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場づくり・コミュニティ

立ち止まり、思いやる。 朝倉圭一

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今日は、午後から涼しかったので、裏山の小道の草刈りをした。道の先には友人の別荘がある。頼まれたわけではないが、前任者のお爺さんが亡くなって以来、草を刈り、雪を避けて道の維持をするのは、僕の役割になった。

『ケア宣言』は、ロンドンに拠点を置く研究者グループが、ケアを顧みることのない今日の社会に警鐘を鳴らした一冊だ。ケアとは、心遣い・介護・世話をすることを意味する言葉だ。目に留まったのは、私たちが普段、生活するために頼っている土地や水や動物たちを、親戚だと捉えるネイティヴ・アメリカンの思想を、ケアの基礎に据えて論を展開していることだ。

我々は、自然や周囲との良好な関係を築かなければ生きていけない。資本主義は、本来、不安定なそれら環境を抑制し、計画的にコントロールすることで繁栄してきた。しかし、それももう限界だ。残念ながら時代に効く特効薬はない、しかし、未来のためにできる備えならある。

「なにかあったら葛飾柴又の俺の家を訪ねな」。映画『男はつらいよ』のセリフだ。寅次郎は、人生の決断に迷う人に、そう声をかける。どれだけ辛くても、安心して帰れる場所さえあれば、人はゆっくりと立ち直ることができる。安心できる居場所を持ち、そこを守ることは、ケアの実践、未来の始まりだ。草刈りを終え、汗を拭う。振り返ると、新しい道に、優しい風が吹いた。

『ケア宣言―相互依存の政治へ』

 (124241)

ケア・コレクティヴ著、岡野八代ほか訳、大月書店刊

朝倉圭一
あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。
移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。

text by Keiichi Asakura

記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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