水族館は、私たちが海の生物や生態系について楽しく知ることができる場所です。魚が大好きで、愛知県蒲郡市にある『竹島水族館』の館長を務める小林龍二さんに、海や海の生き物たち、そして水族館について理解を深める本を選んでいただきました。
少し前の『竹島水族館』の飼育員たちは、魚の様子は見ていても、来館者の様子は見ていなかったので、解説板を素通りしていたり、楽しめていない展示やコーナーがあることに気づけておらず、実際来館者数も減り続けていました。しかしどう工夫すれば来館者に喜んでもらえるのか、わからずにいました。
そんなときに読んだのが『水族館哲学』です。僕の水族館人生を変えたと言ってもいいほど影響を受けました。著者の中村元さんは、水族館プロデューサーで、いろいろな水族館の運営に携わっています。経済学部出身で、水族館については専門外。水族館のことを学びながら、来館するお客さんに近い目線を取り入れ、お客さんが何を求めていて、それにどう応えるのかさまざまなアイデアを出して、実現させていきます。なかでも、「お客さんが見にきているのは魚ではなく、水の世界やその浮遊感だ」という内容が衝撃的で、水族館を運営するうえでの考え方やヒントをたくさんもらいました。
水族館に来る目的は人それぞれですが、私たちとしてはやはり海や魚について興味をもってほしい、知ってもらいたいと考えています。そのために飼育員たちが手書きの解説板を作って、魚の特徴や性質、ときには私たちが食べたときの味も伝えています。そんな魚好きの僕たちでも知らない魚の世界を教えてくれたのが『魚たちの愛すべき知的生活』です。魚たちが社会生活を営んだり、人間と交流を図ろうとしたり……。そんな彼らの豊かな内面の世界が紹介されています。今まで魚を見ていたはずなのに、実は見られていたのでは、という不思議な感覚を味わいました。この本を読んでから水族館を訪れると、これまでとはまた違った体験ができるかもしれません。そして、人間とはまったく違う生き物だと思っていた魚にも、個性や社会性といった共通点があることに気づけば、自分以外の他者に想像力を働かせるきっかけになると思います。それはSDGsについて考えることにもつながるはずです。
記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。