今、自分の家の中に愛着がある生活用品はどのくらいあるだろう? 『YARN HOME』のデザイナーである荒川祐美さんがセレクトしてくれた本を読むと、自然とそんな問いが浮かんでくる。暮らしのそばにあるものに思いを巡らせよう。
『YARN HOME』デザイナー|荒川祐美さんが選んだ、ウェルビーイングを感じる5冊
暮らしに生活用品を新しく取り入れる際は、経年変化を楽しめるもの、目にしたとき・触れたときに気持ちが上がるものといった基準を大切にしています。愛着があるものに囲まれている暮らしは心地よくて、幸せなものだと実感しているからです。私はホームファブリックブランド『YARN HOME』のデザイナーとして日々ものづくりと向き合っていますが、『YARN HOME』のプロダクトも自分がものを選ぶときと同じような感覚でお客様に選んでいただいたり、愛着を感じてもらえたりしたらうれしいですね。
こうした考えは、歴史あるイギリスの田舎まちで暮らした経験や、さまざまな作り手の方との出会いや考えに触れてきたことで、少しずつ培われていきました。そのなかで影響を受けた一冊が『ききがたり ときをためる暮らし』です。著者のつばた英子さんとしゅういちさん夫妻のことは、ドキュメンタリー映画『人生フルーツ』を観て知りました。「ときをためる」という言葉は文中にもよく出てきます。素敵な人の暮らしを見たり、いいものを知ったりすると、すぐに手に入れたくなってしまいますが、欲しいものを一気に揃えるのではなく、1つずつ大切に揃えていけば、いつか自分の宝物で満たされた空間になる。それが「ときをためる暮らし」だとお二人は教えてくれます。情報やものがすぐに入手できる時代の中で、深呼吸して一度立ち止まる時間をつくる大切さを思い出させてくれる”おまじない“のような言葉です。お二人の暮らしを知ると歳を重ねることに対してもポジティブな気持ちになれます。
日野明子さんの著書『台所道具を一生ものにする手入れ術』は、私が使っている台所道具のお手入れの教科書です。木の道具、土の道具、金属の道具などに対するお手入れ方法が紹介されています。木のカトラリーといった簡単なお手入れから始めてほかのものへと広げていくうちに、だんだんお手入れの習慣が自分の中に溶け込んでいきました。初めて使う素材を長く使い続けるための方法から、使い続けるうちに起こる経年変化への対応についてまでていねいに書かれているので何度もページをめくっては読み直しています。家の道具のすべてをすぐに逸品にすることはできないけれど、揃えていくなら次はこの本に載っているこれにしようと参考にしています。理想とする暮らしをイメージして生活用品を選び、大切に使うことは心を豊かにしてくれると思っています。
▶ 『YARN HOME』デザイナー|荒川祐美さんの選書 1〜2
▶ 『YARN HOME』デザイナー|荒川祐美さんの選書 3〜5