熊本空港から車をしばらく走らせると目の前に広がる、熊本県阿蘇市の草原。まるで人類の生まれるはるか以前から存在するかのような景色だが、実は「人の手」によってつくられてきたものだ。
草原をそのまま放置すれば、伸び続けた草木がやがて森に変わる。その“森林化”を防ぐため、阿蘇の地では毎年春先になると、野焼きが行われてきた。焼かれた後には火に強い植物の種だけが残り、夏には青々とした草原となる。平安時代の法令集『延喜式』にはすでに「阿蘇の牧野」と記されていて、1000年以上前から人の手が加わり、草原は存在したというのだ。
草原は、人々にさまざまな恵みを与えてくれる。刈り取った草は、茅葺き屋根の素材や田畑の肥料に。草原は、地元固有種の「あか牛」をはじめとする牛馬の放牧地に。草原があるからこそ、さまざまな循環が阿蘇の地ではめぐり続けてきた。そして、草を食む「あか牛」の姿は、いまなお循環が続いていることを教えてくれるのだ。