「微住®︎」を発信している生活芸人の田中です。もともとは台湾からの訪日外国人が日本のローカルを味わうための旅の形として我が生まれ故郷・福井県で発起したこの旅。コロナ禍の逆境にも負けず、むしろ日本人同士のローカル旅としても同じようなイズムを持った日本の他地域へカルチャーが広がりつつあります。
金山の“時間”を味わう『微住®︎』、クリエイター集まる。
今回の舞台は山形県最上地区金山町。このまちは微住とピッタリだと感じたのは、このまちのプロジェクト「K-hour」で“金山の時間”を軸にまちの魅力を発信する金山町役場の丹健一郎さんとの出会いからだ。今回は「クリエイター×微住」をテーマに全国から募集し、5名のクリエイターとともに1週間の「金山微住」はスタートした。
クリエイターが地域でかわす「小さな約束」
2年前私は一度金山町を訪れたことがあったが、その時は1泊2日の滞在だったため、丹さんに連れられ、まちを案内してもらった。どんなまちであろうと、短時間でまちのことを紹介するためには、案内する側もいかに効率的に綺麗にまとめなくてはならない。だからこそ、正直言うと当時の金山町への印象は「へぇー、素敵なまちだな。」止まりだった。小さなまちであればあるほど、誰もへ伝わるはっきりとした魅力は数が決まっていて、それを巡っただけではその地域の本当の魅力はわからない。
ただ今回は違う。時間を気にすることなく、ゆっくりとまちを歩く。微住者の1人である絵本作家の稲葉野々さん。まちを歩いているとたまたま子育て支援センターの先生たちと遭遇。ちょうど翌日に子どもたちの誕生日会があるからと、是非絵本の読み聞かせをしてほしいという話になった。
渡部さんとお話をしていると、なんと彼は金山のまちへの想いをうたう演歌歌手としても活動しており、確かにまちの至るところに彼のポスターを見かけた。是非曲を聴きたいとお話すると「デーブイーデー(DVD)は電気屋にある」と近所の「ホーヤマヤデンキ」のテレビでMVを見せてもらった。驚いたことに作曲や作詞、撮影などもみんな金山町のおじちゃんたちのコラボ。自らの暮らしを「つくる」ローカルの先輩たちとの出会いこそ微住で大事にしたいご縁だ。
微住で大事にしている一期一会ではなく“一期三会”。「また明日会いに来ます」と小さな約束を繰り返す。何かを大きく“変える”ことはできないけど、日々の時間の中で小さな約束を“交わす”そんな日々を繰り返しが、金山の本当の地域の旨味を味わえる方法なのだと思う。
地域に弟子入りする「タメづくり」
今野くんは岸家具に弟子入りをし、稲葉さんはお世話になったまちの皆さんの似顔絵と名言を添えたポストカードを、写真家の森本絢さんはまちの展示会の記録写真の撮影を…それぞれができることや得意なことで地域の「タメ」づくりをしながら、普段の旅では越えられない“一線”を越える関係になっていった。
微住者×地元民の「即興」が生んだ演歌ユニットデビューへ
写真家の森本絢さんとデザイナーの渡邊大路さんがポスターを、そして映像クリエイターの内海悠くんはミュージックビデオを滞在中に作ろうと、予期せぬ形で金山微住は面白い方向に動き始めた。
演歌ユニットとなった棟梁と稲葉さん2人の練習場はホーヤマヤデンキやまちのカラオケスナック。ポスターとMV撮影は美しい金山杉が広がる大美輪の大杉にて。このコラボは微住者たちだけの力ではない。衣装の提供は岸家具の奥さんからお借りし、着付けとヘアセットは「cafe 草々」の店主の阿部さんにお願いした。なんと阿部さんはかつて着付けの先生をしていたという腕前。微住者と地元の皆さんのそれぞれの得意分野が即興で見事に形になっていった。
微住から生まれた奇跡の演歌デュエット『わが里』MV〜山形県金山町〜
金山に、我が“ゆるさと”あり
2年前金山からの帰り道とは違う“かんづ”が心にあった。それは我が”ゆるさと”をおもう気持ちだろう。
また会いに行きます、金山。
田中佑典|福井県福井市出身。職業、生活芸人。アジアにおける台湾の重要性に着目し、2011 年から日本と台湾を行き来しながら、台日間での企画やプロデュース、執筆、クリエイティブサポートを行う“台日系カルチャー”のキーパーソンとして活動。日本と台湾を行き来する中で、地方創生の方面にて福井発祥の新しい旅の形『微住®』を提唱。2018 年度ロハスデザイン大賞受賞。2020 年、2021 年と徒歩で福井県 17 市町を巡る『微遍路』を実施。各地域での出会いやその 地域でまだ知らない魅力を発掘する様子が反響を呼び、各メディアにて取り上げられる。現在は福井県内だけに問わず、県外の行政ともタイアップするなど『微住®』の活動を広げる 一方、今後の未来で価値となり得る生活の考え方や暮らし方を様々な形で日々発信している。