非常に小さな公共空間である。機能としては、公衆トイレと駐輪場であり、屋根の上が誰でも使えるテラス状の空間になっている。設計をしたのは建築家としても都市プランナーとしても活躍する藤村龍至氏である。この建築でまず注目すべきは建築物の真ん中に道を通したことだろう。実際に訪れてみると、この道を人々が次々に行き交っていて昔からある路地のように使いこなされている。屋根の上のテラスは、何も機能がないはずだが、不思議といつ訪れても人がいる。ガラスの手すりにもたれたり、ベンチに座ったり、待ち合わせの場所としても、ぼうっと時間を過ごす場所としても、実に居心地がよさそうである。上りやすい階段が路地側と広場側と2方向につけられていて、また高さが抑えられているので、屋根の上の人も近く感じられるのがいい感じだ。エレベーターもついているし、いかにこのテラスを重要視して設計したかがよくわかる。ぼんやりとこのテラスで時間を過ごしている人たちを見ていると、この小さな公共空間が生み出しているのは、生活の「余白」、時間のゆとりのようなものであることがわかる。ラフだけど居心地がよい、これからの日本の都市空間はこうやって変わっていくのだと思う。
『OM TERRACE』
住所:埼玉県さいたま市大宮区大門町1−74−1
施工年:2017年