農業などの一次産業の振興と発展に取り組む一般社団法人食農健。食糧自給率が低調に推移する中、一次産業の魅力をどう訴求し、盛り上げようとしているのか。食農健を設立した経緯と主な活動内容、農業に対する思いを、代表理事の大島佳季雄氏に聞きました。
食糧自給率改善に向けた活動に注力
食農健を設立した経緯について代表理事の大島佳季雄氏は、「命の根幹である『食』への関心の薄さに危機感を覚え、状況を変えたいと思った。日本の食糧自給率(カロリーベース)は38%にとどまる。これは先進国の中で最下位の値だ。こうした日本の現状を理解してもらうとともに、健康な日常を維持するための知識や情報を積極的に発信することを目指した。農業や漁業などを普及・啓発し、健康管理に対する意識の高揚を社会全体に広めたいと願った」と言います。事業分野を異にする加盟企業などと連携し、新たな事業領域を築いて共益性を追求することをビジョンに掲げます。
そんな食農健が注力して取り組むのが「かかしプロジェクト」です。農業や食糧の課題解決を目的に、国や地方自治体、企業、団体、生産地などと連携した啓発活動です。2021年1月には「かかし市場」という販売イベントを開催。これは、新型コロナウイルス感染症によりインバウンドや外食需要減少の影響を受けた国産農林水産物などを食べて応援しようという、農林水産省の補助事業である「#元気いただきますプロジェクト」の一環で実施したイベントです。ショッピングセンターのイオンレイクタウンやスーパーマーケットチェーンのサボイ9店舗で2週間にわたって農作物などを販売しました。「農家が育てた生産物、漁師が獲った水産物を多くの人に届けたい。そんな思いでイベントを実施した。これらを直接目にする機会を増やすことで、農業や漁業に関心を持ってもらいたかった」(大島氏)と言います。食農健では今後も「かかし市場」の名称を使ったイベントを展開していく考えです。農作物などを販売するための場としてではなく、企業や一次産業従事者などが集まるコミュニティとして利用することも視野に入れます。
六次産業を創出する体制構築を支援
大島氏は、食農健がこうした考え方を支援する役割を果たすべきと考えます。「一次産業従事者が加工工場を自前で構えるのは難しい。二次産業や三次産業従事者との有機的な連携が六次産業の創出には欠かせない。ではどう連携させるのか。そのときの橋渡し役となるのが食農健だ。当団体は150社超の加盟企業によるネットワークを持っているのが最大の強みだ。加盟企業の中にはITに精通する企業、流通向けプラットフォームを提供する企業もある。こうした企業と一次産業従事者のマッチングを支援すれば、農作物などに付加価値を付与できるはずだ」と、食農健の強みを強調します。生産する従事者、加工する従事者、流通する従事者などが、それぞれの強みを武器にしつつ、それらをワンパッケージで提供する体制づくりを支援します。「各産業の従事者が自分たちの専門分野の強みを生かすことが大切だ。“餅は餅屋”という考え方こそが六次産業創出の鍵になる」(大島氏)と言います。食農健では、二次産業や三次産業従事者との連携強化による農林水産業の振興も図っていく考えです。
なお、食農健では生産物をどう消費者に届けるべきかも視野に入れます。「消費者が必要なときに必要な分だけ届ける仕組みづくりを模索している。『ミールキット』のように必要な分だけ届けて消費してもらう提供形態を準備したい。さらに、YouTubeやテレビドラマの食事シーンなどで映っている食材をその場で買える仕組みづくりも興味深い。若い世代に対して生産物をどう訴求すべきか。新たな消費者をターゲットにした斬新な施策も検討したい」(大島氏)と意気込みます。
食材の価値を付与した情報発信を目指す
「自給率低下」という危機感をあおるだけの情報発信も好ましくないと大島氏は続けます。「食農健を設立した当初、食糧自給率が低いから現状を変えるべきという情報を発信していた。しかし今では、適切な取り組みではなかったと反省している。危機感をあおるだけでは情報の受け手は楽しくない。ネガティブな情報ではなくポジティブな情報こそ魅力が伝わるのではないか。最近はこうした情報を積極的に発信している。これがSDGsの取り組みと合致し、消費者も有意義な取り組みであると気付いてくれるに違いない」と言います。
支援の手を広げて農業振興を図る
さらに、一次産業に関わる事例を多く発信したいと大島氏は続けます。「農業や漁業などの最新情報をできるだけ提供するのが食農健の努めだ。そのためには加盟企業はもとより、多くの一次産業従事者とのネットワークを構築し、さまざまな情報を発信できる体制も強化したい。一次産業従事者の新たな取り組み、連携の動きなどの事例を世に届けたい」と言います。
誇張のない現状をありのまま伝える…。これは、大島氏が食農健を設立してからこれまで貫き通してきた姿勢です。こうした大島氏の真摯な姿勢こそ、多くの消費者に農業を知ってもらうためには大切な考え方なのかもしれません。