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連載 | リトルプレスから始まる旅 | 66 THE LAST DRIVE

 今回紹介するリトルプレスは、ハガキサイズの小さな写真集『THE LAST DRIVE』。発行部数は85部。


 85歳になり運転を引退することにした祖母が運転する車の最後のドライブを、飯塚純さんが助手席に同乗して撮影した一冊。


 表紙の写真には、バックミラーが映り込み、前方に見える土手には帽子をかぶった夫婦が散歩しているように見える。映り込む木々は、冬のシルエットを感じ、遠くの山も薄く白化粧をしていることから、冬であること、雪の降るような地域であることがわかる。色もどこか沈んでいるような、場所の静けさも伝わってくるように思える。


助手席から見える風景が、 少しだけ違って見えた。
助手席から見える風景が、少しだけ違って見えた。

 表紙をめくると最初に出てくるのは、オレンジ色の軽自動車。家の前の駐車スペースに停められた車のボンネットには、もみじマークが貼られている。次のページには、少し小さなハンドルを握る祖母の手。しっかり、10時15分の方向で握っているように見える。


THE LAST DRIVE


 その次のページには「THE LAST DRIVE」のタイトルの文字。映画のように構成され、これ以後、奥付まで文字はない。


 前方にワンボックスカーの後部が見え、防音壁に囲まれた片側2車線の自動車専用道路の高架部分を走る。ほかに車は見えない。


 しばらく走り、周りに灌木や鉄塔が見える。


 前方にはトラック。遠くに何台かの車も見える自動車専用道路。


 電柱が並ぶ、地元の商店街の狭い道。人影はなく、のぼりや、消火栓の表示。看板は少ない。左側の店舗はシャッターが閉まっている。右手には住宅街、左手に大きな木が並ぶ道。ここにも人影はない。


THE LAST DRIVE


 写真は続き、バックミラーに映り込む祖母の顔、レンガ造りの門柱、郵便局、プレハブ住宅、遠くに見える山が近づき、ススキ野原が画面に広がる。


 やがてハンドルから手を下ろした写真の後、色褪せたもみじマークがアップになる。


 奥付の後に、車のなくなった駐車スペースが取り残される。


 高齢ドライバーの事故が注目されるようになって始まった運転免許証の返納制度。


 『THE LAST DRIVE』を読むと、この制度によって、日常として当たり前にあるものを失うことがどういうことなのか、気づかされる。


 年齢からくる衰え以外に、車を運転することの意味や、地域とのつながり、そこで営まれる生活そのもの。


 高齢者による事故から人々を守る方法は、免許証の返納だけでなく、自動運転と規制緩和による技術革新、道路の安全設備の拡充、高齢者への運転補助や代替手段の提供など、ほかにもできることがある。


 免許証の返納という方法でしか、安全を担保できない社会が失うものは多い。


『THE LAST DRIVE』発行人より一言


『THE LAST DRIVE』発行人より一言


 作家の飯塚純さんとはほかにもいくつかの写真集を出版しています。テーマに合わせて形態、編集方法を変え、少部数でも継続して発行することに重点を置いて制作しています。個人的なテーマを扱いつつも、どこか見ている人の記憶にも繫がる要素を持っていると思います。


今月のおすすめリトルプレス


THE LAST DRIVE


『THE LAST DRIVE』


 祖母が運転する最後のドライブを、助手席から撮影した写真集。


写真:飯塚 純、デザイン:相島大地、発行:DOOKS
2017年4月発行、148×105ミリ(50ページ)、1620円

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