実際にはサーフィンをせず、そのカルチャーを愛好する“陸サーファー”。これにヒントを得て生まれた『丘漁師組合』では、漁師ではない人たちが海の課題を陸から考えようと奮闘中だ。
漁師さんとの飲み会の席で 『丘漁師組合』を立ち上げ。
水産庁のデータによれば、2017年時点のの漁業就業者数は約15万人で、一貫して減少傾向にあるという。「三重県でも毎年約450人ずつ漁師が減っていると聞き、後継者がいない、持続可能ではない状況をどうにかできないかと思って。また、漁師ではないのに漁業の知識が増えてく自分が”陸サーファー“みたいだと以前から思っていて、飲み会の席で『丘漁師組合を立ち上げます』と言ったのが始まりでした」と水谷さん。2021年4月、Facebookで『丘漁師組合』を発足を発表した。
主体になるため 課題を"エンタメ"的に。
「海のあらゆる問題は漁師さんたちだけでは解決できないので、消費者が課題を考えるフィールドが別に必要だと思って立ち上げました。それに、消費者と一括りにするのはよくなくて、個々人は何かのプロフェッショナルであるはず。海の業界だけれど考えるとたくさん関わりしろがあって、それはデザインかもしれないし、投資かもしれない」と水谷さん。
ここで、海をめぐる事象や背景を伝えて問いかけるスタンスを取るのには理由がある。「具体的なことではなく、その手前にある『自分ならどう解決するか』を意識的に発信しています。一方的に与えられた課題では楽しくなくなり、スモールステップでも関わっていいとなれば自然と名乗り出します。課題と楽しさをどう両立させるか。大喜利的にテーマを投げて、乗ってきたのが名古屋市内にある『FabCafe Nagoya』でした」。
世界では漁獲されたのに魚が廃棄されているという問題がある。未利用魚・低利用魚の利用が進めば、漁獲従事者の利益を確保するだけでなく、利益確保のための獲り過ぎによる資源枯渇を防ぐなど、持続可能な漁業につながる。そう水谷さんが組合で伝え続けたところ、『FabCafe Nagoya』がこれらを活用したメニューを提供したいと手を挙げた。そこで水谷さんは、店舗のマネージャーを漁業の現場に連れて行った。「船に乗って漁を見学して漁師さんと話をすると物事の解像度が上がり、人や地域に関心が向く。自分の仕事は、両者をつなげるまで。取引にまで至れば、あとは自分たちで動くようになりますから」。ただし、両者を紹介し合うだけでは物事は進展しづらい。「お互い聞きにくいこともあり、話を進めるには共通言語が必要です。『FabCafe Nagoya』の場合、大きなまな板や魚をさばける包丁もなく魚を丸のまま送ったら困ることが分かりました。そうなると、加工業者と連携している事業者とつなげる必要が出てきたりします」。海の現状を伝えることに加えて、組合のもう一つ大事な役割が見えてきた。
海をさらに知るために、 両者をつなぐ役へ。
水谷さんは、『丘漁師組合』が海を守ることが当然となるような”概念“になることを目指している。「自分で遊びをつくる瞬間が楽しいので、情報を与えられて”客体“になるのでなく、自分でやりたいことを考えて”主体“になるのが大事。こう行動すると重要な課題に早く到達して、世の中がよりよい方向に動き出すと思います」。これには時間がかかるかもしれないが、確実に世の中を変えていく力強さがある。そう伝えると、「難しく考えずにまずは漁村で遊んでみて」と言われそうだ。
記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。