地元の福井県を中心に、まちの未来を生み出すさまざまなプログラムなどに関わる坂田守史さんが選んだのは、その思考や哲学、そして生活への態度を感じさせる5冊。読んだ人の視座を変え、より深い思考へと導いてくれます。
選者 category:デザイン
関係人口についても同様で、個人の可能性を開く環境をつくることが大切ではないでしょうか。一方通行ではなく、関わった人たちの視点や考えにどのような変化があるかがポイントになると思います。
デザインは近年非常に広義な意味になっていますが、今回はそうしたデザインについて学べる5冊を紹介します。特に基礎になると感じている本が2冊あります。1冊が、『イバン・イリイチ』です。思想家のイリイチ氏は、目指すべき新たな社会として「コンビビアリティ(自立共生)」という言葉を用いています。自立共生のため、希望を外側に求めるのではなく自分のなかにつくり出して持ち続けることや、異質なものと出合ったときに、お互いに尊重し合って交わると人の創造的な行為を生み出せることなどを説いています。
もう1冊は、サービスデザインとサスティナブルデザインの世界的リーダーで、近年はソーシャルイノベーションに焦点を当てているエツィオ・マンズィーニ氏の『日々の政治』です。自分がいる場所から世界を変えるソーシャルイノベーションについて綴られています。
今は、「公共」が問われている時代だと思います。行政だけに預けていないか、ローカルに異なる視点をどう持ち込むのか。マンズィーニ氏は、政治は与えられるものではなく、自分たちで生み出す日々の政策なのだと説いています。それをつくるとき、どういうデザイン性がいいのか教えてもらえる本です。自主的にコモンズをつくり、運営するときのデザインの姿勢について学べました。
ほかに紹介した3冊は暮らしやローカルに関するものです。今は地域やコミュニティのあり方が激変する”前段階“にいると思っています。そして僕らは、地域で育んでいくもの・守りたいものの判断をする世代。だからこそ暮らしが大切なのです。
─問われ始めた人生八十年時代の幸福論
小塩 節ほか著、松田義幸編、PHPエディターズグループ刊
松村圭一郎著、ミシマ社刊
─世界を魅了する〈意味〉の戦略的デザイン
安西洋之著、晶文社刊
教育や医療、交通などの分野で、過剰適応が生活の自立の基盤に破壊をもたらすと告発してきた著者が、深まる思考を展開。行きづまる産業文明を超える希望についても語られていて、その姿勢は多くの人の学びになるはずです。
日々の政治 ─ソーシャルイノベーションをもたらすデザイン文化/エツィオ・マンズィーニ著、安西洋之ほか訳、BNN新社
日々の政治とは、日常にある小さな出来事と選択のこと。一般市民がいかにデザイン能力を伸ばし、より大きな政治・社会変革に関与しうるのか、その道筋を示しています。パブリックデザインについて学べる一冊です。