経済産業省のデータによると、日本にある約421万の企業のうち、いわゆる「中小企業」の占める割合は実に99.7パーセントにのぼると言われています。中小企業の経営者に向けた教育やコンサルティングを行っている株式会社ワールドユーアカデミーは農業・文化・教育・経済の4つを柱として、数多くの問題を抱える日本の現状を変えたいと活動を続けています。経営者らによる「ヒーローズクラブ」をつくり、「経営を冒険として楽しもう!」と呼びかけ、さまざまな取り組みを行っているワールドユーアカデミーについて、同社の代表を務める仲村恵子さんにお話をうかがいました。
子どものヒーローになる経営者の集い、それが「ヒーローズクラブ」
仲村恵子さん(以下、仲村) 中小企業の経営者は、数字のうえでは利益が出ていて順調に見えても、多くの方がその内面に孤独や不安、焦りを抱えています。「なんの為に、なぜ働くのか」、「自分の人生とは何か」といった答えの出ない問いを突き付けられていると言えるでしょう。私自身も、かつて同じ悩みを抱えていました。
そして、あるとき大学に招かれて講義をしていて、この問いをこれから社会に出る学生たちに抱えさせていいのかと考えたとき、学生が働くこと、生きることに夢を見られる社会づくりが必要だと気づいたんです。そのためにはいま社会に出ている大人が子どもたちに希望を持たせ、憧れられる存在、つまりヒーローにならなければいけません。希望とは未来を語る力です。子どもたちの未来は大人であり、大人の未来もまたその次の世代の子どもにかかっています。そして大人と子ども、どちらが先に明るい未来を指し示す存在になるべきかと考えると、それは大人であると思います。まず私たち大人が「どうせ無理」という言葉を超えて、子どもたちが将来大人になるのが楽しみに思えるような、まるでヒーローのような存在になることを目指すことが大切です。
日本企業の99.7パーセントは中小企業です。その中小企業の経営者である大人がヒーローを目指し、世のため人のために志を持って行動し、企業を動かす「志経営」を学び、ヒーローになるための場所としてワールドユーアカデミー、そして「ヒーローズクラブ」を設立しました。
仲村 横浜で食品会社の二代目社長をやっている方がいるのですが、この方はすでにある会社を守り、維持することに追われていました。見た目上、経営がうまくいっているようでも「少しでも弱みを見せてはいけない、見せたら食い物にされる」と心身はすり減り、社内に相談できる人員もいない、そんな状況でした。それではとてもヒーローとは言えませんよね。その方は人づてに私たちのことを知って「ヒーローズクラブ」に参加されてもう15年近くになるのですが、都会を離れての内省・内観などを経て、背中を預けられる仲間ができたことで、ようやく心の内を共有してくれるようになりました。
中小企業の力を結集する「豈プロジェクト」
仲村 いまの日本は深刻な問題をたくさん抱えています。先に述べた、子どもたちが社会に希望を持ちにくい状況であることもそうですし、ここ数年の新型コロナウィルス感染症の影響を受けた経済の低迷もあります。この現状を変えるためには、中小企業の力を結集させることが重要です。
しかし、これも先ほど触れましたが、本来企業の経営者が、自社の垣根すら超えて“結”の精神で、仲間として助け合うことが具体的にできるとはなかなか想像もできないのが普通です。そこで経営者を中心に全社員が手を取り合って、1社ではとてもお金・時間・人の制限があってできないことを、各社少しづつ助け合い日本の農業・文化・教育・経済の4つの分野でさまざまな取り組みを進めていくこと、それが「豈プロジェクト」です。いわば「ヒーローズクラブ」で学び、成長した中小企業の経営者=ヒーローたちによる実践ですね。
仲村 農業の分野では2022年より栃木県・塩谷町でブランド「神宝米」の有機栽培に取り組んでいます。現地の生産農家さんと「ヒーローズクラブ」のメンバーが協力しての取り組みです。2022年11月には塩谷町と地域活性化包括連携協定を結びました。いまでは「神宝米」は塩谷町のふるさと納税の返礼品にもなっています。また、2023年からは新たに鹿児島県の屋久島で耕作放棄地の再生を目指し、茶畑を復興させる取り組みも始めました。
仲村 教育に関してはこれまでに述べたとおりです。「ヒーローズクラブ」に参加してくださった企業経営者の方たちには「志経営」ということを強く伝えています。「大志」という言葉があります。皆さんも考えてほしいのですが、いまこの言葉を自信を持って使える人がどれだけいるでしょうか。
しかし本来、自分の持つ「大志」を語れないこと、こちらの方がおかしいんです。企業経営を通じてお客様や社員だけでなく経営者自身もウェルビーイングな状態になり、それが社会貢献につながっていく。仲間とともに楽しく成功するのが「志経営」です。
その姿を次の世代である子どもたちが見ることによって、社会や自分の人生に希望を持てるようになる、この連鎖を生み出すのが「ヒーローズクラブ」の教育です。
「ヒーローズクラブ」は一時代だけでなく、持続していくコミュニティに
仲村 日本という国は、昔から何度もピンチに陥ってきました。そんななかで、常にその逆境をはねのけてきた人たちとして「近江商人」の存在があると思います。企業の経営姿勢でよく言われる「三方良し(売り手、買い手、社会の3つすべてに良いということ)」の言葉も、近江商人が由来だと言われています。つまり「ヒーローズクラブ」のやっていることも、その源流には近江商人のスタンスがあるわけです。なので、私たちの取り組みは今、ここだけでできるものではなく、日本人が昔からやってきたことであるということです。だから「ヒーローズクラブ」が今だけのものでなく、今後も新しい方が加わり、そしていずれは日本を飛び出して世界ともつながるコミュニティになっていってくれればと期待しています。
志経営コンサルタント
株式会社World U Academy 代表取締役
ヒーローズクラブ・豈(やまと)プロジェクト主宰
一般社団法人 日本中小企業経営審議会 代表理事
数字を追いかける経営から「人生も仕事も繁栄する」社会に貢献し応援される経営へ。「考え方をシフトする」独自のプログラムを開発し、志経営を実現する中小企業の学び舎を運営。
近年は、日本本来の皆で助けあう「結の精神」を復興し、志を中心に中小企業が各社の垣根を超えて、日本の課題「農業・教育・文化・経済」の繁栄に具体的に取り組む、豈(やまと)プロジェクトを全国で展開している。