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いつかの好機に備える。

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先日、若い友人が、「私も周囲の子も、夢はないけど絶望もしていないんです」と笑いながら話をしてくれた。思春期を”自粛“という形で奪われた彼らが、そう感じるのも無理もない。絶望は心の温もりを徐々に奪う。思うに、彼らは絶望していないのではなく、絶望の底で、苦しみを感じられなくなっているのではないだろうか。

 1997年生まれ、カリフォルニア出身・在住の竹田ダニエルは、著書『世界と私のA to Z』の中で、多様な価値観を持つZ世代を、一括りの世代論として語る矛盾を指摘している。そのうえで大切なのは、膨大な情報とのつながりを駆使し、自分たちの世代で物事を変えていこうという、当事者意識を持ったZ世代的価値観であると指摘する。遠い未来に無責任な希望を託すのではなく、目の前の小さな問題の解決に尽力する。そんな堅実な向き合い方は、田舎で昔から続いてきた営みとどこか似ている気がする。

周囲を見回すと、日々を懸命に生きる人々が、たくさんいる。彼らは、先祖代々続いてきた営みを、誇りと安心の根拠にして、事態が好転すると信じている。民藝においても、品々が普通であることが尊ばれたが、それは、いつの時代も庶民の日常が、過酷な現実から立ち直る強さを秘めていることを道具の内に見たからだ。絶望と向き合う人々の暮らしが美しいのは、働き者の道具が手入れされた田畑のように美しいことと、どこか通じている。

『世界と私のA to Z』

 (166908)

竹田ダニエル著、講談社刊
朝倉圭一
あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。
text by Keiichi Asakura

記事は雑誌ソトコト2023年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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